「しおます」新たな伊豆名産へ 廃棄ニジマスを2次利用、伝統工法「しおかつお」で新商品に

できあがった試作品の「しおます」を掲げる芹沢安久さんとマスを提供した岩本いずみさん(撮影・寺沢卓)

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大量のフードロスがお宝に生まれ変わる!? 産卵後に廃棄していた養殖ニジマスのメスを異業種のカツオ節製造会社がひきとって、早ければ2024年春においしい特産品に変身させる計画が静岡・伊豆半島で進行している。

奈良時代より西伊豆町田子地区に伝わるカツオに天然塩を塗り込んで漬け置きして干す「しおかつお」という加工法をニジマスに転用したもの。昨年末につくった試作品の完成度が高く、新たな伊豆名産への期待度も高まっている。

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1882年(明15)創業のカネサ鰹節商店(西伊豆町田子)の5代目芹沢安久副代表(54)が2月にカツオではなくニジマスをつかった「しおます」づくりに本腰を入れる。きっかけは静岡・富士宮市や伊豆半島に養殖池4つを持つ柿島養鱒(本社・函南町)の岩本いずみ社長(56)から「産卵を終えて廃棄するしかないメスのニジマスで“しおます”をつくってみない?」という投げ掛けだった。

毎年11月、柿島養鱒では養殖用にメスのニジマスの卵をしぼる。産卵した2~3キロのメスは廃棄するしかない。総量で約2トン。岩本さんから、そのうちの40匹が芹沢さんに預けられた。「脂乗りがいい。廃棄せずにカツオのように塩で漬けたら間違いなくおいしくなる」と芹沢さんはニジマスの第一印象を振り返った。

淡水魚であることもあり、カツオよりも多くの塩を塗りたくり2週間漬け込んだ。そして北風が抜けて日光のあたらない工場内につるしてさらに2週間手を出さずに待った。養殖で育てた魚ということもあったのか「予想以上に脂が落ちた。その分だけ身がしまって、かなり状態よく仕上がった。テストとしては上出来です」と芹沢さんは話す。

しおかつおもカツオ節も伝統工法を崩していないが、芹沢さんは「いいモノだから残る、と周囲からは言われるけど、時代に合わせて変革しないと消えてしまう」と話す。しおかつおは神事にも使う正月の縁起もの。しおかつおでお茶漬けや食べやすい切り身などを手掛けたときに地元から非難された。「最初はお茶漬けも売れなかった。今では主力商品。行動しないと伝統は守れない。このマスは生まれ変われる。今年1年調整できれば新商品になるかも。山と海がコラボする新たな伝統ですね」と芹沢さんは目を輝かせた。

カツオ節の売り上げの落ちる2月は毎年何も作業はしない。2トン程度であれば一気に塩漬けできる。柿島養鱒では卵をしぼったメスのニジマスは、芹沢さんに渡す分として、まだ50本近く冷凍保存している。じっくりと飲食チェーン店向けの試作品をつくる方針だ。

塩を多めにしたことで「うまいけど、ややしょっぱい」(芹沢さん)ので、塩の配分と漬け込む日数、水での戻しなどを微調整する。岩本さんも「こんなにおいしくなるなんて。脂が多めだったので、今春から与えるエサを考える。抱卵に影響なく、脂が乗りすぎない肉質を目指す。目標は来年3月の商品化」とフードロス削減にも寄与する伊豆半島の“名物候補”に意欲をみせた。【寺沢卓】

▼しおかつおとは 冷蔵保存のできなかった奈良時代から西伊豆・田子地区で代々伝わるカツオの加工、及び保存法、そしてできあがった加工品を指す。とれたてのカツオを3枚におろして、天然塩を塗り込んで2週間ほど漬け込み、さらに2週間ほど風通しのよい直射日光のない場所でさらす。正月の神事用では内臓を取り除いて、わら飾りを施す。1980年代まではカツオ漁で田子港もにぎわっていたが、漁師の跡継ぎがいないことやカツオの不漁などもあり衰退。現状では南洋産のカツオを加工用につかっている。カネサ鰹節商店では、煮たカツオからカツオ節にする際、手火山(てびやま)式焙乾(ばいかん)という約130度の遠火で高温処理をする独特の手法で機械は一切入れていない。

▼静岡県のニジマス養殖と柿島養鱒 農水省「漁業・養殖業生産統計年報」によると、2020年における全国の養殖ニジマスの収穫量は3858トン。うち静岡はちょうど800トンで全国1位。柿島養鱒の年間生産量は「ここ数年400トンですね」(岩本社長)。都道府県単位では2位は山梨県596トン、3位は長野県587トン、4位福島県が256トンだった。

柿島養鱒は1973年(昭48)創業。岩本社長の父柿島敬さんが創業者。岩本社長は2005年に引き継いだ2代目。ニジマスを富士山の伏流水で育てていることもあり「富士山サーモン」として、サイズの小さい個体は「ベビーサーモン」として商標登録。イワナも「祝魚」と書いて商品化するなどアイデアも豊富。全国規模の飲食チェーン数社とも取引をしており、ニジマスの養殖業界では注目されている。年商は約4億円。