BSデジタルの歴史と今後…紆余曲折経て21年、新たに3つの新局誕生 BS朝日・有賀氏に聞く

BS朝日・有賀史英氏

<ニュースの教科書>

BSデジタル放送に今月、新たに3つの新局が誕生する。00年12月のスタートから21年が経過。視聴可能な世帯数も8割近くまで伸び、地上波とは違ったコンテンツで新たな視聴者層を獲得している。ただ、デジタル面が先行した当初はマネタイズがうまくいかず、期待されたデータ放送も伸び悩み、紆余(うよ)曲折の20年あまりだったとも言える。開局当初から携わってきたBS朝日の有賀史英氏に、BSデジタル放送の歴史を振り返ってもらい、今後の展開を聞いてみた。【竹村章】

BSデジタル放送は00年12月、さまざまな期待を背負い華々しくスタートした。世の中はまだガラ携時代で、普及率もやっと50%に迫ろうかという時期。放送界では初のデジタル。各局ともこれぞデジタルという番組を編成した。

ドラマでは複数チャンネルを使用し、違う結末を選択できたり、推理ものでは視聴者の予想によって結末が変わる作品も。リモコンを使ってドラマの最中にシューティングができたりする番組もあった。

アナログではできなかったことをクリエーターは詰め込んだ。新聞社もデータ放送に期待し、テレビを通じて新聞が家庭に届くかのような世界を夢見た。

しかし、デジタル化は放送局から各家庭に届く電波だけで、テレビにつなげる電話線はアナログ。ヤフーがADSLのモデムを街中で配る前の時代だ。

有賀氏は「データ放送で100万円が当たるクイズを始めたのですが、通信環境が脆弱(ぜいじゃく)でした。視聴者とコミュニケーションをとろうとしたり、双方向を求めることは難しかったですね。デジタルを求められましたが、やってみて成功した部分もありますが…」と振り返った。

昨年のNHK紅白歌合戦のように、視聴者の見た時間によって投票ポイントが変わったり、一気に投票することが可能なのは、各家庭のネット環境が整備されたから。令和になってやっと双方向が整備されたことになる。

-開局当初はデジタルに振りまわされました

有賀氏 リアクションがうまく取れず、できなかったこともありました。

-BS放送でのデジタルの特長とは

有賀氏 それを考えてたどり着いたのが、きれいな高精細な画像を、全国に一気に届けるということ。双方向は影をひそめましたね。開局のころは生放送も多く積極的にお金を使いましたが、4~5年は経営も厳しかったです。

総務省のデータをみると、BSデジタル局の収支は開局から厳しかった。01年の5局の営業損益は▲356億円で、翌年も▲256億円。単年黒字になったのは07年。それでも08年の黒字幅は5局で24億円。100億円を超えたのは11年の146億円で、開局から10年以上も要した。その間、各局とも減資などの犠牲を強いられ、BS朝日も東京・原宿に建設した新社屋をその後手放した。

-BSデジタルも普及は進みました

有賀氏 弊社も07年に単黒になり、11年に地上波もデジタルとなり、普及に拍車がかかりました。普及率は19年を最後に調査はしていないのですが、その時は全国で約77%。今後、普及率が9割までいくかどうかはわかりません。放送が見られないテレビも発売されている時代ですし。

-視聴率の測定は地上波と同じなのですか

有賀氏 日記式のBSパワー調査や、その後は機械式BS視聴世帯数調査を、BS局が主体となって行ってきました。現在は、地上波と同じビデオリサーチさんの全国32地区の調査です。

-視聴者数はどれくらいですか

有賀氏 ビデオリサーチさんから公式に公表はされてはいませんが(前述した)8割弱といったところでしょう。地上波の7~8割が視聴率の分母という感じです。ただ、BSは全国放送なので、同じ視聴率でも視聴人数は多いです。

-地上波はコア視聴率優先で、数字があるのに打ち切りになり、BSに移った番組もあります

有賀氏 BSではM3層F3層も主要なターゲットです。開局当時はいろんなターゲットを目指し、いろんなボールを投げました。今は、地上波はゴチャゴチャして見づらいという年配層がBSを見始めていただいているようです。その世代向けの番組を編成すると、数字や反応はいいですし、プロ野球はBSではキラーコンテンツです。

