どうなる?2024年米国大統領選 高齢不安のバイデン氏VS裁判抱えるトランプ氏、再対決か

米国のジョー・バイデン大統領(ロイター)

<ニュースの教科書>

2024年、年明けに米国の大統領選挙がスタートします。今のところ、民主党のジョー・バイデン大統領(81)、共和党のドナルド・トランプ前大統領(77)の再対決になるとみられていますが、両者はきっ抗。バイデン氏は高齢への不安が高まり、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘への対応や内政などでも支持率が低下。トランプ氏も多くの裁判と並行しながらの選挙戦で、極めて異例の展開となっています。現状と選挙戦の行方について、米国政治が専門の日本国際問題研究所・舟津奈緒子さんに聞きながら、まとめてみました。

  ◇  ◇  ◇

【世論調査】24年11月5日の大統領選の投開票まで1年のタイミングで行われた各種調査では軒並み、トランプ氏の支持率がわずかながらバイデン氏を上回る結果が出ています。ブルームバーグ通信などが激戦州含む7州で実施した調査では「今日、大統領選挙が行われたら誰に投票するか」との問いに対しトランプ氏が41%、バイデン氏は35%でした。ニューヨーク・タイムズ紙などが重要な激戦州6州で実施した調査でも、トランプ氏が5州でバイデン氏をリード。CNNはトランプ氏49%、バイデン氏45%とし「この時点で対立候補にリードされている現職大統領は、歴代で前回のトランプ氏だけ」と指摘しました。各調査では、バイデン氏自身の支持率も4割を下回ってきました。

【バイデン氏】トランプ氏は、21年1月の支持者による連邦議会襲撃事件など前回大統領選結果を覆そうと手続きを妨害したこと、機密文書の不正保管事件など、刑事裁判を4つ、民事裁判も3つ抱えています。大統領経験者が起訴されたことはなく、裁判と並行しながらの選挙戦も異例です。バイデン氏はなぜリードを許し、支持率を下げているのでしょう。

舟津さんは原因として主に▼イスラエルとハマスの戦闘▼高齢不安▼内政を挙げました。ガザ情勢については「とても影響が大きく、特に民主党の支持者が割れてきています。通常、米国の大統領選で有権者は圧倒的に内政を重視しますが、11月の調査で関心事項の3位に外国の紛争が入るなど高まっています。若年層はガザの市民の被害などをみて即時停止を求めています。ユダヤ系の中でも、イスラエル支持を最優先にしない左派の動きが出ています。バイデン氏は世論に押されて軌道修正せざるを得なくなるなど、難しいかじ取りを迫られています」と説明します。

バイデン氏は11月20日に81歳となり、大統領の在任時の最高齢記録を更新しました。調査で高齢すぎるとの回答が71%になったり、大統領職を務める能力がないという回答が50%を超えたものもあります。人名など言い間違いや失言が相次ぎ、足元が不安定なことも増え、心身の衰えへ不安が高まっています。

内政では、バイデン氏は1兆ドル(約150兆円)規模のインフラ投資法や企業や富裕層への課税強化を含むインフレ抑制法を成立させる一方、不法移民対策に苦慮し「トランプの壁」ことメキシコ国境の壁建設も再開しました。舟津さんは「目玉政策が訴求しきれていません。インフレ対策も目立った効果が表れておらず、生活がよくなっていないので評価は厳しい。有権者が評価できる項目が少ない状態」とみています。それでも民主党内のバイデン氏の支持率は70%台。舟津さんも「今のところ民主党は反トランプという文脈で結束し、バイデン氏支持でまとまっています。大きな事態が起きない限り、党候補に選ばれる見通し」としています。

一方で、ウォールストリート・ジャーナル紙が「バイデン氏の不出馬が民主党と米国にとって最も良い」との社説を掲載。民主党関係者の中でもバイデン氏に「次世代にバトンを渡そう」などと再考を促す声も出始めています。断念・撤退する可能性はないのでしょうか。舟津さんは、民主党の結束が揺らぐ可能性を考える上で、ガザ情勢の、党や支持者への影響の大きさを強調。即時停戦などを主張する党内左派に影響力のあるサンダース上院議員らの動きなどを注視する必要があるといいます。また「バイデン氏以外の民主党の候補者は弱い。81歳に代わる候補を育ててなかったという点も問題です」との事情も強調しました。

【トランプ氏】共和党の予備選挙には、トランプ氏のほか、フロリダ州のロン・デサンティス知事(45)、元国連大使のニッキー・ヘイリー氏(51)、実業家ビベック・ラマスワミ氏(38)らが出馬しています。トランプ氏はまだ討論会にも参加していませんが、世論調査では6割近い支持を集めて他を圧倒しています。

