なぜ今?サブスク時代にレコードが人気「ジャケット含め1つの作品」アナログ人気の背景とは

ベルウッドを立ち上げた三浦光紀氏

<ニュースの教科書>

CDの誕生とともに絶滅危機だったレコードですが、欧米でのアナログ人気もあり、日本でもレコード人気が定着しています。生産額は10年の1・7億円から昨年は39億円とうなぎ上り。今年はさらに更新する勢いです。TikTokやYouTubeなどで音楽が楽しめ、サブスク全盛時代の今、なぜレコードが売れ続けているのでしょうか。大滝詠一さんをはじめとする、アナログ盤が引く手あまたのレコードレーベル「ベルウッド」を立ち上げた三浦光紀氏(78)に、アナログ人気の背景を聞いてみました。

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まずはCDの歴史を振り返る。世界で最初に発売されたCDの1枚が大滝詠一さんの名盤「ア・ロング・バケイション」。82年10月だった。ただ、LP盤は81年3月にリリースされている。三浦氏によると、CDのみで発売されたのは、ムーンライダーズ「マニア・マニエラ」が世界初で82年12月。当時はCDプレーヤーがほとんど普及しておらず、プレスは数百枚で幻のCDとなっている。

日本レコード協会の生産額でみると、レコードの最盛期は80年の1812億円。そこからCDが逆転するのは歴史の通りで、レコードは10年の1・7億円にまで落ち込んだ。

その一方、レコード人気の復活は欧米が先行する。米国では20年にレコードの売り上げが34年ぶりにCDを上回り、英国でも21年にレコードが87年以来、CDを初めて上回った。

とはいえ、日本ではCDがまだ売れ続けている。世界を見渡すと特殊なケースだ。21年のCDの生産額は1232億円。レコードの39億円と比べると2桁も違う。ただ、今年のレコードの生産額は10月までで34億円と40億円を超える勢いで、じわじわと人気が再燃しているのも事実。このブームを見越して、ソニーミュージックは18年からレコードの生産を再開した。

-音楽は技術の進歩とともに楽しみ方が変わりました

三浦氏 エンターテインメント産業そのものが、技術の進歩と表裏一体なんです。SPやLPから、持ち歩きができるカセットになり、カセットよりCDは音出しが便利だとなった。CDはデジタルで音が安定していました。

-レコードとCDは音がどう違うのですか

三浦氏 まずCDは音を入れる時の周波数の帯域が決まっていて、下は20ヘルツで上は20キロヘルツと、それ以外の音はカットされます。技術的に音が入らないんです。アナログだとそれ以上の帯域の音も入るんですが、人間の耳には聞こえないとされています。

-一般の人だとそう変わらない?

三浦氏 レコードとCDを聞き比べると、アナログの方が音に奥行きがあるとか、重低音がずしんとくるとか言われています。アナログのオーディオセットが視覚的に重厚な雰囲気を醸し出すこともあって、いい音だと認識させる側面もあると思います。

-レコードが音がいいわけでもない

三浦氏 私がキングレコードに入社したのは68年。当時の日本のサウンドは遅れていて、欧米が16チャンネルに対して日本は2チャンネルが主流でした。だから、音質を世界レベルに上げたいと、72年に立ち上げたレーベルがベルウッドでした。欧米に追いつけと、高品質サウンドを追い求めてきました。

-レコードのカッティングは職人の腕によるとか

三浦氏 レコードは塩化ビニール樹脂というプラスチックの樹脂をプレスします。カッティングとはレコーディング(録音)された音からレコードの溝を刻む作業のことです。このカッティングは職人さんの手作業で究極の名人芸です。音質にこだわった大滝詠一さんは最終的にレコードの音質を決めるのはカッティングだと言い、当時は工場にあったカッティングマシンの操作にも立ち会いました。

-そんなに違いがあるのですか

三浦氏 例えば、ビートルズの赤盤と青盤があるじゃないですか。一般的には青盤の方が音がいいとされていますが、好みの問題だと思います。大滝さんは、塩化ビニール樹脂の配合にまでこだわってました。あと、プレスするレコードの溝が深い方がいいから、キングレコードはスーパーアナログディスクというものも作りました。ソノシートの逆と思ってもらえるとわかりやすいです。

