ネットニュースの今後 現状を変える突破口への兆しが表れることを期待

ノアドットの中瀬竜太郎CEO

<ニュースの教科書>

新聞社が伝えるニュースがネット上で広く読まれるようになって久しい。背景のひとつに、大手ポータルサイトの隆盛がある。無料で内容も充実しており、ネット情報でこと足りるユーザーも多い。既存メディアのサイトに直接訪れるユーザーの比率は欧米に比べても低く、大手ニュースサイトの手を借りないとPVが上がらない状況も続く。じゃあ、いったい、どうすれば…。持続可能なビジネスモデルを訴えるノアドットの中瀬竜太郎CEOとともに考えてみた。【竹村章】

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メディアの歴史を振り返れば、日本の新聞社はテレビの全国ネット網構築も、文字放送などのニューメディアも、衛星放送も、それなりに系列で乗り切ってきた。だが、1993年(平5)にウェブが全世界に開放された後、新聞社などメディアを守ってきた参入障壁が崩れる。

中瀬氏は「それは必然、宿命だった」と指摘する。メディアとは媒介の意。個人なり法人を取材し、メディアが仲介してユーザーに届けてきたニュースが、ウェブで直接の発信が可能に。新聞社のような印刷設備や、放送局のような送信設備などなくても、資本金がゼロで、コンテンツを届けることが可能になった。

中瀬氏は「コンテンツも、伝送路も、両方ともお金なしにできるようになり、ニュースは供給過剰になりお金を稼ぎにくい。記者よりもその分野には詳しい人がいて、素人だからおもしろいというケースもある」と話す。ウェブ上のコンテンツを人がサイトごとに整理したのがヤフー。検索エンジンでページごとに整理したのがグーグルだった。

既存メディアはこれまで伝送路を独占。参入障壁が高かったため、コンテンツの制作だけにまい進してきた。それはデジタル化の現在も同じようで、ニュースを量産し続けている。本来なら、コンテンツを作るコンテンツホルダーと、コンテンツを届けるキュレーターがバランスよく存在しなければならない。だが、現状は、ディストリビューター、アグリゲーターが勝ち組に。つまり、自分たちで作ったコンテンツをユーザーに届けるより、コンテンツを集めて整理して届ける方が価値が高い。ユーザーの支持も得て、収益の主導権を握るようになった。

中瀬氏は日経BP社を経て05年にヤフーに入社。ニュース編集部でヤフーニュースに関わった。マスコミ業界で話題となった下山進氏の「2050年のメディア」で明かされているように、既存メディアの配信を受け、PVは右肩上がりだったという。

デジタルの世界では、ニュースのマネタイズは困難を極める。既存メディアは軒並み苦境に陥り、真の自由競争の中で報道事業がビジネスとして成り立つのかさえ、誰も明言はできていない。その理由の1つは、PV単価の低さだ。大手ニュースサイトと各メディアの契約はそれぞれで、その内容も複雑だが、PVあたりの単価は低く、部数の落ち込みをカバーするには至っていない。

ロイターの調査によると、日本や韓国のネットニュースはアグリゲーターに支配されており、東アジア特有のものだという。北欧は7~8割、北米は3~4割と新聞社などのサイトに直接アクセスするダイレクトエントリーの割合が高いが、日本では直接流入比12%とされ、大手サイトでニュースを読む人が多い。

ヤフーニュースにいたからこそ、中瀬氏は既存メディアのデジタル化に不安を覚えたという。「ヤフーからすればしっぽを自分で食べているのでは」。つまり、ニュースを供給する側の新聞社が倒れれば、ヤフーも自前でニュースを作らねばならないという論理だ。そんな頃、ヤフーはニュース個人をスタート。中瀬氏は、個人でニュースを出稿するオーサーにかなりの取り分を戻すことを提案したが実現に至らず、現在のノアドットの構想を固めた。ヤフーをニュース保管庫とするビジネスモデルだ。

ヤフーニュースに競合する新しいキュレーションメディアが出てきても、ヤフーの保管庫から配信されるので応分の利益が上がり、より支配的になるモデルだと主張したが、ヤフーは選択はしなかった。

ただ、ヤフーへの配信に踏み切らなかった共同通信は興味を示すことに。中瀬氏は13年に共同通信デジタルに移り、15年4月にノアドットが、共同51%、ヤフー49%で設立された。

ノアドットのシステムを簡単に説明すると、出し入れ自由なニュースの保管庫だ。新聞社はこの保管庫にニュースを入れ、キュレーターはこの保管庫からニュースを仕入れ、サイトに掲載する。広告収入の分配比率は、新聞社約5割、サイト約3割、ノアドット約2割と、メディア側にとってはうれしい配分だ。

現在、ノアドットと契約するのは800媒体。ただ、複数の媒体をもつ社もあるので新聞社の数ではない。共同通信加盟のうち、参加していないのは数社。地方紙のサイトは、もともと地元のニュースは充実しており、芸能ニュースなどをノアドットから仕入れることで、サイトが充実するというのは理解できる。

とはいえ、ノアドットが順調なのかというと厳しい見方をする人もいる。ヤフーが1日8000本超のニュースが入るのに対し、ノアドットは5000本超。中瀬氏によると現在の売り上げは13億~14億円。現在の出資比率は共同85%、ZHD15%に変わった。中瀬氏は「圧倒的に記事を作りたい人の方が多く、キュレーターが少なかった」。記事を届ける人が少ないということは、PVが上がらないことを意味する。そもそもノアドットはニュースの取り次ぎだが、実際にはニュースを売る、小売りにまでも進出する必要に迫られている。

毎年、電通が発表する日本の広告費によると、ネット広告費がテレビを上回ったのは19年。20年のネット広告媒体費は、1兆7567億円に上った。そのうち新聞のデジタル広告費は173億円で、全体の0・98%にしかすぎない。1%に満たない広告費の分配を求めて、PV競争に明け暮れていることになる。

ではどうすれば…。PVでの広告収入ではなく、サブスクモデルを模索するメディアもある。正解はないが、中瀬氏の見立てのように、ポータルサイトにニュースを配信する業務が、持続不可能であることだけは確かだ。今年は、現状を変える突破口への兆しが表れることを期待したい。

◆ノアドット コンテンツの「制作」と「流通」を自由に組み合わせられる無料のコンテンツ共有プラットフォーム。制作側は、共同通信や共同通信加盟社などが記事をサーバーに蓄積。流通側のニューズピックスなど、見出しを自由に引き出す権限を付与。読者が見出しをクリックするとノアドットのサーバーへ飛び、記事本文が読める。その広告費を、制作側、流通側、ノアドットで配分。参加しているのは、共同通信や地方紙、地方局、TBSNEWSなど約800媒体。将来的には、ブロックチェーン技術と暗号資産を使った民主的なメディア経済圏を作り、DAO(分散自立組織)となることも想像しているという。

◆竹村章(たけむら・あきら)1987年(昭62)入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。芸能全般のほか、放送局などメディア関連の担当が長い。テレビの特集ページ「TV LIFE」や、現在も続く「ドラマグランプリ」を立ち上げる。00年代初頭には、携帯サイト「ニッカン芸能」のローンチに携わる。当時は珍しいいわゆるタレコミメールを設けたが、投稿してくれたユーザーとの対話など、運用面がうまくできなかったことを反省している。