前作の映画超える傑作もあれば、やっつけ仕事の作品も…「続編映画」の歴史

78年6月、「スター・ウォーズ」第1作が公開された東京・有楽町の日劇には長蛇の列ができた

<ニュースの教科書>

異色ホラーの続編「ドント・ブリーズ2」、人気アニメ第29作「クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園」…今年の夏は計15本の「続編映画」が公開されました。余韻の残るエンディングに、その続きを見たくなるのは人情ですが、コロナ禍の手堅い興行という側面もあるかもしれません。第1作を超える傑作もあれば、二匹目のどじょうを狙っただけの作品も。「続編」の歴史をひもといてみましょう。【相原斎】

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往年の名監督ジョン・フォードが撮った「リオ・グランデの砦」(50年)の製作過程には、現代に通じる続編の作られ方の典型があります。

「リオ-」には2年前の「アパッチ砦」の主人公、カービー・ヨーク大尉(ジョン・ウェイン)が中佐に昇進して登場します。間違いなく続編の体裁をとっているわけですが、そもそも製作されるはずのなかった作品なのです。

当時のフォードは、自らのルーツであるアイルランドを舞台にした人情喜劇「静かなる男」の製作に前のめりでした。ところが、契約していた映画会社の社長は文芸色の濃いこの企画に首を縦に振ろうとしません。話し合いの結果、次作をヒットさせたら、次々作に「静かなる男」を、ということになりました。

フォードはこの前年にも「黄色いリボン」を当てていて、騎兵隊ものには定評がありました。そこで、確実な動員を見込める作品として、ヒット作「アパッチ砦」の「続編」製作が急きょ浮上したのです。現場のクリエーティブな思いを抜きに、ひたすら当てることだけを目的に作られたのが「リオ-」だったのです。

妻役は「アパッチ砦」と同じモーリン・オハラ。製作費は「アパッチ砦」の半分だったため、アクションシーンを減らして、息の合ったコンビによる夫婦愛や家族関係の要素を膨らませました。結果は大ヒット。フォードは約束を果たし、おまけに費用対効果も抜群でした。2年後の傑作「静かなる男」は、こうしたいきさつから日の目を見ることになったのです。

「続編」は新しいものを追求する製作現場より、確実な興行を望む映画会社側の意向をくんで作られることの方が多いのです。

60年代半ば、「日本侠客伝」「網走番外地」「昭和残侠伝」の人気3シリーズが同時進行していた超売れっ子、高倉健は「ワンパターン量産」に「正直、疲弊する」と周囲に漏らすこともありました。が、後に東映社長となる岡田茂撮影所長は「批評家連中は同じパターンが3本続けばあくびをする。だけど、観客の顔を見てごらん。まだまだワクワクドキドキしているよ。やめる必要なんてない。(興行的に)コケたらやめればいい。コケるまでは続けろってことだ」と譲りませんでした。

実際、自分の作品の上映館に人知れず足を運んでいた高倉は、満員の観客の熱気をジカに見ることでシリーズ作品へのモチベーションを維持していたそうです。

現在公開中の「孤狼の血 LEVEL2」(白石和彌監督)は、3年前の第1作の続編ですが、往年のシリーズ作のようなマンネリ感はありません。スタッフ、キャストの熱気が感じられる快作です。前作で新米刑事を演じた松坂桃李が主演に「昇格」。悪役の鈴木亮平のすさまじい演技も加わって、かなりグレードアップした印象です。

製作現場の思いと映画会社の狙いがうまくかみ合えば、第1作を超えるパワフルな作品が生まれるのもまた事実なのです。

ハリウッド映画にわかりやすい例があります。09年、英誌「エンパイア」が「史上最高の続編映画50本」を発表しました。

そのベスト3は<1>エイリアン2(86年)<2>ゴッドファーザーPART2(74年)<3>ターミネーター2(91年)です。

「エイリアン2」はホラー映画の匂いが強かった1作から一変、アクション活劇の趣がありました。「ゴッドファーザーPART2」は第1作の前と後をていねいに描き、歴史大作のような仕上がりでした。この作り方は「クワイエット・プレイス」(18年)の続編で、今年6月に公開された「-破られた沈黙」にも踏襲され、時系列を複雑に構成した見応えのある作品になっています。

