山田ルイ53世が語るラジオと人生哲学とは?「一発屋」自虐ににじむ底意地悪さと厭世観

インタビューに答える山田ルイ53世(撮影・丹羽敏通)

<オトナのラジオ暮らし>

「ルネッサーンス」の一声で大きな一発を打ち上げたのも今は昔。お笑いコンビ、髭男爵の山田ルイ53世(47)は今、週3本のレギュラー番組を持つラジオスターになっていた。「一発屋」の自虐ににじむ底意地の悪さと厭世観(えんせいかん)を呵々大笑(かかたいしょう)して中和する。一発屋と呼ばれる男が語るラジオと人生哲学。【秋山惣一郎】

   ◇   ◇   ◇

-昨春スタートしたベイエフエムの看板番組「シン・ラジオ」で、木曜パーソナリティーを務める

「ベイエフエムも思い入れを持ってやってくれてる番組ですから、ありがたいです。でも、この時間帯で30年ぐらい続いた『ベイライン』という番組の後を継いだんで、当初は『ベイラインを返せ』なんてケチョンケチョンに言われました。リスナーの反旗ののろしで五里霧中、前が見えないといった状況でした。これは面倒やな、しんどいなと思って『リスナーが正しい』『間違ってるのはベイエフエムや』『僕の担当する木曜だけでも半年で終わらせる』と、ご機嫌をうかがうスタンスで沈静化に努めました」

-どんなことをしゃべってるのですか

「僕がしゃべりたいことを、リスナーの投稿コーナーにかこつけてしゃべってる感じですかね。例えば、僕は取ってつけたような美談が、あんまり好きやないんです。ええ話をしようという企画を否定はしませんが『こんなの好きでっしゃろ』という感じで美談を押しつけてくる作り手って、ちょっと気持ち悪い。いっそ全部ウソの方がすがすがしい。『USO BIDAN』というコーナーでは、リスナーから実話さながら、100%のウソ美談を投稿してもらってます」

「僕は中学から6年間、引きこもりを経験しました。そのことでインタビューを受けると、聞き手は『その経験があるから今があるんですね』みたいな話に持っていきたがる。僕は、まったく無駄な時間やったと思ってるのに『いやいや、その6年が』と美しい着地に引き戻してくる。そういうのに飽きてるんですよ、僕もリスナーも」

-美談や「ええ話」を求める制作者や世間に抵抗している、と

「スポーツやエンタメを見て『勇気をもらえました』とか『感動をありがとう』とか言いますけど、勇気や感動って、そんな簡単にやりとりできるもんですかね。そんなん気味悪いんで、なるべく乾いた空気感でしゃべれれば、と思ってます。聴いてて不愉快じゃなければいいですけども。ハッハッハ」

-言葉を選ばずに言えば、底意地が悪いというか厭世的というか

「言葉を選んでください。僕は『一発屋』と言われるような肩書を背負うことになって、別にそれを恥じてはいませんが、ナチュラルな感じでなめられることが多いんですよ。テレビ番組のロケで自宅に来たディレクターが『結構、いい家に住んでますね』とか言う。悪気はないんでしょうが『落ち目の一発屋なのに』という気持ちがかいま見える。一発屋だからと下に見て油断するんでしょうね。人が人間性をあらわにする瞬間をしばしば見てきました。人間観察するポイントとして、いい立ち位置だと思ってます。ハッハッハ」

-何ともはや、ですね

「ずっとそんな感じで生きてますんで、リスナーから『誕生日おめでとう』とか『受験がんばって』とか言ってくれと求められても言わへんし。素直に言えるパーソナリティーではありたくない、言いよどみたい、というのはありますね。ま、僕みたいなモンにおめでとうと言われてもうれしくもないやろ、力にはならへんよ、という謙虚な気持ちが基本にある、ということは強調しといてください。ハッハッハ」

-シン・ラジオの他に「髭男爵 ルネッサンスラジオ」(ルネラジ、文化放送ポッドキャスト)や「キックス」(YBS山梨放送)でもパーソナリティーを務める。今やラジオスターと言っても過言ではない

「ルネラジが始まった2008年(平20)は『売れっ子です』みたいな顔をして、テレビの番組収録の裏話みたいなことも話してましたが、仕事が“落ち着いて”からは地方営業の話が中心になり、愚痴が増えていった。しゃべる場があることは、ありがたかった。でもラジオ愛を語る気はありません。ラジオの世界だけでちやほやされて、割と偉そうな感じの芸人がいるんですよ。『ちっちゃい世界で王様になってもうてるで』という姿を見てきたんで、そうはなりたくないな、と」

-ラジオ好きを公言する女性アイドルもいるなど近年は「ちっちゃい世界」とは言えないのでは?

「ラジオ業界は調子いいか悪いかで言えば、良くはない。世の中的にはニッチな存在です。そんな状況で、ラジオが好きな若い子なんて意外性がありますよね。その意外性が『キャラ立て』になってるということですから、そんなん、もろ手を上げて喜べることやないでしょう。ハッハッハ」

-ラジオで得たものもあるのでは?

「最近は、物書きのまねごとみたいなこともさしてもらってますが、ラジオでしゃべることを細かくメモしてネタ帳を作ってたことが、つながってるとは思います。読みやすい文章ってしゃべりのテンポやと思います。僕は、書くこととしゃべることが連動してるんで、ラジオは原点と言って差し支えないでしょう」

-人生哲学がうかがえるお話でした

「まぁまぁ、深いこと考えてる知的な感じで、ええように書いてください。ただ、意味ありげなことを言おうとしてる、と思われんのは恥ずかしいです。思てることを言うてるだけですから。アッハッハッハ」

◆山田(やまだ)ルイ53世 1975年(昭50)、兵庫県生まれ。地元の名門私立中学入学後、6年間のひきこもりを経験。その後、国立大学に進学するも中退して99年、お笑いコンビ、髭男爵を結成する。08年、「ルネッサーンス」でブレーク。だが、その後が続かず「一発屋」と呼ばれる。18年、月刊誌連載「一発屋芸人列伝」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞受賞。「ヒキコモリ漂流記」など文筆家として注目される。「シン・ラジオ」(ベイエフエム)などラジオパーソナリティーとしても活躍している。

▼シン・ラジオヒューマニスタは、かく語りき(ベイエフエム、午後4時~) 22年4月から木曜担当。「ヒューマニスタ」とは「ヒューマン」と「ファンタジスタ」を合わせた造語。「人間特化型」の情に豊かな「情豊ワイド」番組。鈴木おさむ(火曜)、関根勤(水曜)、友近(金曜)らがヒューマニスタを務める。

▼髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ 08年9月、文化放送でスタート。現在はポッドキャストで配信している(月曜更新)。同局の広報担当者によると「愚痴・ねたみ・そねみ。そして愉快なメールとトークでお送りする30分」番組。地上波では山梨放送、北日本放送、山口放送の3局ネット。

▼はみだししゃべくりラジオキックス(YBSラジオ、午後1時~) 13年4月から、金曜パーソナリティーを務める。コンビを組む同局アナウンサーへの「秀逸なイジりと軽快なトークで広く愛聴されている」という。日替わりで時事芸人のプチ鹿島(火曜)らも出演。山梨県外では、ラジコのエリアフリーで聴ける。