-ゴールデン帯の報道番組も人気です

有賀氏 BSフジ、BS-TBSが平日に、BS朝日は日曜日に編成してます。尺も長く、しっかりと話せるので、出演者にも人気のようです。あと、BS朝日でいうと、時代劇も含めたドラマ、スポーツ、紀行番組、昭和歌謡も含めた歌謡番組などが主要な編成になっています。金曜午後8時には、テレ朝から引き継いで、プロレスを編成しています。

-営業はタイム、スポットと地上波と同じですか

有賀氏 基本は同じです。ただ、スポットを地上波のようにGRPでがっつり売れているかというと、そうでもないのでは。数字がよければ、単価を交渉するという感じです。

-地上波とのすみ分けはどのように

有賀氏 高精細な映像を全国に届けられる無料放送というビジネスモデルですかね。紀行番組や歌謡番組は4Kで撮影していますし、地上波にはない点です。

-3月開局の3局はライバルですか

有賀氏 おそらく元のパイを食べられるわけではないと思います。そうではなく、BS視聴者全体のパイを広げねばならないので、BSを見るきっかけになってくれればうれしい。個人的にはウエルカムです。

-BS朝日はどんな編成を目指しているのですか

有賀氏 趣味嗜好(しこう)に特化した、視聴率だけではない番組を目指しています。数字を狙うとどうしてもハイターゲットになりがち。BS朝日ではファンプロジェクトといってファンを作ろうとしてまして、数字よりも、SNSでの反応とか、視聴者の熱い関わりあいとか、数字とは別の指標を取り入れています。他局との差別化も大事で、地上波では成り立たないけど特定のターゲットに刺さったり、新しいコンテンツをどれだけ開発できるかが大事だと思っています。

-具体的には

有賀氏 建築や古いものが好きな人を裏切らない「百年名家~築100年の家を訪ねる旅~」(水曜午後10時)や、「バナナマン日村が歩く!ウォーキングのひむ太郎」(火曜午後10時30分)が人気です。

◆新たにBSデジタル放送に参入する局

BS松竹東急(260ch、26日開局)BSJapanext(263ch、27日開局)BSよしもと(265ch、21日開局)の3局。松竹東急は映画や歌舞伎、ドラマ、スポーツ、ドキュメンタリーなどの総合編成。Japanextは地域創生、スポーツ、エンタメなどに加え、番組で見つけたものなどを手軽に購入できる番組も放送。よしもとは全国各地で活動するYouTuber、映像ディレクター、記者、住民らが、地域の魅力やその地方ならではのニュースなど「地域の活性化や課題解決のヒント」となるプログラムを発信する。

◆BSデジタル放送

00年12月からスタート。BSアナログ放送を行っていたNHK、WOWOWに加え、在京民放キー局5社を中心とするそれぞれの新局が参入した。放送のデジタル化は初めてだったことから、複数チャンネルの使用や双方向性など、これまでにない番組も制作された。11年10月からは有料チャンネルが拡大しスカパーなどが参入。12年3月にディズニー・チャンネルなど7チャンネルが加わった。現在の無料放送はBS日テレ、BS朝日、BS-TBS、BSテレ東、BSフジ、BS11、TwellV(トゥエルビ)、放送大学。

◆BS朝日「バナナマン日村が歩く!ウォーキングのひむ太郎」

ウオーキングが趣味の日村が“みなさんにオススメしたいコース”や“歩いてみたかった場所”で写真を撮ったり、街の面白ポイントを楽しみながら1人トークを繰り広げる。最後は大好きなそばを食べるものの、いわゆる街ブラの散歩番組とは一線を画す。趣味やこだわりをテーマにした番組に憧れていた日村が、健康のためプライベートで積極的に行っているウオーキングにスポットを当てた番組を作りたいとの思いが実現したという。ウォーカー「ひむ太郎」を名乗っている。米ニューヨークのウオーキングが最終目標。