-サウンドにこだわったレコードが評価されているようです

三浦氏 そうですね。レコード会社はレコードが売れないと生活はできないのですが、ベルウッドは商業的価値よりも文化的価値を目指しました。ヒットはもちろんですが、それよりもロングセラーをと。だから、ジャケットにもお金をかけました。いわゆるアートとして、壁にかけてもいいように作りました。レコードは曲を飛ばすこともできないので、曲順はもちろん、曲と曲の間の時間とか、ジャケットを含めて1つの作品なんです。

-サブスクの聴き方とは正反対ですね

三浦氏 サブスクは否定しませんし、サブスクで昔の曲が聴かれたからこそ、今のアナログブームだと思ってます。分かりやすく言うと、サブスクはコンビニですかね。コンビニ商品も十分おいしいですが、やはり、プロによって整えられた環境のお店で、シェフが工夫をこらしたおいしい料理も食べたいと思う時もあるのではないでしょうか。若い人にとっては、プレーヤーにレコードを乗せ、レコード針を慎重に落とし、ノイズの後にやっと音が出るという行為も新鮮でおしゃれなんだと思います。

-とはいえ、レコードの売り上げが伸び、CDの減少を補填(ほてん)するとは思えません

三浦氏 レコード会社もミュージシャンもサブスクだと収入は減ります。だから、私は今、NFT(非代替性トークン)やメタバースなどの最新技術を使って、デジタル作品とフィジカル作品の両方の音楽作品を販売する次世代のコンテンツ販売会社を立ち上げたいと思ってます。グーテンベルクの活版印刷の発明で、知識の民主化が始まりました。Web3・0は誰もがアーティストになれる、アーティストの民主化の時代になると予想しています。

◆ベルウッド・レコード キングレコードの社員だった三浦氏が「クオリティーが高く時とともに価値が増す作品作り」を目指し、20代の会社の仲間と立ち上げたレーベル。72年、レコード芸術の追求とアーティスト至上主義を基本方針にニューミュージックの宝庫を掲げてスタート。世に出した作品は、日本のフォーク、ロックの黎明(れいめい)期を支え、日本のポップス音楽に多大な影響を与えた。世界的なアナログレコード再燃を受け、海外からも注目され、ポール・マッカートニーやジョン・レノンもレーベルのコレクターとされる。主な所属アーティストは、はっぴいえんど、小室等、高田渡、あがた森魚、はちみつぱい。

<タワーレコード、アナログ専門店開設>

アナログ人気に応えるため、タワーレコードは昨年9月、アナログ専門店「タワーヴァイナル」を渋谷店に開設した。19年3月に新宿店をオープンしたのが最初。同店のリニューアルにあわせ渋谷店に移転した。「敷居は低く奥が深い」をコンセプトに在庫は7万枚を誇る。

CDと比べての売り上げが気になるが、同社広報部によると、新品、中古、国内盤、輸入盤などCDとは違うので単純な比較は難しいが、総合的にはそれほどの差はないという。客層については「CDは10~30代の女性と40代以上の男性がメインで二極化傾向にあります。アナログは40代以上の男性がメインですが、男女を問わず若い世代から各年代広くファンの方がいらっしゃいます。インバウンド、外国人のお客様の比率も非常に高いことも特徴です」。

また、ユーザーの傾向として、中古盤などは定期的に入荷する商品をチェックする人が多く、欲しい作品を探したり、ほかにどんな作品があるのかチェックをする人も多く、滞留時間は長くなる傾向にある。

アナログは、新譜だけでなく中古も取り扱っており、コロナ禍では海外からの中古盤の買い付けなどが難しかったという。そのため、販売の比率は新品3対中古1ぐらいの割合だったが、インバウンド需要も増えてきたことで、最近は中古盤のシェアが高くなっているという。

◆竹村章(たけむら・あきら)1987年(昭62)入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。芸能全般のほか、放送局などメディア関連の担当が長い。テレビ特集ページ「TV LIFE」や「ドラマグランプリ」を立ち上げる。最初に買った洋盤はKISS「デトロイト・ロック・シティ」も、その後は英ロックに目覚め、レッド・ツェッペリンを聴きあさる。