バージョンアップした工場見学と体験農園 デジタル&アナログで高いエンタメ性実現

世界各国で製造、販売されているロッテの商品

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見学施設や体験施設がバージョンアップしている。今年5月16日に埼玉・浦和工場の見学施設をリニューアルしたロッテは、食の楽しさや作る楽しさを発信する学びの場「ロッテ おかしの学校」に様変わりした。映像やデジタル技術を駆使して、お菓子の楽しさや製造の工夫について学べる。5月29日に埼玉県深谷市にオープンした「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」は、オープンエアの対面で野菜の魅力を体感できる。デジタルとアナログと対照的だが、どちらもエンタメ性は高く、夏休みの自由研究としても面白い。【赤塚辰浩】

■ロッテ浦和工場「おかしの学校」

単なる見学では終わらない。「ロッテ おかしの学校」は見学日の稼働状況に応じ、「パイの実コース」と「ガーナチョコレートコース」のどちらかになる。

工場見学といえば、説明を聞きながら製造ラインを見て回るというイメージが強い。ここでは「食の学びの場」「感動体験を届ける」「地域への貢献」の3本柱がコンセプト。最初に欧州の学校を模した講堂でコース別の教科書を渡され、予習もある。見学者の「知的興味」をそそる。

ロッテのお菓子の歴史、「雪見だいふく」など主要商品が、世界のどの国で製造されているかなどだ。さらに、「パイの実」なら生地は64層あり、チョコレートは針で注入するとか、ガーナは1日200トン=400万枚製造され、家のお風呂1000杯分に相当するといった話も学べる。

事前に知識を得た上で製造ラインを見る。デジタルを使って補足もしてもらえる。実際に見学した「パイの実コース」では、六角形の裁断、チョコの注入部分をデジタルで視覚に訴えて見せることで、理解度を上げた。「ものづくりだけではなく、おいしさの秘密や、自分たちが食べるものに対する安心感や安全性も分かる。それでこそ、製造ラインを実際に見る醍醐味(だいごみ)だと思います」(ロッテESG推進部食育推進課・池田なつき課長)。

一緒に見学していた東京都練馬区の広田江美さん、伶美さん母娘は、「赤城乳業」「グリコ」などの工場も見学したことがあるという。「こちらはテーマパークのようでエンタメ性が高く、子どもも興味を持ちやすい。いいにおいがして、幸せな時間でした」(江美さん)「いつも食べているお菓子を作っているところを見られて楽しかった」(伶美さん)。

1964年(昭39)に創設された浦和工場の見学は、2年前の2月にコロナ禍や施設老朽化のため休止された。新たなパターンを模索するなかで、コースのミッションを義務付けて理解を深めてもらおうという特色を出し、「学び」を提供しようとした。

特にロッテが社会とともに持続的な成長を続けるため、事業を通じて取り組むべき5つの重要課題の1つとして、「食と健康」を重視した。食に関する知識や理解を深める食育活動の取り組みとして、食育体験者数の達成目標を来年10万人、28年には15万人以上と設定した。工場見学の強化はその一環でもある。

工場だけでなく、見学施設の見せ方は時代とともに変化している。特にデジタルネーティブといわれる今の小・中学生や未就学児童にとって、「見て触れて」は当たり前。さまざまな形の社会科見学があるが、独自性を出して盛り上がれば、産業、企業に対する意識も高まってくれる。

◆ロッテ おかしの学校 一般は、1回1グループ(10人まで)。団体の社会見学は1回最大60人まで。参加費無料、完全予約制。一般はウエブ(https://www.lotte.co.jp/kengaku)で予約。団体は【電話】048・837・0337へ。

■「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」

「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」では、野菜の魅力を最大限、体感できる。敷地面積のうちの約3分の1にあたる、6000平方メートルほどの体験農園には、30種類以上の野菜が植えられている。

ガイドスタッフからは、これまで知らなかった野菜に関する知識や魅力を会話の中から伝えてもらえる。スタッフの飛田昌男さん(70)はいきなり、「オクラといっても、緑の丸オクラと赤いオクラがあります。オクラの尾は空に向かってなってます」と、教えてくれた。ほかにも、ナスだけで11種類あるとか、思わず「へぇー」と知的興味をそそられる話が耳に入る。まさに対面の面白さだ。

もともとキユーピーが2012年(平24)に始めた新規事業プランの社内公募から始まった。「野菜の魅力を知ってもらいたい。もっと野菜を食べてほしい」と社員の松村佳代さんが提案。土地探しから始まり、生産者とつながりを持った。15年には「花園インター拠点整備プロジェクト」を進め、農業と観光のための施設を探していた深谷市の意向とも合致した。関越道花園インター近くの敷地内で、開業にこぎ着けた。

深谷ネギで有名な同市だが、トウモロコシやキュウリなども栽培され、野菜の生産高は埼玉県内の市町村で1位、全国でも6位にランクされる。

観光PRはもちろん、「収穫を体験して食べるだけでなく、野菜を買ったり、自分で作ったり、植物の成長や歴史などを知って学んで好きになってもらう。従来の体験型ではなく、自然の学校として楽しんでもらいたいです」(松村さん)。

マルシェでは、「ジャガイモは光を当てない」「ネギは立てておく」などの保存法も教えてもらえる。鍋物やグリルに合う野菜のパックの販売、調理法なども伝授してくれる。収穫して食べるだけではない、新たな体験施設で、新たな家庭科の学び方、楽しみ方がここにはある。

◆「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」 体験農園は1人1500円から2000円ほど。料金は収穫量などによって変動する。https://www.kewpie.co.jp/farm/

■安・近・短・楽プラス「子ども、体験、オンライン」

コロナ禍で工場見学の多くがオンラインを取り入れている。「非対面」「おうち時間の充実」といった時代背景、「遠方からも参加可能」という利点が大きい。カメラのアングルによってはギリギリまで近づいたり、機械音が伝わるなど、臨場感が味わえる。バブルの崩壊後、旅行のキーワードとして「安・近・短・楽(安い・近い・移動距離や期間が短い・楽しい)」が取り上げられた。昨今はこれらに、「子ども、体験、オンライン」という要素も加わる。工場見学や収穫体験はピッタリだ。