「ターミネーター2」では、悪役として恐怖の対象だったヒト型ロボット(アーノルド・シュワルツェネッガー)が一転、正義の味方として登場しました。この大転換は、公開中の「ドント・ブリーズ2」に受け継がれ、身体能力の優れた盲目の老人(スティーヴン・ラング)は、まるで「座頭市」のような活躍です。

優れた続編の作り方は、後世にも影響をもたらしているのです。

第1作のヒットを受けた典型的な続編製作とは趣を異にするのが「スター・ウォーズ」シリーズです。最初から全9部作としてこの企画を20世紀フォックスに持ち込んだジョージ・ルーカスは当時29歳でした。

ルーカスは9部作の中でも、ヤマ場となる第4部を1作目「新たなる希望」(77年)として製作し、思惑通りヒットさせてシリーズ化に成功します。監督をアーヴィン・カーシュナーに任せた第2作「帝国の逆襲」(80年)はシリーズ最高傑作といわれる仕上がりとなり、先述した「-続編映画50本」でも6位にランクインしています。

4~6作目では9部作の1~3話にさかのぼる形でストーリーを進行。「プリクエル・トリロジー」と呼ばれるこの3部作は、続編で「前日譚(たん)」を描く手法として後の作品の手本となります。

数年単位の準備期間や中断もあり、6本目の公開は05年。ルーカスも60代に差しかかり、いったんはこの6作で打ち止めを考えます。12年にウォルト・ディズニーがシリーズの製作母体だったルーカスフィルムを買収。7~9作目はディズニー配給となりました。19年の「スカイウォーカーの夜明け」で9部作が完結するまで、実に42年の歳月を要したのです。

常に映像革新を心掛けるルーカスはこの間、シリーズを通じて特撮、音響の新技術の開発に努め、この方面で映画界に多大な貢献をしました。

やっつけ仕事の続編もあれば、映画の歴史を変えるようなシリーズ作品もあるのです。

<同じ主人公の最長シリーズ「男はつらいよ>

同じ主人公で描かれた最長の映画シリーズは渥美清主演の「男はつらいよ」です。69年の第1作に始まり、97年の「寅次郎ハイビスカスの花 特別編」と一昨年に公開された「お帰り 寅さん」を含めると全50作を数えます。30作を超えた時点で、世界最長の映画シリーズとしてギネスブック国際版に認定されました。

主人公寅さんの妹さくら役の倍賞千恵子は「今撮っている作品を一生懸命やって当てること。当てなければ次は無い、という思いは常にありましたね」と一昨年のインタビューで明かしました。世界最長であるとともに、典型的な続編製作の過程を踏みながら続いたシリーズでもあるのです。

日本の実写映画では森繁久弥主演の「社長」シリーズ(56~70年)がこれに次ぐ33作。同じ森繁の「駅前」シリーズ(58~69年)が24作で続きます。2シリーズ合わせれば57作。映画全盛期に森繁がいかに大きな存在だったかが分かります。

海外での最長シリーズは今年10月公開の「ノー・タイム・トゥ・ダイ」で第25作となる「007」です。渥美清が1人で演じた寅さんとは違い、ショーン・コネリー、ジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアーズ・ブロスナンと引き継がれ、現在のダニエル・クレイグは6代目となります。第1作の「殺しの番号」は62年公開ですから今年で59年。年数ではこちらが世界最長なのです。

◆相原斎(あいはら・ひとし)1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒沢明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、海外映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。最強の「続編」メーカーはジェームズ・キャメロン監督だと思っている。リドリー・スコット監督を引き継いだ「エイリアン2」、そして自らの作品に続けた「ターミネーター2」が「史上最高の続編」の1位と3位。「タイタニック」や「アバター」の独創性といい、改めてそのエネルギーと才能には感服。