【ダービー】社台F吉田照哉代表「こんな馬いるのか」ソールオリエンス無敗2冠を確信

皐月賞優勝馬ソールオリエンスの写真を持つ吉田照哉社台ファーム代表(撮影・柴田隆二)

<連載:ライジングサン ソール無敗2冠へ(1)>

さあ、ダービーウイークスタートだ。今年の3歳世代7708頭の頂点が決まる「第90回日本ダービー」(G1、芝2400メートル、28日=東京)まであと1週間。史上8頭目となる無敗の皐月賞&ダービー制覇を目指すソールオリエンス(牡、手塚)に迫る連載「ライジングサン ソール無敗2冠へ」第1回は、社台ファームの吉田照哉代表(75)が熱い思いを語った。

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期待が、確信に変わりつつある。社台ファームの吉田照哉代表はダービーデーが近づいてきても、皐月賞の余韻を楽しんでいた。「こんな馬いるのかと思いましたよ」。生産馬ソールオリエンスの強さを問われ、声のトーンを上げた。無敗2冠制覇を信じる気持ちは日に日に強さを増している。

これまで何頭も名馬を見てきた。今年の主役は3戦3勝の最少キャリアで皐月賞を制した。社台ファーム生産馬として送り出したダービー馬は5頭。彼らに匹敵する素質、能力がある。

「今回は(単勝)1倍台かな? 皐月賞はぶったまげたから。『本当かよ!?』という感じでした。4角を回ったときに、さすがにこれは届かないと思ったくらい。後ろから2番目くらいだったでしょう。しかも、大外を回って。いくらなんでも外を回らされるなと思ってあの走りですから。今度は得意の左回り。やってもらいましょう」

皐月賞は4角17番手を大外から突き抜けた。同じ舞台の2走前京成杯では、大きく外へと膨らんでいた。当時から改善されていたとはいえ、中山より広く、直線の長い東京でこそ、の思いは強い。

「血統を見ても母父がモティヴェイター(05年英ダービー馬)だし、母母父も英ダービー馬。デインヒルの血も入っていて、お母さんのスキアは2100メートルの仏G3勝ち馬です。どう見ても距離適性は長いところにあります。身のこなしが軽くて、乗った人はみんな、絶対にいい馬だと言っていた。まさかここまで強いとは思わなかったけど、すばらしい馬です」

1枠1番で皐月賞を制していたのはグレード制導入の84年以降、88年ヤエノムテキ、94年ナリタブライアン、20年コントレイルに続く4頭目。“先人”3頭のうち2頭は3冠を達成した。走る度に想像を超えてくる。この中間も、そんな予感がしている。

皐月賞から中5週。今回がデビュー以来、最短のレース間隔になる。将来の本格化を見越して、無理せず、大事にレースを使ってきた。

「(皐月賞後は)思ったほどの疲れがなかったみたいだね。そうじゃないと、ダービーは勝てないよ。しょぼんとなっていては。上積みは見込めると思う。本当に、この馬には驚かされますよ。並外れている。こちらの心配はなんだったのか、という感じです」

今をときめくキタサンブラック産駒だ。他牧場の生産馬だが、初年度産駒イクイノックスは昨年の年度代表馬となり、今年の青葉賞馬スキルヴィングも同じ父を持つ。

「子どもを見ていても、だんだん上がってくる馬が多いですね。逆に2歳時にあんまり走らないくらいがいいのかも。キタサンブラックも3歳の1月31日デビューで、早く仕上がった馬ではなかったですから。だから3歳1月で京成杯、3歳の2戦目で皐月賞を勝ったのはすごい。並外れた力を出すのはやはりサンデーサイレンスの血だよね。大物を出すのはキタサンブラックの血なのかな」

父は現役終盤は540キロ台での競馬が続いた。一方、ソールの育成期間中は体重増に気をもんだほど。「厩舎にのぞきに行くたびに、体重が何キロになったか聞いていたくらい」。1歳11月に左後肢に軽度の骨折こそあったが、昨年8月下旬まで北海道の社台ファームで乗り込みを重ねて、同牧場の山元トレセン経由で美浦トレセン入り。牧場との行き来を繰り返し、地力を蓄えてきた。

夢は飛躍する。

「海外に行くとしても4歳ですよね。3歳のうちに海外に行くと、馬は結構ダメージを受ける。今は日本の馬が本当に強くなりました。ジャパンC、有馬記念も賞金が上がりましたし、ドバイ、サウジアラビアは日本馬が20頭も行くような時代になりました。ダービーもそうですが、その後も楽しみなんですよ」

世代の頂点を極めた先に、国内外への選択肢も開けてくる。3冠制覇、そして海外進出…。描く未来は広がるばかりだ。まずは史上8頭目の無敗2冠達成へ。ラテン語で「朝日」と名付けられたソールオリエンスは、新時代の夜明けを待っている。【松田直樹】

◆吉田照哉(よしだ・てるや)1947年(昭22)11月12日、千葉県成田市生まれ。社台ファーム代表。慶大卒業後、父善哉氏が経営する同ファームに入社。希代の名種牡馬サンデーサイレンス(91年から社台スタリオンステーションで種牡馬生活をスタート)を導入するなど、日本競馬の発展に大きく貢献。千津夫人も馬主で、息子の哲哉氏は社台RH代表を務める。弟の勝己氏はノーザンファーム代表、晴哉氏は追分ファーム代表。

◆無敗なら8頭目 皐月賞&ダービーの2冠制覇は過去に24頭いる。今回のダービーは第90回になるが、第10回(セントライト)、20回(ボストニアン)、30回(メイズイ)、50回(ミスターシービー)、70回(ネオユニヴァース)と節目の回は2冠馬が出やすい(3冠馬含む)。また、無敗で達成すれば1951年トキノミノル、60年コダマ、84年シンボリルドルフ、91年トウカイテイオー、92年ミホノブルボン、05年ディープインパクト、20年のコントレイルに続き、史上8頭目。