【美浦便り】根本師が騎手時代に学んだものは…JCウインエアフォルク出走かなえば「菜七子で」

14日朝、調教へ向かうウインエアフォルクの写真を撮る根本師

今朝の美浦は季節が一気に進みました。朝7時の時点で気温は4度。つい10日ほど前は「夏日が~」なんてニュースでにぎわっていたのに、えらい変わりようです。シャツの上に薄手のダウンジャケット、その上にウインドブレーカーを着込んで…。完全に冬仕様のスタイルで取材をしました。

マイルCS、東スポ杯2歳S、各特別競走に新馬戦。いろいろ聞いて回りますが、来週のジャパンCも少しずつ意識して取材していかねばなりません。特別登録が発表される前は少頭数を予想していましたが、ふたを開けてみれば21頭がエントリーしていました。全馬が勝利を、1つでも上の着順を目指して戦います。フルゲート18頭。紙面、ネットで各陣営の思いを紹介できればと思います。

競馬専門誌を眺めていたら、そのジャパンCにウインエアフォルク(牡6、根本)の名前がありました。騎手欄には藤田菜七子騎手(26)の名前が。出走馬決定順は20番目で、上位のいずれか2頭が回避しないとゲートインはかないません。ですが、他陣営に路線変更の可能性があったりするので、もしかしたらと期待してしまいます。14日朝、根本康広師(67)に聞くと「出られるなら使いますよ。もちろん。菜七子で」ときっぱりでした。

勝負に絶対はない一方で、出なければ絶対に勝てません。根本師は自身の現役時代の思い出を引き合いに出して振り返ります。46年前の77年、ローヤルセイカンと臨んだ日本経済賞(優勝馬グリーングラス)です。当日の1R騎乗後、メインレースまでは騎乗予定がなく、調整ルームの風呂場で汗を流していたときのこと。“汗取り”に来ていた吉永正人騎手に声をかけられたといいます。「あんちゃん、何に乗るんだ」。

まだ、デビュー1年目。初めての重賞騎乗を控えた根本騎手は「日経賞です。出るだけですよ」と答えました。勝負の世界に参加賞はありません。出るだけ-。その心構えが先輩騎手の逆鱗(げきりん)に触れました。「出るだけなら乗るな。俺はそのレースに乗っていない。乗れない俺は絶対に勝てないんだ。そういうつもりなら、乗るんじゃない」。勝ち負けの大前提には勝利への意欲があります。結果は5位入線後に失格となりましたが、プロとして大事なものを教わったといいます。

全ての馬にチャンスがある。実体験として、根本師は知っています。皇帝シンボリルドルフをギャロップダイナで破った85年天皇賞・秋です。単勝1・4倍の1番人気馬を、単勝88・2倍で13番人気の伏兵がレコード(当時)で倒す。以前、同師は「場内がシーン、となってその後はファンのどよめきだよ。歓声なんてなかったな」と、ゴール後の異様な雰囲気を語ってくれました。ファンも、乗っていた本人さえも、まさかの思いでした。「あの時のルドルフは今のイクイノックスのようなものじゃないですか」。ウインエアフォルクは3勝クラス所属馬。厳しい戦いが待っているのは承知の上で、ファイティングポーズを取ります。

今年もジャパンCは並んだ馬名を見るだけでもわくわくします。世界最強馬をはじめ、3冠牝馬リバティアイランド、ダービー馬ドウデュース、昨年覇者ヴェラアズール、国内屈指の長距離砲タイトルホルダー、2冠牝馬スターズオンアース、現役最高賞金獲得馬パンサラッサがいる。それだけではありません。他にも国内強豪たちに加えて海外、地方からも精鋭がそろいました。「めったにないチャンスだから、写真撮ろっと」。根本師はそう言うと、G1に特別登録した馬が着用する紫色の特殊ゼッケンを着けたウインエアフォルクにスマホのカメラを向けました。「この年でも馬は成長しているよ」。希望を持ち続けて、レースを待ちます。【松田直樹】