藤井聡太が初タイトル棋聖戦に挑戦 6億手まで検討して浮上した最善手「AI超え」生まれた瞬間

小学4年で杉本昌隆八段(右)に弟子入りし、対局する藤井聡太七段(家族提供)

<名人をこす 第3回>

将棋の最年少6冠、藤井聡太竜王(王位・叡王・棋王・王将・棋聖=20)が渡辺明名人(38)に挑戦する第81期名人戦7番勝負が5日、ホテル椿山荘東京で開幕する。名人初挑戦で史上最年少名人、7冠の偉業がかかる大一番。直前連載「名人をこす」の最終回です。

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将棋界に衝撃が走った。20年6月28日。藤井が初めてタイトルに挑戦した第91期棋聖戦5番勝負第2局だった。くしくも今回の名人戦同様、相手は渡辺だった。

中盤、攻めのため駒台に置いていた銀を3筋の最下段に打ち込む。「専守防衛」。指された瞬間、控室の検討陣は意味不明とばかりに首をひねった。この局面で人工知能(AI)を使った最強の将棋ソフトは、4億手を読んでも候補にすら出ず、最善とは判断しなかった。ところが、長時間かけて6億手まで検討すると、いきなり絶妙の最善手へと浮上した。

藤井は23分考えて指した。最善手を短時間で指す「6億手を読む棋士」。最強将棋ソフトが導き出す「定跡」を覆す藤井将棋の真骨頂だった。常識を打ち破る「AI超え」で、その年の棋聖戦で将棋界史上最年少、17歳11カ月で初タイトルを獲得した。同時に「AI超え」は、その年の流行語大賞にもノミネートされた。

常識にとらわれない-。

「名人をこす少年」は小学4年のとき、杉本昌隆八段(54)に弟子入り。プロ養成機関「奨励会」に6級で入会した。当時から才能が突き抜けていた。「プロのセオリーであったり、こういう指し方のほうが勝率が高い、そんな教え方をしないほうがいい」。自由な思考回路を持つ少年へ、「こうすべき」「こうあるべき」のアドバイスは控えた。杉本は「常識をまねする子ではなく、むしろ他の棋士が藤井の将棋をまねする存在になる」と直感していた。それは、「名人をこす」の発言を引き出した「ふみもと子供将棋教室」の文本力雄塾長(68)も感じたことだった。

今や、プロ棋士はタイトル戦での藤井の一手に注目する。頂上対決の舞台では、何とか研究の範囲から外そうとレトロな戦型を採用したり、指し手で意表を突く。それも「お見通し」とばかりにはね返す。

棋聖戦の渡辺戦で放った藤井の「常識外の一手」は今でも語り草。初戴冠から約2年8カ月後、名人獲得のチャンスを初めて得た。今回の名人戦では、どんな「新手」が飛び出すのか。「名人をこす」戦いが始まる。【松浦隆司、赤塚辰浩】(おわり)