【有馬記念】来年2月末で騎手引退の福永祐一、ラスト有馬はボルドグフーシュで恩返し

福永騎手を背に坂路を単走で追い切るボルドグフーシュ(右)(撮影・白石智彦)

<有馬記念:追い切り>

名手のラスト・グランプリ! クリスマス決戦「第67回有馬記念」(G1、芝2500メートル、25日=中山)の最終追い切りが21日、東西トレセンで行われた。

来年2月末で騎手を引退し、調教師に転身する福永祐一騎手(46)はボルドグフーシュ(牡3、宮本)とのコンビで最後の騎乗にして初勝利を狙う。調教師試験にも挑んだ激動の1年。家族への感謝とともに、騎手生活27年の集大成に挑む。なお、きょう22日に枠順抽選会が行われる。

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今年のクリスマス有馬は特別だ。福永騎手にとって単にこの1年を締めくくるだけでなく、騎手として最後の有馬記念になる。来年3月からは調教師に転身。ラスト・グランプリだ。

「充実した1年だった」

激動の22年をそう振り返る。昨年末の香港で落馬負傷し、療養からのスタートだった。コントレイル、インディチャンプといったG1をともに戦ったパートナーも引退し「今年はG1を勝てないかも。厳しい年になると思っていた」と不安にかられることもあった。

それでもフェブラリーS、皐月賞とJRA・G1を2勝。10月には史上4人目のJRA2600勝を達成し、先週にはJRA最長13年連続の年間100勝も決めた。騎手として充実する中で、今月8日には調教師試験に一発合格。「エージェントがいい仕事をしてくれたね。自分の中では上々の1年。調教師試験にも合格したし、大きな転機の1年だった」と振り返る。

翠夫人と3人の子どもに感謝の1年でもあった。

「今年は普通にレースに乗って、調教師試験の勉強をする。そう決めた。レースをおろそかにしたくなかったし、競馬に向けての準備、取り組みは変わらず続けた。だから、家族には我慢してもらったよ。それ以外の時間はずっと勉強していたからね」

時には、家族旅行を「俺は行けないわ」と自身だけ取りやめたり、旅行自体をキャンセルしたこともあった。家族と過ごす時間は、子どもたちが学校から帰ってくる平日の夕方以降だけ。「夏休みとかは特に我慢させてしまったよね。本当に協力してくれて、感謝しかないよ」。家族で闘った1年でもあった。

ちょうど10年前、12年の夏に米国へ武者修行に行った。前年に初めてJRAリーディング(地方・海外除く)に輝いたため「2カ月も日本を不在にするのはもったいない」という声もあったが、自身の技術向上のため迷わず海を渡った。20年にはキャリアハイの134勝をマークし「望んでいた環境の中で騎手ができている」という絶頂期にあって、今度は調教師を志した。現状に満足せず、常に高みを目指す。そうして存在感を放ち続けてきた。

「未知の世界ってワクワクするやろ。人生1回きりやで? やりたいことをやらないと。もちろん家族や周りの人がサポートしてくれたからこそ、今があるねんけど」

“感謝”を胸に挑むラスト有馬。98年キングヘイロー(6着)から13回騎乗して勝利はない。「乗っていないとさみしくなる。めっちゃ盛り上がる」という特別なレースで、最後にして初勝利を狙う。相棒は菊2着ボルドグフーシュ。

「体調は良さそうやし、あとは中山の2500メートルがどうか。コーナーでの加速が必要だし、馬にも“騎手”にも器用さが求められるから」

1番を志し、飛び込んだ騎手の世界。27年間の集大成となるラスト・グランプリで“恩返し”の1着を取りに行く。【藤本真育】