再選挙の品川区長選で史上初「再々選挙」も 法定得票数に届くか?前回は6人で票分散

品川区役所の外観

<情報最前線:ニュースの街から>

10月2日に投開票された東京都品川区長選が、再選挙(27日告示、12月4日投開票)に持ち込まれた。全国の自治体で7例目、区長選では初めてだ。4期16年務めた前職の不出馬による10月の選挙には6人が立候補して票が分散、当選に必要な法定得票数に達した候補がいなかった。再選挙には、前回と同じ約2億円の経費が見込まれる。今回は5人が立候補する見通しで、史上初となる「再々選挙」への懸念も指摘されている。【取材=中山知子】

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10月の品川区長選には、6人が立候補した。4期16年務めた浜野健前区長の退任に伴う選挙。同区長は長年、区職員が選ばれてきたが、10月の選挙ではこの「慣例」が崩れ、6人はいずれも職員以外だった。

公職選挙法は地方自治体の首長選挙の場合、法定得票数を「有効投票の4分の1」とし、達しない場合は民意が十分に反映されていないとして再選挙としている。品川区長選の場合、6人の出馬で票が分散。法定得票数は2万8348・75票だった。

前回、2万7759票でトップだったが、法定得票数に約590票足りなかった森沢恭子氏(44)は「応援してくださる方が『悔しい、今度はもっと頑張るから』と。私自身、訴えを浸透させきれなかった。候補者として、その部分は悔しいと思う」と話す。都議時代から子育て対策などに当たってきたが、前の選挙中に寄せられた区民の声を生かし、今は高齢者や障がい者福祉にも力を入れる。「再選挙になった理由の1つに『政策に何の違いがあるの?』ということがあったと思う。私の政策を分かりやすく伝えていきたい」。

チラシには、前回なかった前区長との写真を載せ、浜野区政の「継承と発展」を訴える。「今回で決めたい? そうですね。選挙のコストが約2億円、陣営でも労力やお金も含めてかかってしまう。何より、区長不在は区政にとっていいことではありません」。

浜野前区政への立ち位置は、1つのキーワードでもあるようだ。森沢氏に次ぐ2万6308票を獲得した石田秀男氏(63)の陣営関係者は「浜野さんとずっといっしょにやってきたことを説明している。いいところは引き継ぎ、変えた方がいいところは変えるというスタンスです」。石田氏は品川で生まれ育ち、浜野区政の間も含め区議を22年務めた。「今こそ即戦力」をアピールする。地域をこまめに回り、推薦を受ける自民党の組織固めも進める。

一方、都市銀行を8月に辞めて約1カ月後に出馬、森沢、石田両氏に次ぐ2万4669票を獲得した山本康行氏(46)は、民間出身のしがらみのなさが強み。「50年以上続いた区役所出身の区長の転換をしたい。現場にヒントがあることは、サラリーマン時代に感じたこと。区長になれれば区民の方の声を直接聞いて反映させたい。経験を役立てられると思う」と、新しい区政づくりに意欲を示す。

19年区議を務めた西本貴子氏(61)は「私には組織がない。おひとりおひとりに声をかけ、こつこつと積み上げていくしかない」と話す。共産党の推薦を受ける村川浩一氏(75)は浜野区政からの転換を求めている。

各候補が懸念するのが、再選挙に区民の関心が低いこと。「ご存じない方もいる。まずは関心を持ってほしい」(森沢氏)「(現区政に大きな)問題がないことの裏返しかもしれないが、再々選挙は避けたい」(西本氏)。前回出馬した大西光広氏(65)は9日、再々選挙の回避などを理由に再選挙不出馬を表明した。

区民の1人は「区役所は生活に近い場所ですが、だれが区長か正直、知らない。もっと顔が見えるような仕組みがほしい」と話し、今回の再選挙を機に「区長改革」への期待も示した。

■選管担当者「可能性はない、とも言い切れない」危機感

品川区では、27日告示の再選挙に向けた準備が進む。区の選挙管理委員会によると、再選挙に立候補を予定する候補者への書類配布には、前回立候補した6人中5人が取りに来た。前回の選挙に区議2人が立候補したことで、区長選と同日に区議の補選も行われる。

再選挙には、10月の区長選と同じ約2億円の経費が見込まれる。1度の選挙で結果が出ていれば必要のない経費だ。区は関心を高めたいとさまざまな工夫をこらす。広報誌で特集号を組むほか、区の観光大使を務めるサンリオの人気キャラクター「シナモロール」を使った啓発活動でも投票率アップをねらうが、候補者の感じる通り区民の関心は高いとはいえない。

過去5回の区長選の投票率は14年に23・22%で、残りも3割台。16年ぶりに新しい区長を選ぶ10月の区長選も35・22%と低調だった。担当者は「区独自での選挙はどうしても投票率が低くなる。(4月の)統一地方選と同じ日程なら関心も高まるのですが…」。

品川区では浜野健前区長の前任者が任期途中に急死。区長選は06年以降、10月実施で、統一地方選の日程から外れた。統一地方選と同じ日程時、区長選の投票率は43・16%だったこともあるが「その後下がってしまった」(選管)そうだ。

区選管が懸念するのは、今回再選挙でも区長が確定せず、再々選挙となることだ。担当者は「再々選挙の可能性はない、とも言い切れない」と危機感を示す。

再選挙でも候補者の主張が大きく変わるわけではなく、急に関心が高まる要素は少ない。もともと再選挙は投票率が下がる傾向にあり、過去再選挙になった6例中5例が、最初の選挙より投票率が下がっている。

品川区は2カ月近く「区長不在」が続く。浜野氏の退任後、10月8日から1人目の副区長が職務代行を務め、現在は2人目の副区長が職務代行者となるなど、異例の対応が続いている。

◆過去の再選挙

総務省によると、地方自治体の首長選で再選挙が行われるのは今回で7例目。過去の6例は

<1>千葉県富津市長選(79年6月17日)

<2>奈良県広陵町長選(93年8月8日)

<3>札幌市長選(03年6月8日)

<4>宮城県加美町長選(07年6月17日)

<5>鹿児島県西之表市長選(17年3月19日)

<6>千葉県市川市長選(18年4月22日)

候補者が多く出馬した場合、再選挙となるリスクが高まる傾向にあり、<2>と<3>は最初の選挙に7人が立候補した。一方で再選挙では、候補者数が減る傾向にあり<2>は7人→3人、<3>は7人→4人に減少、再選挙で結果が確定した。新規の立候補者が出馬したケースも。

4年前に再選挙となった市川市長選は今年3月の選挙でも過去最多の6人が出馬。2度続けて再選挙となる初のケースの可能性もあったが、回避された。