<安田記念>◇2009年6月7日=東京◇G1◇芝1600メートル◇3歳上◇出走18頭
1番人気ウオッカ(牝5、栗東・角居)が、直線で進路がふさがる大ピンチを打開してディープスカイを逆転し、連覇を達成した。牝馬として史上最多の6冠を飾り、獲得賞金は10億円の大台を突破。武豊騎手(40)はミスを帳消しにした女帝に感謝した。あまりの強さに、年内引退見直しの動きも出てきた。
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8万観衆の悲鳴を打ち破って、ウオッカが伸びてきた。残り100メートル、前を行くディープスカイとの差はまだ1馬身あった。勢いでは完全に上。だが、ゴールはすぐそこだ。どうだ。届くのか。「かわせない」。スタンドで見詰める角居師は敗戦を覚悟した。怒号と悲鳴が交差する中、馬上の武は信じていた。「残りの距離がどんなに短くなっても、大丈夫」。前さえ開けば、必ず勝てる。ウオッカの力を信じていた。信じて、追い続けた。
残り50メートルからの逆転劇。最後は手綱を押さえる余裕で、3/4馬身突き放した。7馬身差で圧勝したヴィクトリアマイル以上のインパクト。「今日は馬を褒めてやってください」。数々の名馬の背中を知る男が、誰よりもウオッカのすごさを思い知らされた。
何しろ競馬をしたのは正味200メートルだ。絶好の手応えで直線を向きながらも、前が開かず、何度も進路を取り直した。「最後は前が横一線になってしまった。スペースがなかった」。最初に狙った位置から3~4頭分も外に持ち出した。抜け出すときに、他馬と接触もした。「下手に乗った。厳しい競馬になって、馬に申し訳ないことをした」。並の馬なら間違いなく負けていた。歓喜の瞬間、勝者に派手なガッツポーズはなかった。馬をいとおしむかのように左手で首筋をたたいた。心からの感謝の気持ちを表した。
衝撃の強さは、関係者の心を揺り動かした。「いろんな面で完成してきたし、もっと良くなるかもしれない」。武の声に代表されるように、5歳春を迎えた今こそが完成期の気配。谷水オーナーからは引退時期の再検討が打ち出された。角居師は「オーナーからそういう話があるなら調教師としては光栄です。ファンも多い馬ですからね」と語った。1度は封印した海外遠征も「ドバイからの帰国後は当分海外は考えないと思った。相談する余地は、今後あるのかもしれない」と再考の可能性を示した。
6つめのG1勝ち。史上初の10億円牝馬。記録にも記憶にも残る名馬、それがウオッカだ。すべてが検討段階とはいえ、女帝はその強さで、自らの未来をも変えようとしている。【鈴木良一】
◆ウオッカ ▽父 タニノギムレット▽母 タニノシスター(ルション)▽牝5▽馬主 谷水雄三▽調教師 角居勝彦(栗東)▽生産者 カントリー牧場(北海道新ひだか町)▽戦績 22戦9勝(中央19戦9勝、海外3戦0勝)▽総収得賞金 10億1991万1800円(中央9億9122万2000円、海外2868万9800円)▽主な勝ちクラ 06年阪神JF(G1)07年チューリップ賞(G3)ダービー(G1)08年安田記念(G1)天皇賞・秋(G1)09年ヴィクトリアマイル(G1)
(2009年6月8日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時