巨人王貞治55号、高橋尚子金メダル、リクルート事件…来年の十二支「辰」過去の辰年を振り返る

辰年の主な出来事

<ニュースの教科書>

クリスマスが終われば、あっという間にお正月だ。来年はたつ年。十二支の5番目で「辰」という字で表す。十二支の中で唯一、実在しない空想の生き物である。その強いイメージから、権力の象徴とされている。過去の辰年を振り返ってみると、確かに権力にまつわる出来事が数多く起きている。来年がどんな年になるのか。温故知新してみよう。【笹森文彦】

12年サイクルの十二支は、中国・殷の時代(紀元前17世紀~同11世紀)にできたと言われている。日本には「日本書紀」の記述などから、6世紀ごろに伝わったとされている。

辰(たつ)は、普通は「竜(龍)」と書く。十二支の中で唯一、空想上の生き物である。古代中国では鳳凰(ほうおう)や麒麟(きりん)、朱雀(すざく)などとともに神獣、霊獣として実在すると信じられていた。それが十二支の1つになった理由と言われる。

長い体とひげ、四肢を持つ竜は水中などにすむ。鳴き声によって雷や嵐を起こし、自然界を支配する絶大な力を持つと信じられた。天空に昇る姿が「竜巻」の語源になった。中国では皇帝のシンボルとされ、権力や隆盛の象徴とされた。

明治以降の辰年を振り返ると、確かに権力にまつわる出来事が数多く起きている。表(別掲)を参照しながら見てみよう。

日本では大政奉還の翌年の1868年に、明治天皇の一世一元の詔(みことのり=天皇の命令)で、元号が慶応から明治と改元された。明治新政府の力が確立され始めていった。1904年の日露戦争開戦や28年の張作霖爆殺事件、40年の戦艦大和進水も、ある意味では辰年に起きた国家権力の出来事である。

ロッキード事件が起きた76年12月の第34回衆議院議員総選挙で、自民党は敗北し三木武夫首相が退陣。ロッキード選挙と言われた。2012年には、第46回総選挙で民主党が惨敗し、自民党へ政権が戻った。

海外ではイギリスのエリザベス2世、ロシアのプーチン、中国の習近平、北朝鮮の金正恩が、それぞれ辰年に権力の座についている。76年の辰年には、中国の毛沢東国家主席と周恩来首相が相次いで死去。中国の国家権力の構図が大きく変わった。

辰年に起きた大きな贈収賄事件が、ロッキード事件とリクルート事件。前者は航空機売り込みのために現金を、後者は未公開株をばらまいた。政治家や企業のトップなど数多くが贈収賄で逮捕、起訴された。権力にすり寄って、恩恵をこうむろうとした典型的な事件である。国民は怒り、どちらもその後の国政選挙に大きな影響を与えた。

辰年は国力や技術力を示す事象が多くあった。1964年のアジア初の東京オリンピック開催。海底トンネルでトンネルの長さが世界一の青函トンネルと、世界一長い鉄道道路併用橋の瀬戸大橋が、いずれも88年の辰年に開通した。

同じく88年には、日本初の屋根付き球場の東京ドームが完成。12年の東京スカイツリーは電波塔としては世界1位、建造物としては世界3位の高さである。

海外では1880年の辰年に、世界の海上貿易を飛躍的に発展させるパナマ運河が着工された。

1952年にボクシングで白井義男がフライ級で日本人初の世界チャンピオンになった。その60年前の辰年(1892年)に、現在のボクシングのルールが初めて成立した。

シドニー五輪女子マラソンで、高橋尚子が金メダルを獲得した2000年には、イチローがシアトル・マリナーズと契約し、日本人野手初のメジャーリーガーとなっている。

前述の東京オリンピック、東京ドームも初もの。

24年はどんな年になるのか。十二支を使った相場の格言がある。「子は繁盛、丑はつまずき、寅は千里を走り、卯跳ねる、辰巳天井、午尻下がり、未辛抱、申酉騒ぐ、戌は笑い、亥固まる」なのだそうだ。ということは、来年の景気は天井まで行く、かも。

■辰年と十二支にまつわるアレコレ

▼なぜ「辰」の漢字 辰だけでなく、十二支のすべての漢字は動物とは関係がない。かつて十二支の字は植物の1カ月ごとの成育を表していた。しかし、庶民には難解で、身近な動物を当てはめた。例えば「子」は「種から生命が誕生する状態」を意味した。そこで繁殖能力が高いネズミが割り当てられた。「辰」は「茎や葉がよく育ち形が整う」の時期を意味する。漢書によると、辰は「振」から派生した字で、「振興」のように「盛んになる」という意味がある。「辰」は権力や隆盛を意味することから、よく育つ時期に当てはめられたと言われる。

▼辰(竜)のことわざ 「竜頭蛇尾」(勢いが後半まで続かないこと)「画竜点睛」(物事を完成させる最後の仕上げのこと)「登竜門」(成功への関門のこと)「逆鱗(げきりん)に触れる」(目上の人を激怒させること)=竜のあごに逆さの鱗(うろこ)があり、そこを触れられると怒るという竜伝説が由来。

▼世界の十二支 世界各国に十二支はあるが、微妙に違う。「辰」に限ると、ベトナムやカンボジア、マレーシアなどでは「ナーガ」という蛇神が充てられている。モンゴルでは「ワニ」。カザフスタンのカザフ人の十二支では「カタツムリ」になっている。ちなみに、タツノオトシゴではありません。

◆十二支(じゅうにし) 「子(ね)丑(うし)寅(とら)卯(う)辰(たつ)巳(み)午(うま)未(ひつじ)申(さる)酉(とり)戌(いぬ)亥(い)」で年を表す。かつては月や時刻、方位も表した。時代劇や怪談の「丑三つ時」は午前2時~同30分ごろ。

今は干支(えと)といえば十二支を指すが、本来は別物。十二支と、五行思想に基づく十干(じっかん=「甲(こう)乙(おつ)丙(へい)丁(てい)戊(ぼ)己(き)庚(こう)辛(しん)壬(じん)癸(き)」)を組み合わせた60種が干支(十干十二支)である。還暦の由来だ。十干はかつては学校の成績表に、今も契約書に使われている。来年は十二支では「辰」、十干十二支では「甲辰(きのえたつ)」の年となる。「戊辰戦争」や「辛亥革命」などの名称は十干十二支を使っている。甲子園球場は1924年(大13)の「甲子(きのえね)」の年に完成して命名された。

◆笹森文彦(ささもり・ふみひこ)札幌市生まれ。83年入社。主に文化社会部で音楽担当。社会人になって、契約書にサインすることが多い。確かに「以下『甲』という」などの文言が出てきて、途中から「自分はどっち?」と悩む。私だけだろうか。