ラニーニャ現象で寒い冬に…電力需給厳しくなる見通し、原油問題で家計にも

ラニーニャが発生するメカニズム

<ニュースの教科書>

気象庁は今月、「ラニーニャ現象が発生しているとみられる」と発表しました。ラニーニャ現象が起きた冬は、日本では例年より寒くなったり、大雪が降ったりする傾向があり、気象庁は注意を呼び掛けています。一方で、この冬の電力需給の見通しは過去10年で最も厳しいそうです。原油高の流れもあり、寒さが厳しくなった時の市民生活への影響も心配です。ラニーニャ現象とはどんな現象で、なぜ日本の冬が寒くなりやすいのか、経済にどんな影響があるのか、それぞれの専門家に聞いてみました。【聞き手・久保勇人】

【気象庁異常気象情報センター・竹川元章所長】

-今月10日、ラニーニャ現象が発生しているとみられる、続く可能性が高いと発表されました。12月~来年2月、日本にどんな影響がありそうですか

竹川さん 寒気が南下しやすく、気温は東日本で平年並みか低く、西日本と沖縄・奄美は低くなるとみています。日本海側の降雪量も、東日本で平年並みか多く、西日本では多い見込みです。大雪になる可能性もあります。情報に注意してください。平成18年豪雪(05~06年の冬)や、高速道で車が何時間も立ち往生した昨年12月の大雪も、ラニーニャ現象の影響でした。

-ラニーニャの意味は

竹川さん もとは、南米のペルー北部の漁民が、毎年クリスマス頃に現れる小規模な暖流のことをエルニーニョと呼んでいました。男の子、特に幼子イエス・キリストを指しています。反対の現象を、スペイン語で「女の子」を意味するラニーニャと呼ぶようになりました。

-ラニーニャ現象とは

竹川さん 太平洋の中部から東部、ペルー沖の赤道付近で海面水温が基準値より0・5度以上低い状態が約6カ月以上続く場合をラニーニャ現象、逆に0・5度以上高い状態が続く場合をエルニーニョ現象といいます。一般的に、ラニーニャ現象の時、日本では冬は寒く、夏は暑くなる傾向で、エルニーニョ現象の時はその逆の傾向です。

-ラニーニャ現象はなぜ起きるのですか

竹川さん 太平洋の熱帯域では、貿易風と呼ばれる東風が常に吹いていて、海面付近の暖かい海水は太平洋の西側に寄せられ、太平洋の東側は海面水温が低く、西側は高くなっています。西側の積乱雲の活動が活発になるなどの理由で東風が強まると、東側の海面水温がいつもより低くなり、西側は高くなっていきます。一度型にはまると、それが維持される循環ができあがります。10月の東側の海面水温は24・3度で、基準値より0・7度低く、この現象が続く可能性が高まっています。

-それが日本の気候にどう影響があるのですか

竹川さん 太平洋熱帯域の西部で海面水温が高くなると、いつもよりも海水が蒸発し、積乱雲の発生が多くなり活発になります。それが上空で発散されます。中国大陸から日本にかけては、東に向かって偏西風が流れています。中国南部付近では、発散した空気が偏西風を北に押し上げ、蛇行させます。大気の性質として、一部が北に曲がると、その下流側で反対に曲がりやすくなります。つまり日本付近では南側に蛇行します。偏西風の北側、シベリアなどには冷たい空気があり、日本に流れ込み、寒くなりやすくなるのです。

-こうした分析には、今年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんの功績もあるのですか

竹川さん まさしく真鍋先生の研究が基礎になっています。海洋と大気が相互作用することなどは、真鍋先生が最初にモデルをつくったものです。

-どのくらい寒くなるのか、大雪が降るのかは分かるのですか

竹川さん 偏西風がどのくらい蛇行するかや、北の寒気の動向にもよります。どのくらい蛇行するかは、高緯度を流れる偏西風の蛇行の状況にもよります。北の寒気の動向では、シベリアに寒気がどのくらい蓄積されているか、北極の寒気が中緯度に流れ出しやすい状況かなどが関係してきます。

