芥川賞は小砂川チトさん「ゾンビ回収婦」VR世界描くも「3分でVR酔い」ゲームは出来ず苦笑い

芥川賞に選ばれた小砂川チト「ゾンビ回収婦」(撮影・小島史椰)

第175回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考が15日、都内で行われ、芥川賞に小砂川チトさん(36)の「ゾンビ回収婦」が選出された。

AIの発展によって職を失った主人公の女性が、VR(バーチャルリアリティー)世界でホテルの掃除婦として殺されたゾンビの死体を回収して世界を美しく保つ物語。

選考委員の奥泉光さん(70)は受賞理由について「VRをテーマにした世界の中に存在するキャラクターと主人公が交流する物語だと現実とバーチャルリアリティーが対立するようなイメージになるが、第2の、第3の新しい虚構世界を立ち上げて、スピード感のある文体で自立させていた。自由な虚構の世界を作り上げることを徹底した点が評価された」と説明した。

また、「AIに仕事を奪われつつある人間の状況が背景にあり、主人公がそういう状況に過剰に適応しようとする姿をアイロニカルに描いていた。虚構に対する徹底的な小説家としての態度、意思の力強さが評価されて受賞につながった」とたたえた。

選考委員の間で投票は2度行われたといい、1度目の投票で「ほぼ過半数」の票を獲得し、最終的に鈴木涼美さん作「悪い血」との一騎打ちを制した形となったことも明かされた。

小砂川さんは受賞会見に立つと「胸がいっぱいですし、頭が真っ白です。人生でこんなこともあるんだなと思います」とまだ実感はない様子を見せた。AIと本の将来について聞かれると「紙で物語を読んでいきたいというニーズ、人間はいなくはならないと思います。私はのんびり構えているところがあるドーンと構えていていいのではないか」とした。

自身が描いたようにAIが人間の仕事を奪う、といった現実も少なからず進行しているが、「AIが普及してきたからこそ独自性を持っていくということが進歩することだとは思うけど、この場にたたずみたい、ゆっくり生きていきたい人がいなくなるはずはない」と思いやり、「各人が自由で選べるような、優しくやっていけるような世の中であれば」と願った。

VRをテーマに描くにあたって実際に「取材のつもりで、観光地を歩くようなゲーム」を購入したというが、「2、3分で『VR酔い』をしてプレーできなかったです」と苦笑いした。

今回の候補作は小砂川チト「ゾンビ回収婦」、鈴木凉美「悪い血」、仁科斂「丹心(まごころ)」、村司侑「ソリティアおじさんがいた頃」、八木詠美「アンチ・グッドモーニング」の5作だった。