水原事件で注目の海外オンラインカジノ問題 日本の被害や実情、依存について聞いてみた

国内でオンラインカジノで賭博すれば犯罪と注意を呼びかける警察庁と消費者庁のポスター

<ニュースの教科書>

大谷翔平選手の元通訳、水原一平被告の賭博事件によって、スポーツ賭博を含む海外のオンラインカジノをめぐる問題に大きな注目が集まっています。海外では合法でも日本から接続して賭博を行えば犯罪ですが、国内でもコロナ禍中に被害や相談が急増し、依存の問題も深刻化。規制を検討する動きも出ています。最前線で取り組む専門家3人に被害、実状、依存について聞いてみました。なお水原被告の次回審理は6月4日に予定され、罪を認める見通しです。

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【オンラインカジノ被害について】

当事者や家族への支援や対策、知識の啓発などに取り組み10周年を迎えた公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表

-水原事件を受けて田中さんの会が4月に発表したスポーツ賭博を含む「オンラインカジノ被害の実態」で、ギャンブル依存の低年齢化が進み20~30代が8割弱を占め、21年からはオンラインカジノの相談が急増し全体の2割を超えたと報告されました。相談にくる当事者はどんな人ですか

田中さん 普通の会社員が多いです。コロナ禍の時に、友だちに誘われてなどのきっかけでちょっとやってみたという人がすごく多い。スポーツ賭博が広がっていた高校もあり、普通の高校生がやっていました。その年齢ではお金のやり取りができないので、彼らにXを通じて大人のアカウントを売っている業者がいるそうです。

-若者はあまりお金も持っていないと思いますが

田中さん 10代の子どもを連れて相談にくる家族も時々います。最初は自分の小遣いでやっていたけど、親の口座を空っぽにした例もあります。

-犯罪がらみの相談は、オンラインカジノもやっている場合のほうが、やっていない場合よりも増えているそうですね

田中さん 多いのは窃盗、横領、万引き、オレオレ詐欺の受け子になる人もいます。

-ギャンブルによる借金の額も増えていて、23年は平均855万円。なぜここまで増えるのですか

田中さん これはクレジットカードや消費者金融などの借金のことで、預貯金を使ったり、保険を解約して払った分などは含まれてません。親や周囲の人は何度も尻ぬぐいしたり、もっと使われていることが多いです。これで最後と言いながら出し続けることもある。ギャンブルのこと以外はまともだから、親はそんなに繰り返すと思わないんです。仕事も会話も普通だから、依存と分かりにくい。本人も乗り越えられないわけがないと思うんです。

-ギャンブル依存症はどんな病気ですか

田中さん 本人も家族も気づきにくい、残酷な病気です。ほかの病気と一緒で、だれでもかかる可能性がある。水原被告も特別ではなく、ただのギャンブル依存症。私の肌感覚としては回復する人は少なく、ほとんどは再発し繰り返します。脳の病気なのに、精神論とか性格の問題として考えようとするから、世間は理解できず不可解に思う。快楽を求めてやっているのではなく、苦痛を緩和している。だからやめられなくなるのです。

-どうしたら依存に気づけますか

田中さん 本人が気づくのは本当に難しい。周りの人がお金を貸さない、尻ぬぐいをしないことです。お金に行き詰まると、助けを求めやすくなります。相談に行きなさいとうながしてほしいです。

-なぜオンラインカジノの被害が急増したのですか

田中さん 手軽さもあるし、コロナ禍中にSNSやユーチューブなどで著名人も使った広告、宣伝が激増し、日本語のサイトもつくってきた。違法なものをこんなに堂々と宣伝しないだろうと思うわけです。

-オンラインカジノ対策の新法制定を求めていますね

田中さん アクセスしやすい環境を社会として放置しているところもあります。日本側で加担している、金融代行業者、アフィリエイター、ユーチューバー、アカウントを売買している人などをしっかり取り締まれる法律が必要だと思います。今は実際に賭けたという証拠がある場合だけ取り締まっていますが、オンラインカジノを紹介したり、ほう助にあたる行為も取り締まってほしいです。

【オンラインカジノについて】静岡大の鳥畑与一名誉教授(金融論)

-特にコロナ禍中に主要オンラインカジノへの日本からのアクセスが激増し、データ分析支援会社シミラーウェブジャパンによると、21~22年ごろには国別接続数で世界屈指となっていました。なぜですか(現在はアクセスが下がっている)

鳥畑さん 欧米では自国でライセンスを取得しないと営業できない制度になっています。日本は刑法で賭博は禁じられ、ギャンブル産業を前提にした規制体制がない。でもギャンブラーは多く、支出も多い国。海外企業からみれば、おもしろい灰色市場となる。ベラジョンなど複数ブランドを運営し、米国のバリーズに買収された英国のゲームシスが日本市場をターゲットにした先がけで、日本語サイトを立ち上げました。17年に7300万 ポンド (約146億円)だったアジア(ほとんど日本)の収益が、20年には1億9650万 ポンド に急増し、全売り上げの中のシェアが、8%から27%に増えました。

米国は規制が厳しく、例えばMGMなどは日本からアクセスはできません。欧州拠点の企業はウィリアムヒルなど大手も日本からアクセスでき、日本語サイトを立ち上げ、日本のJリーグやプロ野球も賭けの対象にしています。企業側の言い分は、日本は違法か合法かあいまいで、規制もないというものでした。警察庁などが国内でやれば違法だと明確にしましたが、取り締まりの法体系もなく、海外企業の草刈り場になっています。

