コメ、作りませんか? 福岡・糸島市、棚田使った市民参加型稲作プロジェクトが注目

糸島市の段々と重なる棚田から見下ろすと玄界灘が一望できる絶景となる

<情報最前線:ニュースの街から>

コメ、つくりませんか? 福岡県糸島市で棚田を使った市民参加型の稲作プロジェクトが盛り上がっている。農業未経験の市民を対象にしていて、後継者不足に悩む山間部には新たな対処法になるかもしれない。糸島市の棚田は赤米と黒米の名産地で、9月に真っ赤に染まる稲穂をお花見する鑑賞会でも注目されている。また、都内で赤く炊き上がった雑穀メニューが年末にデビューしそうだ。

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★手頃なサイズ

二丈赤米で知られる福岡・糸島市吉井地区の山肌に広がる棚田で田植えが行われた。小型の田植え機に乗るのは九州大農学部の女子学生。農家のベテランに操縦方法を教わり、5アールの田んぼに苗を植え付けた。「初めてでした。ちゃんと動くんですね。めっちゃ楽しいです」と明るい声で話した。

耕作面積は18・2ヘクタール、東京ドーム約3・8個分の広さで、175枚の田んぼが段々になって重なる。裾野には玄界灘が広がる。「狭い土地ばかりですが、グループ単位なら手ごろなサイズ感かも」とこの地区の田んぼをまとめる吉住公洋さん(69)は笑った。

★つなぐ棚田遺産

このエリアではほとんどの農家が流通米ではなく、自分で食べる米をつくっている。22年11月、農水省「棚田百選」後継事業「つなぐ棚田遺産」プロジェクトの室長が視察に来た。棚田の維持管理の交付金を活用した現場を見る目的だった。吉住さんは「交付されるのはありがたいが、使うマンパワーがありません」と実情を吐露し「地元農民の人ではないですが、退職をした町の人たちからコメをつくってみたいとの声があがっている」と訴えた。

室長から「そりゃ、面白い。ぜひやってほしい。申請すれば別途、3年事業として農機具も買える交付金を出せる補助事業があるから使ってください」とお墨付きを得た。

★意外な才能発見

5アールの狭い田んぼでも収穫すれば200キロ前後のコメが自分のものになる。市民参加を募り、昨年途中から事業が始まった。今年は17組のグループがコメづくりに参加。4年前から試験的に実施されていた。建設会社に勤めていたAさんは4アールの土地で昨年収穫。150キロのコメを得たが、うれしすぎて、知り合いに配って、自分の分が足りなくなってしまったという。

吉住さんによると「今回参加した女性で田植え機を操縦していてメチャクチャ上手。ゴルフ場のパートでキャディーをやっていて、カート運転に慣れていたらしい。農業従事者じゃなくても意外な才能は転がっている」と感心した。

★自家製の可能性

九州大農学部農場と共同研究をする学術特任教員で農学博士の望月俊宏氏(70)は、稲作未経験者の指導を含めて顔を出す。「ここは全国でも珍しい例。稲作に前向きな人材は意外に多い。日本はコメ不足だと言われているが、流通に乗ってこない自家栽培される田んぼの労働力は年々減り続けている。中山間部における労働力を外部から注入するのは今後の農村の指針になる可能性はある」と分析。

吉住さんは「農家の人って、跡目を継ぎたくなる仕掛けをどんだけしてる? 70代の主力が大半。流通市場に出ない自家製のコメには大きな可能性があると思います」と思いをはせた。【寺沢卓】

■赤米&黒米の名産地 夕日に映える稲穂…秋には鑑賞会も

コメづくり後継者探しで奮闘する糸島市の棚田は、赤米と黒米の雑穀栽培で全国に先鞭(せんべん)をつけた有力地だ。今月末から赤く染まった稲穂が夕日を反射してキラキラ輝く時期を迎える。吉住さんは「普通のコメと色のある赤米と黒米をパッチワーク状に植える。稲穂が色づくと、真っ赤、カッカッカッカッカァ~ってきれい」と話した。

古代種の赤米は稲穂が実るころになると先端に針状の芒(のぎ)ができる。この部分が赤く染まって吉住さんの表現する「真っ赤、真っ赤、カッカッカ…」と状態になる。棚田の稲作に興味を持ってもらうことも踏まえてイベントを毎年行っている。今年で35年目。平日も鑑賞は自由で、9月13~15日と同20~23日に秋の連休の観光イベントとして「二丈赤米鑑賞会」として実施される。

棚田に赤米を植えたのは1991年。福岡県の農業試験場の指導員からもち米と掛け合わせた赤米の種について「育ててみないか」と、天変地異に強く農薬がなくても育つ利点もあって相談を受けた。世界的にコメには色がついている品種が多く「白いコメだけを食べる文化は日本ぐらい。赤いコメもあっていい」と吉住さん。九州大農学部でバイオ研究に関わっていたこともあり、赤米での可能性に着目し栽培を決断した。

赤米だけでなく、インドネシア・ジャワ島を起源とする黒米の種子も品種の幅を広げられると取り入れた。約30年、雑穀専門に日本全国の生産者と取引をする国産産直(東京・文京区)の今村真一代表(69)は「輸入品が多い中、質のいいい有色雑穀の栽培に成功してる。100人に試食させて10人ぐらいが食べてくれる。そのうち1人がリピーターになる割合。その1%の積み重ねが実を結んできた」と語る。9月の鑑賞会で、真っ赤、カッカッカッカ~な棚田が見られるのが楽しみだ。

■土鍋で真っ赤に炊き上げ 黒米「天ぷらのしめ」

赤米&黒米を素材として注目している「天ぷら 銀座おのでら 東銀座店」料理長奥山和孝さん(40)は、炊き上げると真っ赤に発色する黒米で天ぷらのしめを考案した。黒米1割のコメを土鍋で炊き上げて、目の覚めるような真っ赤に仕上げた。かき揚げにした天ぷらに緑茶とブレンドしたカツオだしをかけてお茶漬けに。奥山さんは「天ぷらのサクサクがダシをかけるときの音となって楽しめる。外国の方に人気が出そうです」。さらに天ぷらを砕いてオニギリにする一手間が、黒米の歯ごたえを際立たせる。黒米の収穫が11月ごろ。冬の新メニューとしてデビューする予定だ。