少子化加速 学校運動部活動、どうなる? 中体連は今年度から地域クラブの大会参加認める

東京都中学校ハンドボール選手権大会・男子の試合風景(一部加工)

<ニュースの教科書>

「危機的状況で、わが国の静かなる有事として認識すべきもの」。加速する少子化について、松野博一官房長官がこう表現したことがあります。人口減少は社会全体の問題。「わが国」は「スポーツ」にも置き換えられるはずです。子どもや教員、学校の数が減少する中、学校の運動部活動の維持が厳しくなり始めています。危機感を募らせたスポーツ庁は、解決策の1つとして地域クラブへの移行などを打ち出し、日本中学校体育連盟は今年度から中学校体育大会への地域クラブの参加を認めました。子どものスポーツ環境、そして日本のスポーツはどうなっていくのでしょうか-。現状と、現場の試行錯誤の一端を紹介します。

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急激な少子化、教員の不足や長時間労働問題などを受けて、スポーツ庁は18年に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定し、昨年12月には全面改定した「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を発表しました。生徒がスポーツ・文化活動に継続して親しめる機会を確保するため、地域の実情に応じて部活動改革に取り組む必要を提示。具体的には学校部活動については週2日以上(平日1日、週末1日)の休養日や外部指導員の確保などで、同時に学校部活動の地域連携や、自治体主導や民間の地域クラブ活動への移行などを示しました。

同庁地域スポーツ課の担当者は「部活動については、少子化に伴い学校単位での運営が困難になっているほか、試合で勝ちたいだけでなく、いろんな活動をやりたいという生徒もいます。学校にやりたい部活がない時に、そのような声をどう受け止めるか。また、競技経験がない教員が顧問を務める指導体制の継続は、学校の働き方改革が進む中、より難しくなってきています。さらに、子どもたちの休日の時間の使い方も多様化しています。地域の実情に応じて、部活動の地域連携や地域クラブへの移行について検討することが必要です」と説明します。

同庁は昨年7月には、スポーツ関係団体に室伏広治長官名で要請文を出し、日本中体連に対しては「運動部活動の地域移行を着実に推進していくため」とし、中体連大会への地域クラブなどの参加の着実な実施や、将来の大会のあり方として例えば、交流目的、競い合う目的、能力別など大会全般のあり方の検討などを要請しました。日本中体連は、23年度から中学校体育大会の全競技で地域クラブの参加を認めることを決め、昨年12月に各都道府県の中体連に通知。地域クラブの参加が始まりました。

地域クラブ受け入れにあたって、中体連は各競技ごとに、参加条件などの細則を作成しました。現時点の大会参加状況は例えば、東京都中体連の場合、軟式野球は希望が1チーム。バレーボールは男女計4チームが登録。すみ分けがはっきりしているサッカーはゼロ。水泳や新体操などクラブが普及している競技は多数の登録がありましたが、これまで学校名で出ていた選手が切り替えた例が多いそうです。ハンドボールは2団体が参加。多摩ハンドボールクラブは小中で計100人超が所属し、うち中学生は31人。学校に環境がない生徒のほか、7人は部活に入りながら指導を受けにくるそうです。指導者によると、試合が増えることは励みで喜んでいるそうです。

改革は始まったばかりですが、現場では課題山積のようです。さまざまな中体連関係者からは、「徐々にいい方向にいくのではないか」「教員の負担が軽減されていけばいいが」などの声がある一方で、こんな声も少なくありません。「準備期間が短かった」「受け入れの細則発表も年度末ぎりぎりになった」「例えばクラブの他県在籍選手の受け入れ可否など、全国、競技で統一されていない条件もある」「参加数に変化があれば会場、日程、要員、予算などにも影響が出る場合もある」「現場まかせでなく、行政もセットで動かないと難しい」「一貫指導しているクラブのほうが強い傾向もあり、クラブばかりがいい成績を出す状況にならないか心配」「例外はあるが、地方ではクラブも成立しにくい」「多くの地域では専門の外部指導員も不足し、平日の数時間の指導などの条件もあり、確保しにくい」。

スポーツ文化の土台として裾野を広げる役割を担ってきた学校部活動の改革が始まる一方で、各競技力の維持も心配されるところです。トップアスリートの発掘・育成については、各競技団体や、全国各地域などでも多様な事業が展開されています。

スポーツ庁などが中央競技団体(NF)や自治体と連携して実施する「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」は17年度に始まり、今年度で7年目。五輪は本プロジェクトの活用を希望した団体の競技(22年度8競技)、パラリンピックは全競技について、11歳以上を対象に各地で測定会などを実施。これまで五輪・パラ計約200人が、NFによる育成プログラムなどを受けています。五輪は昨年度の開発実証を経て、発掘・育成事業をしている全国の各地域などで測定データを入力し、データベースからNFが選考、検証するやり方に変更されつつあります。

競技力強化を担当する同庁競技スポーツ課は、22年度からの第3期スポーツ基本計画(5カ年)でも従来通り、国際競技大会での過去最高のメダル数などを目標にしていますが、担当者は「これを続けるかという議論はいつかくると覚悟しています。少子化が競技力強化にどうダメージを加えてくるかという話も始めたところ。学校部活動の地域移行は、タレント発掘にも影響してくると認識していて、各NFも含めて自分ごとととらえ、地域の実情に合わせて一緒に工夫していかなければ」などと話しています

東京都のトップアスリート発掘・育成事業は、ジュニア選手の育成や強化を図るため09年度に始まり、今年度で15年目。高校生から開始してもトップ層を狙えるとして、ボート、ウエイトリフティング、レスリング、自転車、ボクシング、アーチェリー、カヌーの7競技を対象に中学2年生を選考。体力測定、競技体験をへて毎年二十数人が合格になり、合格すれば約1年間にわたり育成プログラムを受けます。

都スポーツ総合推進部の担当者によると、ほかの競技をやっている生徒の応募が多く、修了生からは国体での活躍をはじめ、東京五輪(カヌー)や国際大会への出場者も育っています。全国のほかの地域では、小学4年生以上を対象に発掘・育成しているところが多いです。

小中学校の現場では、身体能力の高い子どもの“取り合い”のような動きについての指摘も聞かれます。シーズンによって競技種目を変えるダブルスポーツの推進などの声も高まっています。人口減少が加速する中で、子どもたちのスポーツ環境をどうしていけばいいのか-。難問ばかりで解決は容易ではなく、答えも1つではないはずですが、もう、先送りできる段階ではありません。【久保勇人】