どうなる神宮外苑のイチョウ並木 小池都知事はどう判断する?再開発で生育に影響の声も

昨年12月、神宮外苑のイチョウ並木

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東京・神宮外苑のイチョウ並木を守って-。東京2020開催に伴う明治神宮外苑地区の再開発をめぐり、名所のイチョウ並木の生育に影響が懸念されるとして、計画の見直しを求める声が出ている。市民らの反対署名は11万人近く集まり、日本イコモス国内委員会は東京都に、環境影響評価(アセスメント)の再審議を要請。国会では議員連盟も設立された。イチョウ並木の「名勝指定」を求める声もあり、小池百合子知事の判断に注目が集まる。「民間の努力に耳を傾け、未来にしっかり手渡す財産を守る活動をしていただきたい」。世界文化遺産登録の調査など、文化財保護に関する活動を行う国際NGO組織「イコモス」の日本国内委員会理事、石川幹子・中大研究開発機構教授らは昨年12月26日、都庁で会見を行い、訴えた。会見に先立ち、東京都環境影響評価(アセスメント)審議会が開催され、外苑地区再開発事業に伴う環境影響評価書の素案の内容について報告が行われた。石川さんは、それまで訴えてきた神宮外苑のイチョウ並木の保全策について、事業者側から納得できる回答が得られなかったと主張。継続審議が必要との見解を示した。

審議に先立ち、小池知事あてに、都の条例に基づく「実施制限の解除」を行わないよう求めた要請書も提出した。小池氏は昨年、事業者側にイチョウ並木の保全に万全を期すことや、ほかの樹木についても極力保存や移植するよう文書で要請した。石川さんはそれを念頭に「実施制限が解除されれば、事業にゴーサインが出る。知事自身が守りたいと言っている。(現状の動きは)健全ではない」とも指摘した。

神宮外苑地区の再開発をめぐっては、多くの樹木が伐採されるとして反対運動が続く。きっかけをつくったのが石川さんだった。独自調査で、1000本近くが伐採される恐れがあるとして昨年2月に問題提起。都の都市計画審議会が計画案を承認する直前だった。伐採に関する事前の情報開示が不十分だったことも、住民らの怒りにつながった。その結果、環境影響評価の審議は異例ともいえる長期化をたどっている。

事業者側は、イチョウ並木について「すべてを保全する計画」としているが、これまでの審議会では委員から、保全のための科学的データ不足を指摘する声も出た。一方、地区内の樹木については当初892本を伐採するとしていたが、追加調査を経て743本に減らすとした。事業者のホームページでは、樹木の保存・移植に努め、837本を新たに植え、地区内の樹木数を1904本から1998本に増やすとしている。それでも計画の見直しを求める声は収まらない。

イチョウ並木は紅葉の時期以外も、多くの人に親しまれる。再開発計画案では、イチョウ並木の横に新しい野球場やホテルを備えた施設の建設が予定され、球場の壁は並木から約8メートルの場所に迫る。イチョウの生育、特に根の生育への影響を懸念する声が強まっている。

石川さんは現在ある146本のイチョウをすべて調査し、「重大な衰退がある」ことが分かったと指摘。事業者側は、一部のイチョウについて落葉が早いことを約3年前に把握していたとする文書を昨年12月に公開したが、石川さんはイチョウ並木に関する審議が昨年4月~8月に行われた際には報告がなかったとして不信感を示した。

昨年12月の審議会は、これまでの指摘を受けて事業者が提出した素案を確認する場だったが、委員からは依然、イチョウ並木の衰退に対する懸念の声が出た。今後、事業者が評価書をあらためて都に提出した後、都側の判断が始まる。

石川さんの会見には、昨年2月から署名サイトで計画反対の署名を集める米国人コンサルタント、ロシェル・カップさんも同席。「知りたいことへの答えは全然出ていない。なにより、なぜ再開発をするのか知りたい。都民の声に向き合い、よりよい計画に練り直してほしい」と意見交換の必要性を求めた。

計画を進める事業者側と、日本イコモスや市民による反対の声。対極にある動きを前に、小池氏はどう対応するのか。【中山知子】

◆明治神宮外苑と神宮外苑地区再開発 明治神宮外苑は、明治天皇崩御後に国民の憩いの場となることを目的に整備された、近代日本初の本格的西洋庭園。全国から献木や献金が行われ、多くのボランティアの手で造営された。

再開発計画は、都が定めた「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針」などを踏まえ、三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事の4事業主体が取り組む。現在の秩父宮ラグビー場がある敷地に、ホテルなどを併設した野球場を建設。ラグビー場は現在の神宮第二球場を解体した跡地に新たに建設される。着工予定は2024年、完成予定は2036年。

■超党派の国会議員28人見直し求める

神宮外苑地区の再開発に対しては、永田町でも計画への反対、見直しを求める声が出ている。昨年11月30日、超党派の議員連盟「神宮外苑の自然と歴史・文化を守る国会議員連盟」が発足。発起人代表を務める自民党の船田元・衆院議員は、イチョウ並木まで徒歩圏内に自宅があり問題意識を持っていた。昨年8月、都の環境影響評価審議会が、答申後も事業者側の対応を継続的に見守るとする異例の言及をしたことを受けて本格的に活動を始め、衆院文科委員会でも質問した。

船田氏は昨年末の会合で、外苑地区の樹木について「現在も造園当時のものがそのまま残る。単なる樹木ではない」と強調。3つの高層ビルが新たに計画され、ラグビー場と神宮球場の場所が入れ替わることに伴い「新たな球場が、イチョウ並木に非常に近くなり、根がちぎれたり風や日照がさえぎられれば、生育に影響が出る」と懸念を示し「風致地区として国民に親しまれる外苑のおおらかな空気や景観が壊されるのではないか」とも訴えた。

発足時16人だったメンバーは、昨年末までに28人に増えた。議連は先月、現計画ではイチョウ並木の枯死の危機や高層ビル建設に伴う景観破壊などの懸念があるとして、再開発計画の抜本的見直しを求める内容の決議を採択。今後、関係各所にも働きかける方針だ。

■国の「名勝」に

イチョウ並木を現在のまま保全するため、国の「名勝」に指定しようと働きかける動きもある。日本イコモス国内委員会が昨年10月、「近代日本の公共空間を代表する文化的資産」として名勝指定を提言。超党派議連も求めている。「名勝」は文化財保護法に定められ、国が指定する文化財の1つ。「庭園、橋梁、峡谷、海浜、山岳その他名勝地で我が国にとって芸術上又は観賞上価値の高いもの」のうち、重要なものとしている。文化庁のホームページによると現在、特別名勝が36件、名勝は457件登録。都内では、浜離宮恩賜庭園(特別名勝)など複数が指定されている。