音楽の世界で耳にする「活動休止」氷川きよし発表で改めて注目 将来の活動再開を前提とした表現

2022年1月22日付 日刊スポーツ1面

<ニュースの教科書>

音楽の世界で「活動休止」という言葉をよく耳にする。「無期限」が頭につく場合もある。最近も人気歌手氷川きよし(44)が年内いっぱいでの活動休止を発表した。理由はリフレッシュや充電、新たなことへの挑戦、メンバー間のあつれきの冷却期間などさまざま。将来の活動再開を前提とした表現で、ほとんどが復活している。病気療養や育児などを除き、活動休止を表明した過去の例を参考に、理由やコメント、期間などを調べてみた。

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活動休止とは文字通り、活動を休止すること。休止とは「仕事・活動などを一時休むこと」で、基本的には活動を再開することを前提としている。

かつて、一世を風靡(ふうび)したグループや歌手は、最初から「解散」「引退」と表明した。解散は組織をなくしてしまうこと。引退は芸能界から身を退くことだ。ただ時を経て、活動を再開したり再結成するケースが増えている。音楽関係者は「例えばバンドが解散して、各メンバーがソロ活動や別のバンドで技術的にも人間的にも成長して、また一緒にやろうとなる。かつては売れることが目標だったが、純粋に音楽を楽しめるようになる。解散したからといって、自分たちの曲が、足跡が、そしてファンが消えてなくなるわけではない。だから最初から『活動休止』と言うようになった。実際は解散だったとしても、将来の復活が絶対にないわけではない。ファンは驚くが復活を期待してくれるし、その余地を残しておける」と語る。

世界的なテクノポップグループのYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)は、活動休止を「散開」(散らばること)と表現した。解散と言うとファンは驚くだろうから、配慮して散開にしたという。約10年後の「再生」(活動再開)の会見では、細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏の3人が巨大なベッドに寝て取材陣の質問に答えた。「お目覚め」を表現したYMOらしい奇抜な演出だった。

もともと活動再開を想定とした活動休止の発表は、ファンに再開後を期待させるものが多い。いきものがかりは活動休止を「放牧宣言」と表現。「3人(当時)の物語を、もっと長く、もっと楽しく続けるために。またみなさん笑顔で、会いましょう!」とメッセージを送った。

サザンオールスターズの桑田佳祐は活動休止前の30周年記念コンサート最終日で、「新しい自信作を作って、みなさんに聴かせられる時が絶対来る。サザンの屋号をいったん、みなさんに預けます。預かってちょーだい!」と叫び、大歓声を浴びた。サザンは今も輝き続けている。

宇多田ヒカルの「人間活動宣言」もユニークだったが、心身のリフレッシュの意味合いが大きかった。活動再開後にNHKの番組で「自分のイメージだけがどんどん大きくなって本当の自分とかけ離れてしまって。しまいには自分でもどんな状況に置かれているのか、自分のことなのによく分からなかった」と話した。もっとも休止期間は「遅くやって来た、ちょっとした青春みたいな感じで楽しかった」と振り返った。

創作活動の行き詰まりや、メンバー間の不協和音など冷却期間を置くための活動休止もある。レベッカのリーダー土橋安騎夫は朝日新聞のインタビューで「ひねり出すことがパワーになることもあったけど、だんだん方向性が分からなくなった。何か1つ区切りを付けないと前には進めないと思った」と話した。NOKKOも「だんだん疲れがたまってきて、今後の人生をアーティストとして生きていくなら1回止めないとダメだと思った」と、当時の思いを語っている。

シャ乱Qは作品のテーマなどにメンバー間の迷いを感じ活動休止した。活動を再開する際、つんくは「(メンバー)それぞれプロデュース活動などをして技術が上がっている。絶対に楽しんでいただけると思う」と約5年の休止の“効果”を口にしている。

長く活躍するグループは、公にすることなく活動休止する場合もある。そんな中で、40周年を迎える安全地帯は計3回の明確な活動休止をしている。長い時は約10年にも及び、合計期間は実に約18年になる。その間、玉置浩二を初めメンバーはソロ活動を満喫し、また安全地帯に戻って来る。特に玉置の類いまれな才能が、あせるどころか進化してグループでもソロでも発揮されるからこそ、40年も続いているのだろう。デビュー記念日の2月25日に約11年ぶりとなるシングル「愛の戦友」を発表する。ジャケット写真はメンバー5人が肩を組むようなシルエットで、今も変わらぬ強い絆を感じさせている。

「活動休止」はショッキングな響きではあるが、過去の例では前向きなケースが多い。ファンは悲観せず復活の日を待っていよう。

○…「解散」を表明したグループやバンドでも、活動を再開するケースは多い。

GSブームをけん引したザ・タイガースは71年に解散したが、81年と13年に再結成した。特に13年は44年ぶりにオリジナルメンバーで話題となった。GSではザ・ワイルドワンズ、ザ・ゴールデンカップスなど多くが再結成している。

このほかアリス、プリンセス・プリンセス、甲斐バンド、ツイスト、X JAPAN、米米クラブなどの人気バンドが解散後、再結成している。一時代を築いたピンク・レディーは81年に解散したが、何度も再結成した。ちなみに昨年末のNHK紅白歌合戦に出場した6人組ガールズグループのBiSHは、23年での解散を宣言している。

デビューから長期に活動し続けるロック系グループは数少ない。ラルクアンシエルはメンバーの事件による活動自粛やライブの休止などはあったが、世界でも活動し、30周年を迎えている。GLAYはインディーズ時代を含め約33年間、不変の4人メンバーでGLAYらしく活動している。78年デビューのシーナ&ロケッツも40年以上、第一線を走り続けている。

○…「活動休止」の他に「活動停止」という表現もある。こちらは「活動を途中で止めること」で、出場停止や出勤停止のように「止められる」のニュアンスが強い。活動を再開できる可能性はあるが、自らの意思では難しい場合が多い。

「活動自粛」という表現もある。自粛は「自らすすんで自分の行動や態度を慎むこと」。コロナ禍で、コンサートやイベントを自ら判断して行わない場合などに使われる。

◆笹森文彦(ささもり・ふみひこ)北海道札幌市生まれ。83年入社。主に文化社会部で音楽担当。数多くの解散を書いた。アイドルグループ男闘呼組の解散をいち早く記事にした際、ファンからの悲痛な抗議電話が殺到。「ウソ書かないで!」と絶叫してのガチャ切りもあれば、「本当ですか…」と泣きながらの電話の連続。まだ読者広報室のない時代。直接担当部署に電話が回って来るので、デスクの厳命で数日間、電話番で座り続けた。大変だったが、読者の反応がジカに伝わる時代だった。