渋谷「Bunkamura」ピンチはチャンス…場所変え分散営業、5年後リニューアル再集結

4月10日からの休館が決まったBunkamuraの外観

<情報最前線:ニュースの街から>

別れの季節でもある春。東京で親しまれてきた「カルチャーの担い手」たちが、近く休館や営業終了の時を迎える。東京・渋谷の「Bunkamura」は周辺地域の再開発に伴い4月10日から休館。館内の複数の文化施設を、場所を変えて“分散営業”するユニークな試みを始める。「ピンチだがチャンス」という前向きの挑戦。リニューアルは5年後だ。JR東京駅に近い大型書店の先駆け「八重洲ブックセンター」本店は3月31日、44年の営業に幕を閉じる。【中山知子】

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Bunkamuraは1989年(平元)に、日本初の大型複合文化施設として東京・渋谷にオープン。音楽、演劇、美術、映画などさまざまなジャンルの施設から形成され、独自の視点による文化芸術を世に送り出す役割を担ってきた。年間来館者数は320万人にのぼる。

今回の休館は、今年1月末に閉店した、隣接する東急百貨店本店と同様、周辺の土地開発計画に伴う対応。施設内には、演劇の「シアターコクーン」、美術の「ザ・ミュージアム」、映画の「ル・シネマ」、美術の「ギャラリー」、クラシックや舞踏、国内外の人気アーティストの公演も行われてきた「オーチャードホール」があるが、「オーチャードホール」以外は4月10日から休館する。リニューアルは2027年度だ。

休館の間、「シアターコクーン」「ザ・ミュージアム」「ル・シネマ」「ギャラリー」は、それぞれ別の場所に分散しながら営業を継続するという、ユニークな形態がとられる。同社はホームページに「多くの方に文化や芸術に親しむ場を提供したいというBunkamuraの思いと活動が止まることはありません」と記したが、あまり例のないケースだ。

さまざまな文化施設が融合し合い、「Bunkamura」という独特の雰囲気を形成してきた中での、施設の分散。運営会社・東急文化村の中野哲夫社長は2月末に開いた説明会で「開業以来34年活動を続けてきたが、いったん施設を離れて活動するのは1つのピンチでもあります」と本音を口にした上で「フリーハンドが与えられたチャンスととらえて、活動していく」と語った。

Bunkamuraは、JR渋谷駅から「109」の右横を通って坂を上った突き当たりに位置する。周辺には松濤など高級住宅街があるほか、NHKも近く、「裏渋(うらしぶ)」「奥渋(おくしぶ)」として人気の地区にも隣接する。渋谷はこれまでも文化の発信地で、海外での知名度も高いが、再開発が各所で続き、街の様子は日々、変化。新型コロナウイルス禍も加わり、人の流れも変わりつつある。

Bunkamuraがリニューアルするとしている2027年の街の様子も、今までと同じとは限らない。リニューアルの際には、分散した施設は再び再結集してリスタートする予定だが、施設ごとの「色合い」も今とは変化する可能性が高そうだ。

現在でも、施設ではコロナ禍で年配層の客足がやや減る半面、アート志向を持つ若い世代の客足が伸びたといい「5年先はもっと(この状況が)進むだろうと思う」と中野社長は話す。これまでは「来ていただいているお客さまに合わせて企画を組み立てていたが、変わるきっかけがほしかった」といい、より若い年代層を見据えた企画を増やすことも考える。「2027年はどんな社会になっているか想像は付かない。未来は誰にも分からないが、挑戦し軌道修正しながら、5年後にはしっかりしたリニューアルをしたい」。

また「変化は辺境より起こる」という言葉を紹介。「日本文化の(発信の)王道は日本橋や上野が主力と思うが、そういう意味では渋谷は文化の辺境。変えていくことこそが我々の使命。より感動や刺激を与え、想像力を想起させることが『らしさ』。今後のチャレンジの軸として考えたい」とも訴えた。

閉店した東急百貨店を含め、一帯は「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」として再開発が始まり、2027年、地上36階、地下4階の複合施設に生まれ変わる。1度離れて再結集し、再び、渋谷で新たな文化発信の担い手になれるのか。大きな挑戦が始まる。

▼今後分散営業となるBunkamuraの施設は、渋谷や新宿などが新たな拠点。「シアターコクーン」は、4月にオープンする新宿・東急歌舞伎町タワー内「シアターミラノ座」を中心に活動。こけら落とし公演は「舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド」。来春には芸術監督を務める松尾スズキが中心の講師陣による若手育成の「コクーンアクターズスタジオ」を開講予定だ。「ザ・ミュージアム」は、渋谷ヒカリエの「ヒカリエホール」などで展覧会を行うほか「ル・シネマ」は、昨年閉館した渋谷TOEIの跡地に「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」としてオープン。「ギャラリー」も、渋谷ヒカリエ内に移る。

唯一、営業を続ける「オーチャードホール」は5月に再開し、日曜と祝日中心に音楽や舞踏などの公演を行う。一部プログラムには、これまで実施しなかったファミリーコンサートも計画する。一部公演は横浜みなとみらいホールなども利用する。レストラン「ドゥマゴパリ」は閉店する。

◆「八重洲ブックセンター本店」(東京都中央区)は31日、所在地を含む街区の再開発計画に伴い、現在の建物の営業を終える。

1978年(昭53)9月にオープン。書籍や雑誌、漫画からさまざまな専門書まで、地上8階建てのフロアに幅広い種類の本をそろえており、「大型書店の先駆け」でも知られる。ビジネス街やJR東京駅に近く、客層は広い。

同店は「一旦営業を終了させていただきますが、街区の再開発事業にて建設予定の超高層大規模複合ビル(2028年度建物竣工=しゅんこう=予定)への将来的な出店を計画しております」としている。再開発後には高さ約226メートル(地上43階、地下3階)の超高層ビルが建設される予定で、同店は将来的に創業の地で再オープンする予定だ。営業最終日まで「これからも続く 八重洲ブックセンター ものがたり」と題したフィナーレイベントを開催している。

同店といえば、店頭に「理想の読書人」のシンボルとして二宮金次郎像が置かれていたことは、あまりにも有名だ。現地での営業終了を前に、すでに二宮尊徳ゆかりの小田原市の報徳二宮神社に寄贈したという。