ローカル線に希望の轍を 「呑み鉄」六角精児さんと考える赤字線区の存廃問題

第5只見川橋梁は11年の豪雨で流失した。10月1日の全線復旧に向け、新たに架けられた橋梁を試験運転の列車が走る(撮影・星賢孝氏)

<ニュースの教科書>

赤字ローカル線の問題が急浮上しています。JR西日本、東日本が利用者の少ない線区の収支を公表し、国交省の有識者会議は輸送密度1000人未満の線区について国、沿線自治体、JRが存廃を協議し、3年をめどに結論を出すよう提言しました。過疎化とマイカー利用の拡大で年々利用者が減る中、コロナでダメ押しされたローカル線。いったいどうしたらいいのか、「呑み鉄」六角精児さんと考えました。

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輸送密度1000人未満は、未公表のJR東海を除くJR5社で61路線、99区間に上ります。1980年代、採算が見込めない83の国鉄ローカル線が廃線になったり第3セクターに移行しましたが、87年のJRの発足から35年。再び多くのローカル線が存廃の岐路に立たされています。

六角 全部残そうとしても、さすがにそれは無理で廃線になっても仕方のないところはあると思うんです。ただ、ローカル線は毛細血管ですから、それなりの血の通い方をしっかり話し合っていかないと。納得するまで話した上のことでないといけないと思うんです。

そんな状況下、10月1日、奇跡的に復旧するのが只見線です。2011年7月の豪雨で3カ所で鉄橋が流失し、鉄路は寸断されました。復旧費は90億円。不通となった会津川口~只見間はJR東日本でも最も輸送密度が少ない区間(21年度12人)で、バスへの転換は必至とみられましたが、復旧費を分担した上、今後、上下分離方式で地元が毎年3億円を負担することで存続が決まりました。

六角 沿線の人たちがライフラインとして必要だと声を上げたことで、福島県が動き、JR東日本をつなぎ留めた。ほかの所だったら廃線です。奥会津の粘り強さというか鉄道に対する思いがつながった。明るいパターンになってほしいなと思います。大切なのは、よりたくさんの人に乗っていただく路線になっていくこと。皆さんと一緒に考えていければいいなあと思っています。

只見川沿いに走る只見線は「好きなJRローカル線」や「紅葉の美しい鉄道路線」で1位になったことがある絶景路線です。鉄道ファン以外にもその魅力を伝えていくことができるか、これからのカギになります。一方で過疎化、高齢化が進む沿線自治体が3億円を負担し続けられるか心配する声もあります。

六角 国土交通省は道路の予算は兆なのに、鉄道には1000億くらいしか出していなくて、そのほとんどが新幹線なんです。どっかで聞いたんだけど、在来線が少ないのは国鉄のときの借金が響いているんじゃないかって。予算をもう少し在来線につけてくれないと、どうにもならないです。

ローカル線は、沿線人口の減少とマイカー利用の増加で利用者を大きく減らしました。「奥の細道最上川ライン」が愛称の陸羽西線(新庄~余目)は、87年度の輸送密度は2185人でしたが、20年度は163人。10分の1以下になりました。今年5月14日からは並行する国道47号のトンネル工事のために全線運休となり、バスが代行輸送しています。まさに道路や車のためで、道路予算の一部をローカル線に回してもおかしくはありません。

ローカル線を支える方式として注目されているのが、滋賀県が検討を始めた交通税です。利用者だけで維持していくことは難しいとして、沿線住民や県民も分担し、みんなで支え合おうという考え方です。4年後の26年までに課税方式など具体的に検討していく予定です。

六角 鉄道ファンとしてはいいと思うけど、年に1回も乗らない人から文句が出るんじゃないかな。NHKを1回も見ない人から受信料を取るようなもので、受信料は昔から取っているから、まあしょうがないかってなるけど、ものすごい反対があると思うな。難しいと思う。

六角さんはこの夏、中国山地を走る芸備線を旅したそうです。芸備線(東城~備後落合)の輸送密度は11人。4月にJR西日本が100円の運賃収入を得るのに2万5416円の経費がかかると発表すると、大変な話題になりました。

六角 結構乗っていたけれど、鉄ちゃんだけだった。途中の駅でばあさんが1人乗ったけど、通学の高校生もいなかった。昼だったからかもしれないけど、あのダイヤを見ると、通学には使われていないかもしれない。芸備線は本当に難易度が高い鉄道のアルプス(首都圏から遠く、本数も少なく、乗車が難しいという意味)で、鉄道ファンとしては価値があります。でも車窓を求める一般の人が行くかというと難しいな。

JR東日本や西日本はこれまで新幹線や都市部の在来線の稼ぎで、ローカル線の赤字を埋めてきました。しかし、コロナで輸送密度が最も高い山手線も112万人(19年度)から72万人(20年度)に大きく落ち込みました。テレワークが定着し、JR東日本は「コロナの前には戻らない」とみています。

六角 鉄路というものはずっとつながっているからいいんです。そのノスタルジーが無用と言われれば、それまでなんだけども。残しておいてほしいというのが個人的な希望です。そうはいかないから、じゃどうすればいいのかと言ったら、少しでもいいところ見つけて国、JR、沿線自治体で話し合ってほしい。そして国はもう少し予算を出す。どうしたって最終的には国が面倒みるしかなくなってきます。国が首を横に振っている限りは窒息死していくしかないんだろうな。

新橋~横浜間の鉄道開業から150年。国鉄の分割民営化から35年。ローカル線もまた大きな節目の年を迎えています。

◆上下分離方式 列車の運行と、線路、駅舎などの管理・維持を切り離し、路線を運営する方式。欧州の鉄道では一般的で、日本でも三陸鉄道など第3セクターで採用されているが、JRでは只見線が初めて。福島県がインフラを持ち、県と沿線自治体は年3億円を負担する。

◆輸送密度 1キロあたり1日の平均利用者数。1980年に施行された国鉄再建法(87年廃止)では、4000人未満は「バス輸送への転換が適当」、2000人未満は「廃線を急ぐ対象」とされた。4000人未満の路線が占める割合はJRが発足した87年度の36%から20年度は57%に増え、2000人未満は16%から39%に増加している。

◆国交省予算と国鉄債務 22年度の道路関係予算は1兆5943億円。鉄道予算は1075億円で15分の1程度。整備新幹線関連が804億円で4分の3を占めている。旧国鉄は37兆円の債務を抱え、利払いだけでも年1兆円に達した。債務残高は19年度末で約16兆円。

◆六角精児(ろっかく・せいじ)1962年6月24日生まれ。酒と鉄道を愛し、2015年スタートの「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」(NHKBSプレミアム)で、鉄道ファンの新ジャンル「呑み鉄」を定着させた。単線非電化のローカル線の旅が中心で、JRの輸送密度1000人未満の路線はここまで15回、番組に登場している。留萌線(留萌~増毛)、石勝線夕張支線、三江線は廃線になった。只見線の応援を続け、17年に六角精児バンドで「只見線のうた」を発表している。

◆中嶋文明(なかじま・ふみあき)81年入社。10月1日の全面復旧に向けて、新たに架けられた第5只見川橋梁を試験走行する列車の写真を寄せてくれたのは、福島県金山町在住の星賢孝さんです。この夏、公開されたドキュメンタリー映画「霧幻鉄道 只見線を300日撮る男」の主人公となった郷土写真家で、奥会津と只見線だけを撮影してきました。開通まであと12日。「本当にうれしい。でもこれからが正念場だ」と話しています。