【西新橋便り】JRA賞投票は現場色をより強く 今年の結果を見て感じたこと

【イラスト】24年JRA賞受賞馬一覧

9日午後3時にJRA賞受賞馬が発表された。その時間は西新橋にあるJRA本部に詰めていた。23年度の投票有資格者は295名で、昨年までの「最優秀短距離馬」部門は「最優秀マイラー」と「最優秀スプリンター」に細分化。各投票者は全10部門のいずれかに投票した馬から年度代表馬候補を1頭選び、イクイノックスが2年連続で年度代表馬に選出された。

同馬の得票数は293票(残る2票は3冠牝馬リバティアイランド)。全体の99・3%となる圧倒的支持を得た。引退戦のジャパンCまで国内外でG1・4戦4勝の年間成績には文句のつけようがなく、順当な結果に落ち着いた。

全部門で満票選出が1つもなかったのは07年以来、16年ぶりのことだ。例年、阪神JF勝ち馬がほぼ自動的に最優秀2歳牝馬に満票選出されていたが、ホープフルSのG1昇格後、レガレイラが牝馬初の勝利を収めたことで票が割れたことも一因としてある。

JRA賞は記者投票によって選出される。投票権を得るのはスポーツ紙や一般紙で構成される記者クラブ、専門紙各社で構成される日本競馬新聞協会、ラジオやテレビ各社で構成される民放系の記者クラブに在籍する者だ。加えて、OBの会友も投票権を有する。JRAは各団体ごとに投票権付与までの在籍期間、人数などのルールを定めている。

もちろん投票ゆえ、個人の主観は尊重されるべきだ。少数派の意見は頭ごなしに否定されるべきではないし、今年の各部門の受賞馬は総じて妥当だったと思う。だが、投票に少しずつ現場色が薄れてきていることはわずかに危惧している。最近の投票者層の割合には、違和感を覚えていたからだ。

新型コロナウイルスが流行した20年以降、各競馬場や東西トレセンなどの取材態勢は感染拡大防止の観点から厳格化された。コロナ禍が収束して一部が緩和されたとはいえ、その流れは今も続く。かつてはOBの会友も競馬場内の関係者エリアに入ることができたが、現在は検量室付近への立ち入りなどはNGとされ、トレセンへの出入りも厳しく制限されている。

会友は極端に現場に触れる機会が減っている状況で、今年、全体の15・3%にあたる45人が投票者リストに名を連ねた。00年は5・8%(17人)、すでに取材制限が始まっていた2年前の21年は11・8%(35人)。今年はさらに増えていた。OBたちが積み上げた知見は大事にされるべきだが、単年の成績が対象となるJRA賞の性質を思うと、いささか占有率が高いと感じていた。今も取材を続け、何かしらの媒体に寄稿している会友もいるが、通年となると競馬に携わっている方は半数にも満たない。

一方で、競馬専門紙を発行する日本競馬新聞協会は休刊や廃刊によって、投票者の数が逓減している。00年に全体の25・5%(75人)だった占有率は、21年に13・5%(40人)にまで落ち込んでいた。現場目線を大事にするJRAのスタンスとの矛盾が生じているのだ。

JRAは来年から投票権付与の対象者に手を入れる。会友となって3年が経過した有資格者は、投票権を喪失するという。JRAの広報によると、現時点で来年は33人が対象。24年度における会友の占有率は全255人の4・7%(12人)に抑えられる見込みだ。

来年以降、有資格者の総数は減るが、投票そのものは現場の声がより濃く反映されるものとなる。個人的にもこの変更は歓迎だ。JRA賞投票においては競馬の予想のような“穴党”になる必要がないのは大前提として、たとえ少数派になるかもしれないとしても、今まで以上に確かな根拠と責任感をもって票を投じることが求められる。今年も1年間、精いっぱい取材に、競馬に向き合っていきたいと思う。【松田直樹】