開幕週の札幌で、場内実況アナウンサーの名調子がさえ渡った。土曜1R発走直前には「夏競馬という祭りが始まります」。そして日曜10Rでワタシマツワ(牝4、竹内)が先頭に躍り出ると「待つことなく先頭にかわった」。声の主はこの道40年以上の小林雅巳アナ(65)。大の札幌好きを公言するベテラン実況者に、名ぜりふが飛び出した背景を聞いた。
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札幌競馬の幕開けを告げるファンファーレが響いたあと、アナウンサーが場内をさらに盛り上げた。
「札幌はお祭りです。いよいよ夏競馬という祭りが始まります」
開幕初日の25日、ラジオNIKKEIによる前半の場内実況を担当したのは小林雅巳アナ。この道40年を超える大ベテランは、札幌の夏競馬を、そして札幌の街をこよなく愛する。
「記者の方たちもそうかもしれませんが、競馬アナウンサーも、夏の北海道開催は函館派と札幌派に分かれます。私は昔から断然、札幌派。夏が近づくと『札幌がいい。札幌が好きだ。早く札幌開催になれ』と、そんなことを周囲に言いながら過ごしています」
札幌好きを公言する小林アナは、今年の函館開催初日の1Rも担当した。
「オープニングレース直前には、『いよいよ2026年、函館開催の幕開けです』みたいなことを言ったわけです。でも札幌が大好きと公言している手前、同じ夏競馬でも違いを出さなければならないと考えて。『いよいよ2026年、札幌開催が始まりました』だけじゃ、よろしくないなあと。いや、変に奇をてらうようなことを言うつもりはないのですがね」
今年の札幌土曜1Rは8頭立ての少頭数。ファンファーレが鳴ったあと、ゲートイン完了まではあっという間。思いを込めたセリフを、長々と続けることはできない。テンポの良さも大事になる。
そんなことを考えていた小林アナにひらめいたのが、「祭り」というキーワードだった。7月下旬からは、日本最大のビアガーデンで有名な「さっぽろ夏まつり」がスタート。アーケード商店街の狸小路では「狸まつり」も始まった。そんなタイミングで、札幌競馬の開催がやってきた。
「ここでもお祭りだなと。それで、『夏競馬という祭りが始まります』と口にしました」
その印象的なフレーズはSNSで反響を呼んだ。
「あの日の夜の会合で、『結構ネットで騒がれていましたよ』と教えていただき、びっくりしました。受けを狙っていたわけじゃないので…」
ベテランアナウンサーは、そう戸惑い気味に振り返る。ちなみにこのオープニングレースを勝ったのは小林美騎手と小林厩舎のコンビで、実況者は小林アナ。小林づくしだったことについては「そこは意識していなかったです」と笑った。
翌26日の実況も話題になった。10R羊ケ丘特別を制したのはワタシマツワ。この珍名馬が4コーナーで早くも先頭に躍り出ると、小林アナはさらりと口にした。
「ここで先頭はワタシマツワ。ワタシマツワ、待つことなく先頭にかわった!」
ユーモラスなこのフレーズもたちまち話題沸騰。競馬キャスターの小堺翔太さんは自身のXアカウントに「小林アナウンサーの実況、いいですねぇ…」と投稿した。実況した本人はこう明かす。
「レース前に、ワタシマツワが待たずに早めに仕掛けていって先頭に立ったら『待たずに先頭』って言えるかなって、ちらっと思ったんです。そしたらその通りになって。希なレースです。あそこでかんじゃったりしたら白けるので、すらっと言えて良かった(笑い)」
今年で65歳になったベテランアナウンサー。その技術は円熟の境地に至る。このあと札幌では3週目と最終週の実況を担当予定。夏競馬という祭りはまだ始まったばかりだ。【奥岡幹浩】
※小林アナが明かすレース実況の裏話や、熱い札幌愛トークなど、本稿で紹介できなかった部分も含めて「日刊スポーツ競馬極ウマ」(会員制)で一問一答を公開中です。併せてご覧ください。
◆小林雅巳(こばやし・まさみ)1961年(昭36)4月24日東京都生まれ。埼玉県、茨城県で育つ。明大出身。85年ラジオたんぱ(現ラジオNIKKEI)入社。定年による今年4月の嘱託契約満了後も、週末は中央競馬の実況を担当する。馬券は穴党。