羽生結弦 大谷翔平ら94年度生まれ 最強世代が誕生した理由

主な大谷・羽生世代

<ニュースの教科書>

北京オリンピック(五輪)が2月4日、開幕します。注目は史上初の4回転半ジャンプの成功と男子フィギュアでは94年ぶりの3連覇を目指す羽生結弦です。羽生はエンゼルス大谷翔平と同じ94年度生まれ。日本選手団の主将で5種目に挑む高木美帆も、侍ジャパンの4番でポスティングシステムでメジャー移籍を目指す鈴木誠也も、ショパン国際コンクールで51年ぶりに日本人最高の2位になった反田恭平も同学年です。最強世代が生まれた理由を探りました。(敬称略)

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94年度生まれには別表のような人たちがいます。高木が今回、世界記録を持つ1500メートルなど個人種目で金メダルを獲得すると、この世代の個人種目金メダリストは6人になり、78年度生まれと並んで最多となります。

これまで将棋の「羽生世代」、プロ野球の「KK世代」「松坂世代」「ハンカチ世代」、サッカーの「黄金世代」、女子ゴルフの「黄金世代」など、さまざまな「○○世代」が生まれましたが、「大谷・羽生世代」は一競技にとどまらないことが特徴です。なぜでしょうか。日刊スポーツの「大谷・羽生世代」である中央競馬担当の三嶋毬里衣(18年入社)は「何でなんすかね」と首をひねります。

「3つ理由があるんですよ」と、のっけから言い切るのは84年の入社以来、35年以上スポーツ取材を続ける荻島弘一です。「ひとつは彼らは子どもの時から日本人が海外で活躍しているのを見ていること」と言います。94年にイタリアに渡ったカズ、95年にドジャースに入団した野茂英雄はパイオニアで、当時はまだ海外は特別な世界でした。しかし、「大谷・羽生世代」が小学校に入学した01年にはMLBではイチローら10人がプレーし、欧州では中田英寿や小野伸二がスターティングメンバーで活躍しています。「彼らはそれを見てスポーツを始め、世界を相手に戦いたいと、ごく普通に思えるようになった最初の世代。その前の世代とは違うんです」。

2つ目は02年度に始まった「ゆとり教育」です。「大谷・羽生世代」は小2から完全週休2日になりました。学習内容、授業時間が削減され、学力が低下すると批判が高まったため、11年度から見直しが始まりますが、「大谷・羽生世代」は高校卒業までゆとり教育でした。「学校が週休2日になると、親は何を考えるかというと、子どもに何かをやらせようと思うわけです。ゆとりのど真ん中の94年度、95年度生まれは勉強以外のことを一番やった世代だと思う」と荻島。三嶋も「習い事はすごくしてました。ピアノをやったり、二胡(にこ)をやったり。英会話もやったし」と振り返ります。

SMAPが<歌詞>NO・1にならなくてもいい もともと特別なOnly one と歌った「世界に一つだけの花」がヒットチャートの年間1位となったのは03年です。彼らは小3でした。「NO・1よりオンリーワンという世代なんです。大谷がまさにそうだけど、独自の道を突き進む。羽生だって『4回転半を跳びたい』とフィギュアをやっている。昔は人と違うことをしちゃいけなかったけど、彼らは人と違うことをする。ゆとり世代の一番いいところだと思う」(荻島)。

3番目がSNSです。04年のミクシィを皮切りにフェイスブック、ツイッター、LINE、インスタグラムと次々とサービスが始まります。三嶋によると、高校時代に流行したのはミクシィとフェイスブック、大学ではインスタだったといいます。競技を超えるつながりは、SNSと08年に開設されたナショナルトレーニングセンターで生まれました。

「ナショナルトレセンにいろいろな競技の選手が集まる。リハビリを専門的にやっているアスリートリハビリテーション室もあって、横のつながりがすごくできた。LINEのグループをつくって情報交換したり、飲み会をしたり。練習方法ひとつとっても競技で違うから、いろんなものを吸収して刺激を受けている。昔は野球は野球、サッカーはサッカーと狭い世界だったけど、水泳とハンドボールとバレーボールと陸上の選手が一緒にいるなんて、ごくごく当たり前になった」と荻島は話します。

「ピア効果」と呼ばれています。ピア(peer)は仲間や同級生のことで、切磋琢磨(せっさたくま)し合って互いを高め合う関係です。将棋の羽生善治はかつて同世代について「私ひとりではなく強い仲間と走っている。仲間で走れていれば時に風をよけてもらうことができる。なにより切磋琢磨し合って集団で進歩できる」と、日刊スポーツのインタビューに答えています。

「大谷・羽生世代」に続くのは、どの世代でしょうか。荻島はコロナ禍で春夏の甲子園、インターハイが中止になった02年度生まれに注目しています。「高3の夏を駄目にされたという共通項。すごい結束力があると思う。絶対、将来活躍すると勝手に思っている」。調べると、けがで北京出場がかなわなかったフィギュアの紀平梨花、“陸上界のフワちゃん”不破聖衣来、野球では巨人の秋広優人、中日の高橋宏斗らの世代です。将棋4冠の藤井聡太もその1人です。

◆他の94年度生まれ サッカー日本代表ではFW南野拓実、FW浅野拓磨、MF中島翔哉、FW古橋亨梧、DF植田直通。ラグビーでは「ジャッカル」が代名詞の姫野和樹。バスケットボールでは日本人2人目のNBA選手の渡辺雄太。フェンシングでは東京五輪エペ団体金メダルの山田優。卓球では男子団体でリオ五輪銀メダル、東京五輪銅メダルの丹羽孝希。ゴルフでは17年、19年賞金女王の鈴木愛。大相撲では初場所で優勝争いに加わった阿炎がいる。

◆中嶋文明(なかじま・ふみあき)81年入社。同期はプロ野球では篠塚和典、北別府学、岡田彰布。タイトルを取ったのは篠塚、北別府、山内和宏、小林誠二の4人で、ちょっと少ない世代です。サッカーは松木安太郎、政界は石原伸晃、コメンテーターは東国原英夫…軽いなあとずっと思ってきましたが、昨年、2人目の首相が誕生しました。昭和生まれの首相は15人でうち2人ですから、胸を張りたいところですが、朝日の世論調査で「わからない」と答えた人の割合が高い内閣の1位と2位です。「好きでも嫌いでもない」「キャラが立っていない」ことの表れだそうです。