相馬に突然「福の神」 トラフグが20年初水揚げから漁獲量右肩上がり、ブランド化で観光目玉に

相馬市の新名物「トラフグ」の水揚げ風景

<情報最前線:ニュースの街から>

高級魚の天然トラフグが、福島県相馬市の新たな観光の目玉になる。相馬沖で3年ほど前から揚がりだし、漁獲高は年々上昇。本年度、同市では本腰を入れて宿泊施設や飲食店で鍋、刺し身などのメニューを提供し始めた。県でも昨年11月に初めてフグ免許試験を実施。調理できる人を増やすなど後押ししている。東日本大震災から今年で13年、思わぬ海の幸が文字どおり「福(フク)」をもらたす。【赤塚辰浩】

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福の神は突然、相馬沖に現れた。トラフグは2020年(令2)に6・3トンの水揚げを初めて記録、21年27・8トン、22年36・1トンと、右肩上がりに伸びている。福島県の太平洋側、通称「浜通り」で漁業に従事する人たちによると、「全体に海水温が高く、表層で18~20度もある。サンマやサケなど寒流系の潮に乗る魚は揚がらない。その代わり、暖流系の潮が強いからトラフグも揚がっているのではないか」「いわき市沖の深場で狙うアカムツやメヒカリと違って、遠浅である相馬沖の潮の流れやエサの豊富さなどからトラフグがすみ着いたのかもしれない」といった声が聞かれた。

日本各地の漁場がシケで操業できなかったり、出漁しても揚がらなかった場合、天然物は1キロ10万円の値をつけてもおかしくない高級魚。思わぬ「海の幸」に、地元の相馬双葉漁業協同組合は21年度に「福とら」と命名して、ブランド化した。漁期は10月から翌年2月とし、はえ縄漁で揚がった35センチ以上の魚などといった条件を付けた。

コロナ禍で足踏みしたが、22年度には市内9つの宿泊施設や飲食店で、相馬市の関係者も含めて試食会を行った。「23年度は11施設に増えました。相馬市の支援も得たうえ、大手旅行会社とも提携して宿泊プランを売り出すなど、本格的にPRし始めました。おかげで予約も多く入っています」(相馬市観光協会・大谷=おおがい=和正事務局長、51)。

福島県でも先を見越して昨年11月、条例を整えて、県内初のフグ免許の試験を実施した。今までは東京都や宮城県など、他の都道府県で免許を取得した調理者を呼んで調理場に入ってもらっていた。これで、供給する側の裾野も広がる。

東日本大震災で被災する前の平成年間、相馬市内の漁港は市町村単位でズワイガニやヒラメ、マガレイ、マコガレイ、ホシガレイなどのカレイ類などで全国屈指の水揚げ量を誇っていた。目の前の太平洋は、暖流の黒潮とともに北上してきた魚が、寒流の親潮で発生したエサを食べて大きくなる豊かな海。「常磐もの」と呼ばれる、おいしい魚の宝庫だった。

それが地震と原発事故の影響で、12年6月から21年3月までは漁の回数の制限や、放射性物質などの安全検査を伴っていた試験操業という形で行っていた。今は本格操業(拡大操業)へと移行している。「水揚げを増やし、販路を回復したり拡大できるようになります」と福島県水産資源研究所の神山享一副所長(55)は言う。

浜通り地区では、山口県下関市や大阪市などに代表されるような、冬場にフグを食べる習慣はなかったという。主力だったアンコウ鍋や寒ビラメに、トラフグという新たな看板が加わった。「夏場は相馬野馬追や海水浴、スポーツ合宿といった柱がありました。冬はトラフグが観光の目玉になると期待しています」(大谷事務局長)。

JR常磐線は東京・上野から仙台までつながっている。車の場合、常磐道もある。東北中央自動車道も新たに開通し、相馬市へのアクセスはよくなった。「福とら」で新たなにぎわいを創出しようとしているフグの街が目指すは、「西の下関、東の相馬」だ。

■松川浦「浜焼き」でにぎわい取り戻す

「福とら」だけではなく、にぎわいを取り戻す動きもある。相馬市松川浦では、伝統の浜焼きが復活した。東日本大震災の前は、同所を訪れると各旅館の店先で炭火で焼かれたカレイ、イカ、トウモロコシなどの香ばしいにおいが食欲をそそっていた。そんな懐かしい光景を、地元の旅館の若だんなたちによる「松川浦ガイドの会」が再生させた。「ガイド付き浜焼き宿泊プラン」の利用者を対象にした昼食または夕食の体験プログラムで、震災前の話を聞いた後、魚の串打ち、下味つけをした後に焼いて食べる。

このほか、人工磯での「磯カニ釣り体験」、竹1本から枝を払い、釣り糸を結んで、自分の釣りざおを作って釣りを楽しむ「プチサバイバル体験」なども用意している。

また、地元の海産物に対する風評を振り払い、地域振興を目指すため、20年には「浜の駅 松川浦」も開業した。こちらでは、地元の海産物が購入できたり、海鮮丼や刺し身定食などが食べられる。やはり、海とは切っても切り離せない。

■新たな特産続々

地球温暖化による海水温の上昇は、海の生態系に影響を及ぼしている。北の海でのサンマやスルメイカなどの不漁がいい例だろう。逆に北海道・羅臼沖ではブリが漁業の主力対象魚になっている。23年には約1300トンと、90年代のおよそ20倍の漁獲量だという。また、山形県の庄内沖ではサワラをブランド化している。発想の転換で、新たな特産となる魚の漁獲量が増えつつある。

◆トラフグ 北海道室蘭市から南の太平洋側や日本海西部、東シナ海などに生息する。体長は30~50センチ。適水温は16~23度。エビ、カニ類や魚類を食べる。マダイやスミイカなどを釣っていて、掛かることもある。精巣や皮、筋肉は無毒だが、卵巣や肝臓には猛毒がある。毒性は地域や季節で変わる。