黒糖焼酎をレゲエ熟成…西平酒造「ソニック・エイジング」製法の黒糖焼酎で奄美と世界をつなぐ

「ソニック・エイジング」を手掛ける西平酒造の西平せれなさん(本人提供)

<情報最前線:ニュースの街から>

「レゲエが焼酎をまろやかに」。鹿児島県の奄美大島で黒糖焼酎をつくる「西平酒造」は、焼酎に音楽を聴かせて熟成させる「ソニック・エイジング」(音響熟成)に挑戦している。1927年(昭2)創業の歴史ある酒蔵で、昨年スタートを切ったばかりの新しい試み。6つの熟成樽(たる)には、それぞれ違うジャンルの音楽を聴かせて貯蔵し、3年後の発売に向けて香りや色づき、味わいの違いを検証している。西平酒造4代目代表で、ミュージシャンとしての顔も持つ西平せれなさん(36)に話を聞いた。【沢田直人】

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■100周年の27年販売予定

ソニック・エイジングは音楽の力を利用して、焼酎の熟成を進めるもの。西平さんによると、音の振動で熟成樽の中の焼酎が揺れ、風味や色つきが変化する。西平酒造の一角にある6つの熟成樽にはそれぞれ「ロック」「レゲエ」「ヒップホップ」「ラテン」「ハウス」「奄美の民謡」が流れるスピーカーが設置された。大きな音量で音楽を流しても、他の樽には影響が出ないように設計されているという。

プロジェクトは約2年の構想や準備段階を経て、昨年11月ごろから本格的に始まった。1つの樽には4合瓶(720ミリ)で600本ほどの焼酎が入っている。商品名はまだ決まっていないが約3年後の販売を目指す。西平さんは「既に見た目の色の付き方が変わって個性がある。口に入れた瞬間の香りの立ち方、味わい、のど越しがそれぞれ違ってきている」と話した。また特徴については「緩やかな曲調の奄美の島唄は、色がまだついていない印象。それに比べてロック、レゲエは恐らくベース音で揺れるので変わってきている。私的にはレゲエが一番熟成されてまろやかになっている印象です」と笑った。レゲエの熟成樽には“レゲエの神様”ボブ・マーリーのアルバム「Legend(レジェンド)」が流れている。

西平さんは奄美大島で育ち、高校卒業後に上京した。音楽大学を卒業した後、20代前半は、アーティストのバックバンドやライブの企画など、音楽活動に励んでいた。フルートやパーカッションを演奏していたという。しかし、2014年(平26)に、父功さんが体調を崩したことと、会社の経営が傾いてしまったことをきっかけに、奄美大島に戻った。西平酒造を手伝うことを選び「音楽しかやったことないし、ちゃんと就職したこともなかった。本当にゼロからのスタートっていう感じ。実家ではあったんですけど、蔵には入ったこともなかった。温度管理とか定期的に混ぜに見に行ったりとか…。気が抜けない作業ばかりで最初はめちゃくちゃ大変でした」と振り返る。

■修行積み17年に杜氏に

西平さんは修業を積み、17年1月に杜氏(とうじ)になり、21年10月に代表となった。功さんがロックバンドを組んでいた影響もあり、音楽活動も続けている。西平酒造には西平さんの他にも従業員にミュージシャンがいるという。「音楽」を生かした商品開発が蔵の強みだ。同社は音楽が収録された黒糖焼酎「キヨク File.073」(税込み2545円)を販売している。瓶の裏のQRコードを読み込みパスワードを入れると、西平さんがトラックを作り、島の民謡を現代風にアレンジした一曲を聴くことができる。

■「一曲」聴ける商品も♪

「黒糖焼酎で奄美と世界をつなぐのが目標」。西平酒造は3年後の27年に創業100年を迎える。ソニック・エイジングの製法で、音楽をたっぷり聴いて熟成した黒糖焼酎が完成予定だ。西平さんは「黒糖焼酎は奄美でしか造れない。黒糖焼酎を知ってもらって飲んでもらうことで、奄美を知ってもらう。そのミッションの通り、世界に発信していきたい」と力を込めた。

<こんな熟成法も>

▼雪中埋蔵酒:最適天然冷蔵庫

北アルプスの南端、長野県松本市のリゾートホテル「休暇村乗鞍高原」では、地元安曇野の酒造「EH酒造」と松本市に店舗を構える地酒専門店「酒商 中島屋」との合同で、日本酒の「雪原の華」100本を雪の中で貯蔵する「雪中埋蔵酒プロジェクト」を行っている。

プロジェクトは今年で20年目。毎年1~2月に出来たての生酒を休暇村の敷地内に埋め、春ごろに掘り起こしている。雪の中は約0度、湿度が90%以上。空気対流がほぼない状態に保たれ、酒の熟成に最適な天然の冷蔵庫になっているという。

約2カ月、雪の中で熟成させ、4月中旬に掘り出す予定。休暇村の担当者によると「カドが取れてまろやかになる」。雪原の華は、大吟醸、純米大吟醸、純米吟醸、吟醸の4種を販売。180~300ミリで1550~2500円。休暇村の夕食時に飲むことができ、飲み比べを楽しむ客がいるという。

▼海底セラー:「波」の振動が作用

日本酒やワイン、ウイスキーなど酒類のボトルを海底に沈めて熟成させる「海底セラー」サービス事業を運営する北海道海洋熟成(札幌市)では、海底熟成の知見を業界に幅広く提供するため、希望者の一般募集を始めた。募集期間は4月19日まで。熟成期間は24年6月30日~25年6月29日までを予定している。

代表の本間一慶さんによると、海底では船の通過や風などから発生する、さまざまな周波数の音と自然の波動による細かな振動が、瓶内のアルコール分子と水分子に作用する。酒の種類によっても変化の具合が異なり、味わいや香りの変化が楽しめるという。

事業は1口12本、10万5600円(税込み)。管理費や蝋(ろう)封加工費、損害保険料、海底監視システム利用料込みの料金となっている。北海道南エリアの知内町海域、または木古内町海域の「海底セラー」で酒を預かり、特殊な加工を施した後、1年間熟成させて返却する。