【ニッセイアセットマネジメント投資工学開発センター長・吉野貴晶氏】

-ラニーニャ現象で、例年より寒い冬になるかもしれません。景気や株価にどんな影響がありますか

吉野さん ラニーニャ現象は一般的に、冬はとても寒く、夏は猛暑、エルニーニョ現象は冷夏暖冬といわれますね。ラニーニャ現象では、冬はエアコンなどの暖房器具や冬物衣料など、夏もエアコンやビールといった飲料が売れるなど、季節モノが好調になり、経済を押し上げます。株価については、1946年~2020年の2つの現象の時期と日経平均株価の関係を分析すると、ラニーニャ現象の時は、平均超過騰落率が年率ベースでプラス0・63%でした。これはラニーニャ現象の期間の株価は、例年と比較して上昇する傾向がみられるということです。反対にエルニーニョ現象の期間ではマイナス3・41%と下落しており、株安につながるとみられます。

-いつもより寒い冬は好景気になるのですね

吉野さん 12月、1月、2月の東京の気温で、各月の平均気温を一定の温度によって「特に寒い」などと分類し、日経平均株価の騰落率との関係を調べました。すると、12月は「特に寒い」(気温7度以下)がプラス0・5%、「例年より寒い」(7度超8度以下)が3・8%、「例年並み」(8度超9度以下)が0・8%、「例年より寒くない」(9度超)は1・1%となりました。雪が降ったり寒すぎると、外出を控えたりして経済活動に影響が出ます。ある程度寒いくらいだと株価は好調になりますが、あまり寒すぎると株価には厳しくなるようです。

-今冬の電力供給の見通しは厳しく、原油価格の問題もあり、家計も心配です

吉野さん 厳しい寒さになり電力需要が増えると、日本だけかグローバルな動きかにもよりますが、原油が高くなる可能性は出てきます。家計への影響は判断が難しい。原油価格は、来年にかけても上がるトレンドだろうと考えられます。欧州などで新型コロナが再拡大し、経済活動が停滞して原油がだぶつき、減産が続く可能性があります。SDGsがらみで、石油の生産量を抑えていく流れもあります。来年は陸運、旅行、飲食などコロナ禍でだめだった業種が復活してくるとみられますが、エネルギーや物流のコスト増がどのくらいネガティブに響くかも注目されます。

■電力需給 過去10年で最も厳しく

経済産業省は、この冬の電力需給が、過去10年で最も厳しくなる見通しとしています。電力需給の見通しは、10年に1度の厳しい寒さを想定した時の最大需要電力に対して、供給にどのくらいの余力があるかを示す供給予備率でみます。停電を防ぐためには、予備率が3%以上必要とされます。

資源エネルギー庁によると、来年1月は東京電力管内の予備率が3・2%。2月は東京が3・1%、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の中西日本6エリアで3・9%と、ギリギリの数値です。7つのエリアが3%台で並ぶのは、過去10年間の2月で例がなく、最も厳しい見通しとなっています。

同庁の担当者は「現在は北海道から九州は連系されているため、例えば東京で供給が最大需要電力を下回ったとしても、隣接エリアから流れれば、すぐに東京が停電になるようにはなっていません」としながらも、「隣接するエリアも3%台と余裕がないのは、過去10年でなかったこと」と指摘しています。

電力需給が厳しくなった背景について、担当者は「構造的には、火力発電所の休廃止が急速に進んでいることがあります」と説明します。太陽光、風力などの再生可能エネルギーは増えていますが、一方で、火力の稼働率が落ちると採算は悪化するため、発電所の運転を休止したり、たたむという判断が増えているそうです。今冬、ラニーニャ現象で厳しい寒さになった時は、特に省エネを意識しなければならないようです。

◆久保勇人(くぼ・はやと)1984年入社。文化社会部、スポーツ部など経験。フジモリ元大統領が初当選したペルーの1990年大統領選も取材。太平洋に面した首都リマは、雨が少なく、街や空気がとても乾燥している印象が今も強く残っています。