なぜ国会は面白くないのか?「なぜ君」立憲民主党小川淳也衆院議員が解説

選挙区で演説する小川淳也氏

<ニュースの教科書>

菅義偉首相(72)の突然の辞任表明により、自民党総裁選は、あからさまな権力闘争が繰り広げられています。「政局より政策」とのツッコミは入れるものの、メディアも劇場型政治の面白さに逆らうことはできないようです。それでも、このコロナ禍の中、国民の代表である国会議員が議論する場である国会は、3カ月も開かれていません。議員が政策をしっかり議論できる制度や文化はどうすれば日本に根付くのか。政策おたくと自称する、立憲民主党の小川淳也議員(50)に素朴な疑問をぶつけてみました。【竹村章】

昨年6月に公開された映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)。地盤、看板、カバンなしに、生まれ故郷の香川で国政選挙に臨んできた、小川氏の17年間を追い掛けたドキュメンタリー作品だ。当初は2館での上映も、最終的には80館以上に広がり半年以上ものロングランに。このスマッシュヒットは、小川氏の清貧な生活ぶりや、誠実で生真面目な人柄ももちろんだが、「社会を今よりよくしたいと」と政策に訴えかける熱意が響いたのだと思う。

選挙区は香川1区。対するのは平井卓也デジタル改革大臣(63)。実家は地元でシェア6割を誇る四国新聞社や西日本放送をもつオーナー一族のいわゆる3世議員だ。これまでの小選挙区での戦績は1勝5敗だが、小川氏は当選5回を積み上げてきた。映画が話題となり、国会での統計不正問題の追及が注目を浴び、香川1区は次期総選挙の注目選挙区。子分を抱える古い政治家ではないが、永田町では“将来の総理候補”ともささやかれている。

-現状の自民党総裁選をどう見ます

小川氏 2代連続で首相が政権を投げ出しました。由々しき事態で残念極まりない。安倍さん、菅さんは有事に術を持たない政治家でした。総裁選に立候補した人たちも今の状況を作った責任ある人ばかり。総選挙の顔として誰がいいのか、人気投票にしかなりません。それよりも、野党がダメなのが最大の問題なのですが。

-総裁選も政策の議論にならず、国会でも議論が白熱しません

小川氏 アメリカも英国も党議拘束はせず、法案の採決は各議員に委ね、議員は自ら有権者への説明責任を負います。党派を超えて政策論議を行うのが原則なのに、日本では、与党は日程内に法案を上げることに、野党も日程闘争に明け暮れる。あわよくば、スキャンダルが起きれば追及する。国民不在で、政策論争を骨抜きにしています。

-ではどう変えれば

小川氏 党議拘束の解除です。実質的な議論を行うカルチャーを作り、制度的に担保することが大切です。すべての法案の一言一句にみんなが賛成、反対というのはフィクションですよ。党議拘束があるとすれば首班指名と選挙の構図のみ。現状だって、法案の7~8割には賛成しているんですから。

-国会では18年に自民党の若手議員が改革案をまとめました。政策やスキャンダルなど、3車線に分けようという提案です

小川氏 いや、それはね、事前審査を手放すとは書いてないでしょ。自分たちの既得権を守り、野党だけ変われというのはどうでしょう。ペーパーレスなら改革なのか。物事を深く考えてほしいですね。

-でも、予算委員会がスキャンダルの追及の場でいいのでしょうか

小川氏 国有地の不正売却の疑いとか、税金投入事業に選挙民を招待したとか、そういう疑いは政治倫理審査会とか行政監視委員会を開けばいいんです。疑いが晴れれば、予算委員会をきちんと開く。

-疑惑でも与党は開きません

小川氏 なぜ開かないのかというと、予算委員会で野党に追及させたいという思惑があるから。国民はそれに乗せられてはいけません。予算委員会ではなくて、疑惑があるならば、倫理審査会を開けと言わなくては。

-結局は過半数がないとだめです

小川氏 国会召集は4分の1で出せます。倫理審査会だって、過半数ではなく3分の1でいいと、法改正すればいい。過半数があれば何でも通る独裁は許さないとすれば、変わっていくと思います。先ほども述べましたが、事前審査と党議拘束の解除をすれば、国会はガラッと変わります。

