「夜のパン屋さん」フードロス削減にひと役 売れ残り回避へ再販売 多数の店舗協力、広がる輪

東京・神楽坂の夜のパン屋さんの様子(撮影・沢田直人)

<情報最前線:ニュースの街から>

食べられるはずなのに捨てられてしまう食品を減らす「フードロス削減」の動きが広がっている。東京都内3カ所で週に3~4回、夜にだけオープンする「夜のパン屋さん」では、パン店から売れ残りそうなパンを買い集めて再販している。発案したのは料理研究家の枝元なほみさん。店は、世界の食糧問題を考える日として定められた「世界食糧デー」の10月16日に2周年を迎えた。11月には札幌に新店舗を開く予定。焼かないパン店の人気の秘密を枝元さんに聞いた。

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夜の東京・神楽坂の軒先で、ポツンとライトに照らされたパン店がある。「夜のパン屋さん」の営業時間は午後7時~同9時と、とっぷりと夜が更けている。ズラリと並ぶパンは、甘酸っぱいパイナップル入りのスコーンや、サツマイモが入ったフォカッチャなどバラエティーに富んでいる。仕事帰りの会社員や親子連れなどが次々と来店して、パンは次々と売れていった。

2年前の20年10月16日にオープン。東京・田町や飯田橋にも展開している。パンを製造、販売している店から売れ残りそうなパンを仕入れて再販する。北海道や静岡などの店からも冷凍で取り寄せている。

開店当初、協力してくれる店は3店舗しかなかったが、2年間で18~19店舗にまで増えた。枝元さんは「一日中営業を回って、酒でも飲まないとやっていけませんでした」と笑顔でこれまでの苦労話を語る。

枝元さんは、ホームレスの自立支援を目的とする「ビッグイシュー基金」の共同代表も務める。夜のパン屋さんでは、雑誌「ビッグイシュー」の販売員や新型コロナウイルスの影響で、アルバイト先を失った大学生などが働いている。

協力先のパン店からパンを受け取ったり、陳列や販売を行う。枝元さんは「これだけで生計が立てられるわけではないですが、生活の足しになればと、仕事として成り立つようにしています」と語った。

枝元さんによると、夜のパン屋さんの売り上げは、卸値やアルバイトの給料などを差し引いて「なんとかトントン。全部売り切れば赤字を出さない仕組み」という。「絶対にロスにしない」と、悪天候などで完売しなかった時には、子どもや外国人の学習支援団体などにパンを寄付する。

夜のパン屋さんは11月に札幌市でも新店舗を展開する予定だ。オープンしてからこれまでの2年間を「怒濤(どとう)の日々」と振り返る。

「『良い取り組みですね』って言ってもらえたり、皆さん環境やフードロスのことに、関心が高いんだなと感じるようになりました」。その上で「今、困窮なさる方が多いので、少しでもそういう方とつながっていけたらと思います」と話した。夜のパン屋さんのSNSでは、営業時間や店頭に並ぶパンを告知している。【沢田直人】

■年522万トン

◆フードロス 食品ロスとも呼ばれ、本来食べられるはずの食品や食材が、さまざまな理由で捨てられてしまうこと。食品などは可燃ごみとして処分されるため、温室効果ガスが排出され、環境に悪影響を与える。農林水産省によると、20年度の日本の食品ロス量は計522万トン。そのうち、事業者から出る量は275万トン。家庭から出る量は247万トン。1人あたり1日約113グラム、茶わん1杯分のごはんを捨てている計算だ。30年までに計273万トンまで減らす目標を設定。前年度より計48万トン減少した。

■名古屋駅で販売 規格外「宿儺かぼちゃ」使ったハロウィン菓子

JR名古屋駅で販売している洋菓子「ハロウィンぴよりん~宿儺(すくな)かぼちゃ~」(テイクアウト価格、税込み500円)では、岐阜県高山市の名産品「宿儺かぼちゃ」の規格外品から開発したかぼちゃのペーストを使用している。

宿儺かぼちゃはヘチマのような独特な形で、甘みが強く、ほくほくとした食感が特徴。品質の特性から、角状・いぼ状の突起が付いたり、極端に曲がったかぼちゃが一定数発生する。

獣害や病害も受けやすく傷が生まれ、規格外品となるフードロスが発生していた。岐阜県農政部によると、21年度は約133・7トン生産されたが、うち出荷できない規格外品は約19・4トン。規格外品のかぼちゃからペーストの原料98%を作っている。

ハロウィンぴよりんは、名古屋コーチンのひよこがモチーフで魔法使いのような見た目。プリンを宿儺かぼちゃのペーストから作ったババロアで包み、スポンジをまぶしている。販売期間は5日から31日まで。

■奈良の老舗 廃棄される野菜や果物から新素材の紙「vegi-kami」

創業132年の、紙や紙製品の販売、開発を行う「ペーパル」(奈良市池田町)でも、フードロス問題に取り組んでいる。同社は、加工する過程などで廃棄される野菜や果物から、新素材の紙「vegi-kami(ベジカミ)」を開発。17日に販売を始めた。

ベジカミの第1弾はにんじん。売り上げの1%を、食べられるのに廃棄される食品を生活困窮者などに再分配する事業「フードバンク」に寄付をする。

紙にはオレンジ色をしたにんじんのツブが現れている。ペーパルの矢田和也取締役によると、紙にはあえて質感を残した。ネギとにんじんを比べてテストした結果、にんじんがより素材としてきれいに残すことができたという。印刷や加工も可能で、名刺やメモ帳、貼箱にも使用できる。

ペーパルでは、これまでにも食用に適さない古米やメーカーなどで発生する破砕米を使用した「kome-kami(コメカミ)」を製造していた。矢田さんは「フードロス問題について、1人1人の行動を変えるきっかけになればうれしいです」と話した。