トランプ氏をめぐっては一連の裁判の行方が焦点。十数州の予備選が集中する3月5日のスーパーチューズデーの前日には、連邦議会襲撃事件をめぐる裁判の初公判も予定されています。トランプ氏は「起訴は選挙妨害。司法権の乱用」などと全面的に争う構えです。舟津さんは「裁判は少なからず影響はあると思いますが、自分は政治的な被害者、殉教者的イメージとの戦術で成功しているため、どんな影響になるかは分かりません」とみています。

ほかでは支持が上昇しているヘイリー氏に注目だそうです。「世代交代、女性という点で、強みだと思います。人工妊娠中絶問題でも“医療行為を悪者扱いすべきでない”と発言。共和党はウクライナ支援の予算を減らすよう主張していますが、ヘイリー氏は支援の重要性を主張。本選では無党派層を中心に有利に働きそうです」。CNNの調査でも、本選でヘイリー氏が共和党候補になった場合、支持率は49%で、バイデン氏の43%を上回りました。

【第3の選択肢】ほかの選択肢を求める声も高まっています。ハーバード大の調査ではトランプ氏の場合54%、バイデン氏には63%が「出馬すべきではない」と回答。そんな中で注目を集めているのが無所属で出馬表明した、ケネディ元大統領のおいの弁護士ロバート・ケネディ・ジュニア氏(69)で、支持が上昇しています。舟津さんは「米国は政治的に分断され、両者で妥協がなくなりつつあります。第3の選択肢を求めるのは、その膠着(こうちゃく)状態を打破したいという表れ。しかし、現状で2大政党による大統領選の仕組みを崩すのは難しいだろう。ただ、第3の候補が関心を集めていること自体が注目に値します」と指摘しています。

【今後の注目点】有権者の世代交代が進み、Z世代らの投票行動にも注目が集まっています。舟津さんは「若年層は無視できません。人道的問題や社会正義を重視し、イスラエルの地上侵攻を批判している。投票率も高い。民主党支持者が多くバイデン氏は難しい立場です」と解説します。

今後の注目ポイントについては「両党の候補者が決まる夏の全国大会までにガザ情勢が沈静化しない場合、民主党の結束が揺らぐ可能性があります」とし、候補者選び、本選の結果ともに「状況は複雑で、予想は本当に難しい」と指摘。その上で「ウクライナ、中東、中国と3地域で大きな問題があり、どちらが勝っても、どんな外交政策が取られるかで、日本も含めて国際社会に大きな影響を与えます。私たちもこの大統領選を丁寧にみていかないといけないと思います」と強調しました。【久保勇人】

◆舟津奈緒子(ふなつ・なおこ) 公益財団法人・日本国際問題研究所研究員。東京外国語大学卒業、ジョージタウン大学大学院外交学修士課程(Master of Science in Foreign Service)修了。独立行政法人日本貿易振興機構、米国東西センターワシントンDC事務所を経て、16年11月から現職。研究テーマはアメリカの内政と外交、米亜関係。アメリカ学会所属。日本国際問題研究所在任中に九州大学客員准教授、東京電機大学非常勤講師を歴任。

【米大統領選の仕組み】

4年に1度、夏季五輪の年に1年間にわたって行われます。主に2つの段階があります。

<1>予備選挙&党員集会=まず共和党と民主党が約半年間かけ各州で予備選挙や党員集会を行い、それぞれの候補者を1人に絞ります。

<2>本選挙=各党の候補が対決する選挙は「11月最初の月曜の翌日の火曜日」に行われます。24年は11月5日です。投票できる人は18歳以上で、事前に有権者登録した米国人です。

選挙は独特のシステムで行われ、全米で相手より多くの票を獲得しても、当選できないことがあります。16年には民主党ヒラリー・クリントン氏が総得票数で共和党トランプ氏より300万票近くも多かったにもかかわらず負けました。トランプ氏が獲得した「選挙人」が多かったためです。

選挙はまず各州で勝者を決め、最終的に全米で獲得した選挙人の総数で当選を決めます。選挙人は人口によって割り当てられ、各州で数が異なります。有権者は支持候補を表明している選挙人を選ぶ形ですが、実際は直接選挙に近いです。ほとんどの州で1票でも多く獲得した方が、その州の全選挙人を獲得する仕組み。選挙人は全米で538人。270人以上を獲得した方が当選となります。よって総得票数が多くても、獲得選挙人数が少なくて負ける場合があるのです。

郵便投票を含む期日前投票もできます。