-日本人にどのようにアプローチしていますか

鳥畑さん SNSやユーチューブなどで著名人らに宣伝させ、顧客が流れ込むと報酬が還元されるアフィリエイトなどが使われています。顧客に対しては、アカウントをつくるとポイントがついたり、最初はフリープレーできたり、掛け金に合わせて還元があるなどさまざまなインセンティブで誘導したりします。繰り返させ、抜けられないようにする仕組みもあります。

オンラインで怖いのは、行為のすべてがデータとして集積され、丸裸状態になることです。水原被告も、どんな賭け行為をしたか全部明らかになりました。英国の政府機関が昨年まとめた報告に、ギャンブル企業がデータで顧客を詳細にプロファイリングし、賭け行為の傾向からその人に合わせたプロモーションをかけていくという内容が出ています。だからオンラインは危険だと。またギャンブル企業の売り上げの7~8割は、負けの金額が多い上位5%の人が占めているというデータもあります。いかに大負けする人を生み出すか、続けさせるかによって成り立っていると。そのノウハウを開発しています。

-日本にはどのような対策が必要だと思いますか

鳥畑さん 欧米などでは違法オンラインカジノに対し、さまざまな取り組みが行われています。英国や豪州では、オンラインカジノにクレジットカードの使用は禁止。違法サイトへのアクセスも国が遮断しています。いたちごっこですが、SNSで宣伝もできないので効果があるそうです。米国では、違法な企業に金融機関が決済サービスを提供することは禁じられています。英国では、海外では合法でも英国では違法という場合、海外の監督機関に対応を要請します。

日本は規制や、後押しする法律もありません。まずは実態調査し、危険性を認識する。その上であらゆるギャンブルを対象に規制する単一機関と、その根拠を与える法律が必要だと思います。海外では単一の規制機関があって対応しています。例えば日本も各国に対応を要請したり、金融機関に決済代行業者への決済サービスを提供しないことを求めるなど、やれることはたくさんあると思います。

【ギャンブル依存症について】ギャンブル依存治療部門を設置している国立病院機構久里浜医療センターの松下幸生院長

-ギャンブル依存に関して、さまざまな窓口では相談件数が増え、成人の中で疑われる人は2・2%という推計もあります。ギャンブル依存の人は、愛好レベルの人とどう違うのですか

松下さん ギャンブル障害などと呼んでいますが、いわゆる負けの深追い=ギャンブルで負けたものはギャンブルで取り返したいという行動や、ギャンブルしていることを隠したり、うそをついたり、借金してまでやるのが特徴です。

-病院HPでは「脳内の報酬系などの機能異常が原因と考えられる。気持ちよさ、ワクワク感などはこの部位が働いて生まれる。ギャンブルも始めの頃に大もうけした時など、この部位が強く反応してドーパミンという快楽物質が放出される。やり続けるにつれ鈍感になり、勝ちにも反応しなくなる。一方、依存状態になると、ギャンブルを連想させる何かを見たりすると、強く反応し欲求に襲われる。欲求を満たすためにギャンブルをしても十分に満たされないため、エスカレートしていく」との趣旨の説明をしていますね

松下さん 最初は少ない金額でも楽しめますが、繰り返すうちにある程度お金をかけないと興奮できなくなります。それを報酬欠乏状態といいます。だんだん使うお金を増やして、より刺激を求めようとします。また、いつもは普通の人と違わないのに、ギャンブルを思い出させる何かに接すると強く反応してしまいます。これらが依存症じゃない人との違いです。

-依存になりやすい傾向などはありますか

松下さん 特に指摘されているのは、衝動性が高い人です。考えるより先に体が動いちゃうような人は、依存症になりやすいといわれている。環境、ギャンブルへのアクセス、ビギナーズラックのような経験なども、依存を促進するようなところがあります。

-どんな治療をしますか

松下さん 薬はありません。認知療法と行動療法を組み合わせたものです。ギャンブルに関して考え方が偏っている人が多い。例えば選択的記憶といい、勝った時のことはよく覚えているが、負けた時のことはあまり覚えていない。負けが続くと勝ちが近いと考える人もいて、次は勝てそうだと借金までしてしまう。患者さんも何の根拠もないことを真に受けていたりすると言いますが、認知療法はそういう点を修正します。行動療法では、何が刺激になるのかを振り返ってもらいます。お金を持っている時ならば、必要以上にお金をもたないとか、お金の管理を家族などにお願いしたりする。刺激を受けない行動に置き換えていくようにします。できればグループで受けていただきます。

-治りますか

松下さん 患者さんは、ギャンブルをしない期間が長くなると、したいという気持ちも遠のいていくとおっしゃいます。時間が必要ですけど、脳の働きも変化していくのだと思います。【聞き手・久保勇人】

○…警察庁と消費者庁は、海外で合法的に運営されているオンラインカジノでも日本国内から接続して賭博を行うことは犯罪だと注意を呼びかけています。警察庁HPでは「バカラ、スロット、スポーツベッティングなど、その名称や内容にかかわらず、オンライン上で行われる賭博は犯罪です。絶対にやめましょう」と説明した上で、実際に利用した賭客を賭博罪で検挙した事例も紹介。最近の関連検挙数は21年127人、22年59人、23年107人としています。賭博罪は50万円以下の罰金または科料、常習賭博罪は3年以下の懲役です。