ウクライナまで届け、平和のペンライトで祈念 日本歌手協会60周年公演 5・16から3公演

日本歌手協会結成記念「史上最大の歌謡パレード」のフィナーレ。左から竹山逸郎、岡本敦郎、伊藤久男、林伊佐緒、東海林太郎、藤山一郎、渡辺はま子、松田トシ、エト邦枝(63年6月19日、東京体育館)

<ニュースの教科書>

一般社団法人日本歌手協会(田辺靖雄会長)が創立60周年を迎えた。東海林太郎氏を初代会長に1963年(昭38)2月に設立された。以来、プロ歌手の団体として、音楽文化の発展に寄与してきた。今日16日から60周年記念第1弾「青春プレイバック!輝け!歌の祭典2022」を開催する。公演ではロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、歌手と観客が一体となってペンライトを振り平和を祈念する。同協会の合田道人理事長(60)に聞いた。

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日本歌手協会が発足した63年の第14回NHK紅白歌合戦は、81・4%という史上最高の視聴率を獲得した。高度経済成長期でテレビが急速に普及。音楽が国民のもっとも身近な文化として定着し始めていた。理事長の合田氏は「まだプロダクションが少なく、(ライブ用の)カラオケもない時代。歌う場の確保など、個人では難しいことを組織で対応していこうと、歌謡史に残るような歌手の方々が作った協会なんです」と当時に思いをはせる。

それから60年。デジタル化など音楽業界は激変したが、レコード会社やプロダクションの垣根を越えて「音楽文化の発展に寄与する」という協会の原点に変わりはない。合田氏は「長引くコロナ禍で、お客様に『別に歌を聴きに行かなくても生きていける』という慣れが生まれてしまったと思います。一方、歌手は歌う場が激減して、自分がいかに歌が好きだったかを再認識した。お客様の慣れを消し、音楽文化を守るためにも歌手は真剣勝負で魂の歌を届けてほしい。コロナ禍で60周年を迎えた協会の思いです」と語る。

まん延防止等重点措置が解除され、今日16日と17日に計3公演行われる創立60周年記念「青春プレイバック!輝け!歌の祭典2022」は、約1300席の客席を開放して開催する。ただしマスク着用で、掛け声などはこれまで同様禁止となる。協会は「声は出せないが、客席とステージが一体になれることをできないか」と考えた。世界はロシアによるウクライナ侵攻で揺れている。平和を祈念して、ステージと客席が一体となってペンライトを振る1曲を、3公演それぞれに設定することを決めた。ペンライトは協会が準備し、観客全員に無料で提供する。初の試みである。

合田氏は「かつて歌手は戦争を鼓舞する歌も歌った。戦後は『リンゴの唄』などが人々に力を与えた。そして今、歌手が平和だからこそペンライトを振れるということを示したい。反戦を声高に叫ぶつもりはありませんが、世界の平和を願って振ってほしい。60周年良かったねだけではないステージにしたい」。

16日夜の部は、伊藤咲子が「ひまわり娘」を歌う際に行う。ひまわりはウクライナの国花。伊藤は青と黄色の衣装を着る予定だ。「誰のために咲いたの それはあなたのためよ」。アイドルの歌ではない。平和へのメッセージである。

17日昼の部は、会長である田辺靖雄が「二人の星をさがそうよ」を歌う際に行う。夫婦や恋人への思いを歌う作品で、平和だからこその歌である。田辺が会長として客席に向けてメッセージを送る予定だ。17日夜の部は、クミコが反戦の思いを込め「愛しかないとき」を歌う際に行う。クミコはウクライナに友人がいるという。「INORI~祈り~」や「先生のオルガン」などの反戦歌も持つクミコの魂の歌唱は、必聴である。

今回の3公演に、協会会員である延べ90人以上の歌手が出演する。その半数近くが紅白出場歌手である。新曲をPRできるわけでもないのに、スケジュールを調整し、ギャラの大小にかかわらず出演する。合田氏は「やはり60年の歴史の重さだと思います。自分がプロ歌手であるという存在証明の場でもあるのかもしれません」と話した。

11月8、9日には60周年記念の第2弾「第49回歌謡祭」を東京・中野サンプラザで開催する予定だ。合田氏は「これからも歌手の魂の歌を届け続けますので、(コンサートに)行かないことに慣れないでください!」と願った。

<日本歌手協会>

日本歌手協会は63年2月に発足した。1回目の東京五輪開催の前年だった。ジャンルを問わずプロ歌手が対象で、会員数は現在の約4分の1の134人だった。設立趣旨は「大衆歌謡歌手の歌唱技術の向上及び活動環境の整備を図ると共に、歌唱活動を通じて健全な大衆歌謡の普及に努め、もって我が国の音楽文化の発展に寄与することを目的にする」である。75年に社団法人、10年に一般社団法人に認可された。歌謡祭の開催、優秀な歌手の顕彰、新人育成、国際交流の促進、福利厚生、機関紙の発行のほか、会員の著作隣接権など権利に関する業務も行う。

78年に会員の活動の場として「第1回歌謡祭」を東京・浅草国際劇場で開催。このほか「輝け!歌の祭典」「歌謡フェスティバル」なども、コロナ禍での中止もあったが、現在まで継続開催されている。新潟県中越地震、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など、被災地支援のチャリティーコンサートを積極的に行っている。

正式にデビューしていないが、相応の実力を持つ「プロレベル認定歌手オーディション」を10年から開始。主催の歌謡祭など歌唱の場を提供している。良質な歌を届けるために「日本歌手協会レーベル」を10年に立ち上げ、CDなどを発表している。現在の会員数は551人(21年11月現在)。

◆合田道人(ごうだ・みちと)1961年(昭36)12月13日、北海道釧路市生まれ。渡辺プロダクションから、79年に第2の松山千春として自作の「釧路にて」で歌手デビュー。新宿音楽祭などで新人賞受賞。以後、歌手、作詞・作曲家、音楽プロデューサー、司会者、作家など多彩に活動。歌謡史や童謡に関する著作多数。血液型B。

◆笹森文彦(ささもり・ふみひこ)北海道札幌市生まれ。83年入社。主に文化社会部で音楽担当。63年6月19日に東京体育館で日本歌手協会結成記念公演「史上最大の歌謡パレード」が行われた。資料によると6部制で、結成時の134人より7人増えて実に141人の歌手が出演した。仮に1人2分間歌ったら5時間弱。紹介やあいさつなどもあるから6、7時間は要したろう。タイトルに偽りなしである。

【青春プレイバック!輝け!歌の祭典2022】

▼日時 16日夜の部は午後6時開演。17日昼の部は午前11時30分、同日夜の部は午後4時開演。

▼会場 かつしかシンフォニーヒルズ「モーツァルトホール」(東京都葛飾区立石6の33の1)。最寄り駅は京成線青砥駅。

▼見どころ 司会は合田氏と、うつみ宮土理、中村メイコ、工藤夕貴の女優陣が順番で務める。工藤は父である井沢八郎さんのヒット曲「ああ上野駅」を初披露する。60周年らしく歴代会長の歌を歌い継ぐコーナー。西郷輝彦さん、作曲家の鈴木淳さん、作家の石原慎太郎さんらをしのぶコーナーもある。飛び入りゲストも登場する予定。

▼チケット 全席指定でSS席(1万2000円)~B席(3000円)の各種。車いす席(500円)や通し券、当日券もある。