商品が見えないからこそ面白いラジオショッピングを 上柳昌彦アナに聞く

ニッポン放送「ラジオショッピング」で、新作のスニーカーを自ら使用しながら説明する上柳昌彦アナウンサー(撮影・酒井清司)

<オトナのラジオ暮らし>

食品、日用品から貴金属に住宅のリフォームまで。何でも売ってるラジオショッピング。その歴史は古く、始まりは1970年代にまでさかのぼる。商品が見えない、試せないラジオの通販が、なぜ長く続いてきたのか。軽妙なトークで長年、リスナーの購買意欲をかき立ててきた、「上柳昌彦 あさぼらけ」(ニッポン放送)のパーソナリティー、上柳昌彦アナウンサー(64)に聞いた。【取材、構成・秋山惣一郎】

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-画がないラジオで商品を売るのは簡単ではないですね

「むしろ、商品を見ていただけないことが、やりがいにつながってます。僕の商売は、しゃべりでリスナーの頭の中に映像を浮かべてもらうこと。見えないことが、ラジオ屋のおもしろさです。今朝(取材当日)は、ウオーキングシューズを紹介しました。質感とか形状、色合いを言葉で説明するのは難しいんで、実際に僕が履いてみた感想、足がスッスッと前へ出て行く感じをお伝えしました」

-通販コーナーは聞き流す人も多いのでは?

「興味ない人がほとんどでしょうね。今まさにウオーキングシューズが欲しかった、なんて人はまずいない。原稿を読まされてる感じが出れば、ますます聴いてもらえない。毎週木曜に翌週分の商品について、担当者から説明を受けます。開発秘話とか商品に関する情報を取材して、ひとつ自分の言葉を乗せますね。このシューズが歩きやすいのは、靴底にこんな工夫があるんです、とかね。『へぇ』と思ってもらえれば、興味のない人も聴いてくれますから」

-何げない一言が売り上げを左右することもある

「5年前、笑福亭鶴瓶さんが番組に遊びに来られたんです。通販コーナーで僕1人がマイクに向かってる脇で、その日の商品『熟成黒ニンニク』をむしゃむしゃ食べ始めた。『おいしいやん、おいしいやん』なんて言いながら。これがものすごく売れた。女優の故市原悦子さんはタラバガニ。『黙ってて結構です』と言ったのに『あ~ら、こんなにたくさん』。その一言で注文の電話が鳴りやまなくなったなんてこともありました」

-時代の変化は感じますか

「10年ほど前は、毎日違う商品を紹介してました。売れるかどうか分からないおもしろ雑貨とか、正直、自分では買わないなという商品もありましたが、今は必ず売れる商品が中心です。リスナーの目も厳しくなったんで、バイヤーが厳選した商品ばかりです」

「昔はブランド物のポロシャツがよく売れました。ところが00年代初めだったかな、『あのブランドがこんなにお安く!』なんて紹介したものが売れなかった。担当者に『真剣に売ってください』と怒られましたが、僕自身、ブランド物じゃなくて、ファストファッションのシャツを着てた。時代が移ってたんですね。今はスポーツ用品メーカーが作る吸汗性に優れた高機能タイプが売れます。僕もこの夏、着てました」

-印象に残ってる商品はありますか

「90年代にテリー伊藤さんと午後の番組を担当していたころです。テリーさんは400勝投手の故金田正一さんと仲が良かったんです。金田さんという人は、疲労回復のために眠りを研究している方で、オリジナルの枕まで作ってた。テリーさんがおもしろがって紹介したら、ものすごく売れた。今も紹介しますよ、カネやん枕。テリーさんのセンス、商品を見る力、勉強になりました」

-どんな人が利用しているのですか

「僕も時々、受付の電話を取るんですが、東京郊外、駅から遠い一戸建てにお住まいの高齢のご婦人が食品を買われた。若いころは何でもなかった買い物が、少しおっくうになったんでしょうね。購入履歴を見ると、食品を中心に買われていました。放送では、さまざまなリスナーの暮らしを思い浮かべながらしゃべっています。あなたのために話してますよ、と。その気持ちは、常に持ってますね」

<昨年の売れ筋は梅干し、エアコン、松前漬けにシロアリ駆除>

ニッポン放送では現在、早朝から夕方までの6番組に通販コーナーがある。ラジオ通販には、通販会社が番組枠を買い取って放送する形態もあるが、同局はグループ企業「ニッポン放送プロジェクト」が、商品の企画、販売、受注から配送までを担っている。

ニッポン放送によると、食品、家電、寝具、住宅リフォームなどのサービスが売れ筋で1日1商品を紹介している。昨年は梅干し、エアコン、数の子松前漬け、シロアリ駆除がよく売れた。人気商品の羽毛布団は、1シーズンに12回紹介するほど。貴金属も堅調で、3月にはダイヤモンドのネックレス198万円が想定以上に売れた。

返品率が低いのも特徴だ。一般に通販の返品率は5~10%程度とされるが、同局では1%未満。近年は商品を確認できるインターネットサイトへの誘導も図っており、ウェブでの売り上げは全体の1割ほど。購買層は50代以上が最も多い。男女比は半々だが、食品は圧倒的に女性が多い。

通販を担当する同社エンターテインメント開発部の和久井昭江副部長は「ラジオ通販はパーソナリティーが自分の言葉でしゃべることで、商品への信頼感が生まれる。これからもリスナーとの相性を探りながら、新しい商品を紹介していきたい」と話している。

【ラジオ通販】1973年(昭48)の「文化放送ラジオショッピング」が始まりとされる。76年にはニッポン放送が「玉置宏の笑顔でこんにちは!」内で「あおぞらリビング」を開始。91年にTOKYO FM、92年にはTBSラジオも参入した。リスナーとの心理的距離が近いラジオは、パーソナリティーへの信頼や親近感が商品への安心感につながっているとされる。主な顧客は高齢者で、番組をシニア向けから若者向けに改編して、顧客が純減した例もあるという。

「通販・e-コマースビジネスの実態と今後」(富士経済)などによると、番組枠を買い取る形で通販会社が進出した90年代後半、市場は130億円規模に拡大。00年代半ばには約240億円にまで急成長した。通販市場全体の構成比は1%にも満たないが、広告が落ち込む中、ラジオ局にとっては、放送外収入をもたらす経営の柱のひとつとなっている。だが、インターネット通販の普及や聴取者数の減少などにより、10年代以降は縮小傾向にある。20年は170億円程度に減少すると予想されている。

◆上柳昌彦(うえやなぎ・まさひこ)1957年(昭32)、大阪府生まれ。81年、ニッポン放送入社。「テリーとうえちゃんのってけラジオ」「うえやなぎまさひこのサプライズ!」など同局の看板番組を数多く担当。03年、ギャラクシー賞DJパーソナリティー賞受賞。17年に退職後は、ナレーションやイベントの司会進行など活動の幅を広げている。現在は「上柳昌彦 あさぼらけ」(月曜午前5時~、火~金曜午前4時半~)に出演。ラジオ通販は90年代から担当している。