囲碁の外柳是聞四段、遅咲き「岩手の星」は2022年を飛躍の年にする

外柳四段(右)は、新人王獲得を祝して佐藤望美と南部美人で乾杯

「岩手の星」は、メジャーリーガー大谷翔平(27)、スキージャンプ小林陵侑(25)だけではありません。囲碁でただ1人の同県出身の現役棋士、外柳是聞(そとやなぎ・せぶん)四段(27)は昨年、第46期新人王戦で初優勝し、年齢制限ギリギリで初のタイトルを獲得した。地道にコツコツと実力を積み上げた末に見せた無欲の快進撃。遅咲きのタイトル保持者は、2022年を飛躍の年にする。そんな同郷の先輩を、地元の地酒「南部美人」PR大使を務めるグラビアアイドル佐藤望美(26)が祝福に駆けつけた。

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外柳は、今でも新人王になったことを不思議に思っている。「本戦トーナメント(33人)のメンバーを見ると、この中で自分が半分より上なのか、今でも自信はありません」。

年齢制限ギリギリでの参加。開始時、「目の前の対局は全力で。先のことは考えない」と臨んだ。準々決勝で、年下だけど強いと思っていた酒井佑規二段(当時=17)に勝ち、「現実的には難しいが、ほんのちょっとチャンスがあるのかな」と思い始めた。

昨年の決勝3番勝負。相手は、女流棋士初の新人王戦制覇がかかった上野愛咲美女流棋聖(20)。1局目(9月20日)に勝った後、花巻市で行われた公務の際、知人から応援の言葉をもらった。期待を感じ、「優勝したい」とか「優勝しなければ」と思い始めた。優勢だった2局目(10月9日)をフイにして敗れたが、3局目(10月15日)まで間がなかったため、「逆に悩みすぎないのが良かった」と振り返る。

タイトルを取って、プロ(初段)になったばかりのことを思い出した。「若手棋戦で優勝する」「(棋聖戦や名人戦、本因坊戦の)挑戦者決定リーグに入りたい」との抱負を語っていた。

「何年かやっていくうちに周りの棋士、同年代とか年下がすごく勉強していて、強いのが分かってきます。思うように結果も出せない。自分より周りが優れているような感覚に陥って、自分への期待値も低くなっていました」と言う。現実に直面しながらもがき、目の前の1局をこなし、やっとタイトルをつかんだ。

同じ岩手県出身のメジャーリーガー大谷翔平は同い年。スキージャンプ小林陵侑は2学年下になる。「彼らとは全然レベルが違います。あまりにも遠すぎて、一緒に頑張ろうという感覚ではないですけど、岩手県出身、盛岡市出身で活躍している人は気になっています。くどうれいんさん(盛岡市在住の芥川賞作家)とか」。

盤から離れれば純文学を愛し、帰郷すれば盛岡市内のミスタードーナツで心を落ち着けるという。世界で飛躍するアスリートとは対照的に、闘志を内に秘め、地に足をつけて着実に歩む。「いろいろと興味はありますが、囲碁と同じくらいの熱量を注げるかは難しい」という言葉がそれを物語る。

昨年暮れに都内で行われた新人王戦表彰式、「少しずつ成長していけたらと思います」と謝辞を述べた。今年は、7大タイトル戦(棋聖・名人・本因坊・王座・天元・碁聖・十段)をはじめ、全体的に上位に勝ち上がることを目標としている。タイトル保持者として自分への期待値を高めるとともに、周囲から高まる期待値にも応えたい。

▼囲碁新人王戦は、優勝賞金200万円のタイトル戦。現在の参加資格は、予選開催年の8月1日時点で25歳、六段以下。07年には国民栄誉賞棋士の井山裕太棋聖、14年は仙台市出身の一力遼九段が優勝している。

将棋にも新人王戦があり、26歳以下、六段以下などの若手限定。こちらは8大タイトル(竜王・名人・王位・王座・棋王・叡王・王将・棋聖)戦と違い、公式戦扱い。88年羽生善治九段、05年渡辺明名人、18年藤井聡太4冠が制した。

どちらも名だたるタイトル保持者が過去に優勝している「出世棋戦」だ。

<インタビュアーのぞみん「先手」で質問攻め>

「のぞみん」こと佐藤望美もインタビュアーの仲間入りをした。1学年上の外柳と碁盤を挟んで最初の10分ほど、先手で質問攻めにした。

囲碁界に入るきっかけは

外柳 小学生の時、両親が囲碁を打っていた影響で、盛岡市内の囲碁センターに学校帰りなどに通い始めました。プロを意識して中2の秋ごろに上京しました。

両親は反対しなかった

外柳 「やってみたら」と応援してくれました。

上京の不安はありました

外柳 プロになれなかったらどうしようとは考えておらず、転校の方が不安でした。

内弟子生活でつらかったことは

外柳 遊べないのがイヤでした。ずっと「囲碁の勉強をしなさい」と言われていたのですが、年の近い内弟子も多く、隠れてサボったりしていました。学校と違う方向に歩いていて、師匠(故高林拓二七段)の奥さんにバッタリ会い、師匠に怒られたりとか。あと、負けた時に「何て言おうかな」という帰り道がつらかったです。

逆にうれしかったことは

外柳 プロ(初段)になった時が一番うれしかったです。14歳で弟子入りし、19歳になる年にプロになれて、先生にも両親にも喜んでもらえました。

好みの女性のタイプは

外柳 人間的にシンがある人がいいです。自分のなよなよして流されやすい性格がイヤなので。ブレない人が格好いいですね。

取材後、のぞみんは囲碁のルールや碁石の持ち方を教えてもらい、おそろいのハッピ姿で、外柳四段の新人王獲得を祝い「南部美人」で乾杯した。

◆外柳是聞(そとやなぎ・せぶん)1994年(平6)12月23日生まれ、岩手県盛岡市出身。囲碁は小学生時代から始め、中2でプロを志して上京。故高林拓二七段門下で内弟子に。14年初段でプロデビュー。16年二段、18年三段。21年四段に。21年10月、第46期新人王戦で初優勝し、初タイトルを獲得。名前の「是聞」の由来は「聖徳太子のように7つ(多く)の話を聞けるように」。

◆佐藤望美(さとう・のぞみ)1995年(平7)11月9日生まれ、岩手県盛岡市出身。地元の高校を卒業後、就職で上京。都内でスカウトされる。18年、9代目ミスヤンググランプリ受賞。舞台、テレビ、グラビアなど幅広く活躍中。愛称は「のぞみん」。19年春から地元の地酒「南部美人」のPR大使に就任。日本酒のきき酒師。153センチ。スリーサイズは、B83センチ-W58センチ-H83センチ。血液型A。