-でも、それで議論はまとまりますか

小川氏 私の経験では、党議拘束を外した国民投票法案を議論した憲法審査会はやりがいがありましたし、採決のときに拘束を外した臓器移植法案は緊張感がありました。自らの政治信条、良心に従って投票するわけですから。

-政策議論はわかりましたが、党内での支持を増やすにはどうすれば

小川氏 これはどこの世界でも同じで、国民を見るのか上司をみるのか、ですね。中途半端な出世なら、上司をみてこびへつらうのもいい。でも、やりたいことが明確なら、上司、先輩でも厳しいことを言うのが大切。それでダメならあきらめるしかない。

-でも、仲間がいないと代表選に出られません

小川氏 その点は率直にいって手探りです。政治家は人間なので貸し借りがあってもいいと思います。国民が政治にあめ玉を望んだ時代は、政治家が政治にあめ玉を望むのも理解できる。でも、これからの国民は政治に、公平公正さや透明性を求めると思う。これまでのセオリーの踏襲ではなく、あらたな連携、連帯を作りたい。これも含めて手探りですが。

-それで仲間は集まりますか

小川氏 政治は、自己改革と変革を遂げないと変わらないとの確信はあるのですが、簡単ではありません。個人的には、日本は限りなく北欧型に近い社会にしていきたいと思います。北欧は政治の信頼が高く、若者の投票率も高く、政治参加率も高い。その分、政治家も庶民性を失わず、待遇や特権的な立場も抑制し、信頼度を上げていく。公助による生活不安のない日本社会を作るには、議員特権の見直しがセットだというのが私の立場です。

-自助、共助からという自民党との違いですか

小川氏 これからの日本は長期的に右肩上がりというのは考えられません。公助での生活不安を取り除くことが第一なので、これに納得いただけた上での国民負担だと思います。これを議論する上では、ごまかし、うそは通用しません。公助での持続可能な社会には、消費税は必要ですし、法人税のダンピングの是正、相続税や金融所得の税制改正など、社会の公正性を取り戻すために正面から議論するべき。対外的には強硬政策ではなく融和政策で、国家の人望を大切にしたい。短期的には減税、財政出動に賛成ですが、長期的には議論が必要です。掛け声だけの高い成長を目指し、自助を強調する、既得権益の上にのった旧態依然の政治勢力とは違いを際立たせると考えています。

-それでも、今の若者は保守的だと言われます

小川氏 今の10代20代の若者たちは、史上初めての少数派なんです。資金とか事業基盤を守りたいのが保守。昔は、明日は今日よりよくなったけど、現在は、明日は今日より厳しい時代。だから、若者は守るべきものがないから、今日を守りたいんです。彼ら彼女らの世代のせつなさ、やるせなさ、無力感を含めて理解しないとなりません。

-最後に、来年の立憲民主党の代表選は

小川氏 20人の推薦が必要なので断言はできませんが、世代の歯車をまわそうと言い続けてきました。(総選挙で)落選したら無理ですが、当選したら、名乗りを上げることを自らに課していきたいですね。

◆小川淳也(おがわ・じゅんや)1971年(昭46)4月18日、高松市生まれ。県立高松高校、東大法学部卒。94年に旧自治省に入省。01年春日井市役所に出向し企画調整部長。03年7月に総務省を退官し、民主党公認で香川1区から出馬も落選。05年には小選挙区で敗れるも比例復活し初当選。鳩山内閣、菅内閣で総務大臣政務官。現在、立憲民主党所属で当選5回。家族は高校の同級生の妻と娘2人。血液型O。

◆自民党総裁選挙 17日告示、29日投開票。国会議員と党員票で決まり、両者は同数。国会議員票は1人1票で、現在は383票(衆院議員275票、参院議員108票)。党員票も383票で、合わせて766票で争われる。自民党員は約113万人。投票は28日に締め切られ、各都道府県連が集計し、ドント方式で候補者に配分される。

◆竹村章(たけむら・あきら)1987年(昭62)入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。芸能全般のほか、放送局などメディア関連の担当が長い。テレビの特集ページ「TV LIFE」を立ち上げたほか、現在も続く「ドラマグランプリ」の開設にかかわった。映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」を見て、まだ日本の政治家も捨てたものではないと思うと同時に、総選挙後に公開予定の、続編となる映画「香川1区」にも期待している。