金融教育、SDGs「出張授業」で社会勉強 複雑化する世の中の仕組みを専門知識持つプロが講義

出張授業の冒頭では18歳でできるようになることを質問形式で問いかける

<情報最前線:ニュースの街から>

子どもたちが通っている学校で、「出張授業」が増えている。

社会の仕組みがどんどん複雑になるのに合わせて、専門知識を有する業界のプロを招いて講義をしてもらう。「金融教育」や「SDGs」などが代表的だ。国語、算数(数学)、英語、音楽などといった従来の教科にはない、将来を見据えた「社会勉強」でもある。東京都町田市立小山田中で先月行われた、「PROMISE 金融経済教育セミナー」をのぞいてみた。【赤塚辰浩】

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卒業を目前に控えた生徒およそ150人が、体育館で講義に耳を傾けている。小山田中3年生(当時)のセミナー。きっかけは、昨年4月に成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことだった。これにより「携帯電話の契約」「クレジットカードの作成」「部屋を借りる」などが、18歳から親の同意を得ずにできる。

「その分、自己責任となります。将来設計をするなかで、『借りる』『増やす』『稼ぐ』『守る』『使う』といったお金の価値観を知ると同時に、リスクに備える対応力も理解してほしい。犯罪も巧妙化しており、金融トラブルに巻き込まれないよう注意しなければいけません」

講師を務めた、SMBCコンシューマーファイナンス新宿お客様サービスプラザの中村翔平さんは力説した。時にはクイズ形式で挙手を促す。同時にフィッシング詐欺、振り込め詐欺、仮想通貨など、さまざまなトラブルがあることも示し、約50分の授業を終えた。

「クレジットカードを作る時とか、携帯の契約などでうまく対応しようと思いました」。授業を受けた女子生徒は話した。

文部科学省は昨年度、学習指導要領を改定し、高校の家庭科で金融教育を必修とした。町田市教育委員会によると、キャリア教育の一環として将来について考えるに際し、発達段階に応じたお金との向き合い方を考える機会を市内の中学校に提供したいとの観点から、金融教育の必要性を感じていたという。特にコロナ禍で、職場体験などのキャリア教育が行えず、どのようなものがあるか模索していたところ、この出張授業を知ったという。

金融に関わる企業の側にも同じ考えがある。最近はインターネットバンキング、電子マネーの利用など、キャッシュレス化が進んだため、「お金」の役割や価値が見えにくい。大切さを教えていかなければいけないと感じていた。

学校の先生では、ここまで専門的に教えることは難しい。授業だけでなく、学級運営、生活指導、進路指導、部活の顧問など慌ただしい。その分、企業に頼み、社会全体で子どもたちに教えていこうとしている。

SMBCコンシューマーファイナンスの場合、2011年(平23)からこのセミナーを始めた。中学、高校、大学などで約2800回開催し、累計150万人が受講している。若年社会人やアスリートにも対象を広げる構想もある。ほかの金融・証券の各社でも同じような取り組みをしたり、学校と包括的に連携する動きもある。

◆くら寿司

「くら寿司」が大手回転寿司チェーンで初の試みとして、「お寿司で学ぶSDGs」という授業を一昨年4月から進めている。小学4~6年を対象にした90分の授業で、22年度は全国24都道県の50校で開催した。20年度に改定された学習指導要領で、全ての学校でSDGs教育の導入が推進されたという経緯がある。

もともと、くら寿司では海洋資源の保全や漁業創生などに取り組んでいた。ICT(情報通信技術)を活用した「製造管理システム」による食品ロス削減にも努めていた。こうした活動を授業の題材にという、学校側からの要望を受けた。

身近な存在である回転寿司を通し、直面する課題とその解決に向けて自ら考える力を育む教育の役に立てればと、授業プログラムの開発をしてきた。「魚を食べられなくなる未来を変える」という狙いもある。23年度は年間100校以上の授業開催を予定している。

◆八千代エンジニヤリング

国内のインフラ整備、発展途上国への支援を行っている「八千代エンジニヤリング」でも、「食」を重視した出張授業、「食べて学ぶSDGs」を行っている。森林伐採、廃棄物、貧困などの環境問題、社会課題に直面した経験を、「食べる」という身近な行為を通して学ぶ。21年11月から始まり、昨年度は16都道府県の24校で実施された。

同社が注目したのは、植物性食品のプラントベースフード。授業を開始した一昨年秋当時、大豆ミートが登場し始め、教育の題材にふさわしいと判断したという。この食品は、環境、食糧、人口など、各国(特に途上国)が抱える問題やSDGsとも関係が深い。同時にフードを使った調理実習、試食などを通じて食糧事情を理解する、食育プログラムとなっている。

◆壽屋(ことぶきや)

「出張プラモデル授業」が東京都立川市にはある。同市で創業70周年を迎えた「壽屋(ことぶきや)」が、子どもたちの支援と地域貢献を兼ねて始めた。小学5~6年が対象で、社員が出向いて教える。昨年11月から、市内19小学校のうち、申し込みのあった7校で行われた。

昭和生まれの世代なら、戦艦大和、サンダーバード2号、スーパーカー、ガンプラなどを作った覚えがあるだろう。同社によると、「今は、プラモデルを作った経験はおろか、ニッパーを握った経験すらない子が半分以上」という。プラモデルを作ることで、「ものづくり」の楽しさを伝える。

◆ハッピースマイル

中学生や高校生に、働く楽しさを教える授業がある。「元自衛官の社長が伝える~働く楽しさと自己肯定を育む出前授業」だ。自衛隊から起業した「ハッピースマイル」の佐藤堅一氏が講師を務める。

同社のあるさいたま市では、中学の授業として職業体験などのキャリア教育に力を入れてきた。それがコロナ禍でできなくなり、出向いて行ったのがきっかけ。「働くために学生時代に身につけておくこと」「社会に出た時に大切なこと」「仕事のやりがい」など、事前にもらった生徒の質問に回答していく双方向の講演を基本としている。