今年のサッカーW杯はスペインの優勝で幕を閉じた。大会終了後も、多くの試合で議論となったのが、レフェリーによるジャッジだった。JRAでも6月28日函館記念、前日同27日福島2Rなどジャッジについて、立て続けに話題となった。函館記念の事象を中心にJRA審判部を取材した。取材は広報部を通じてメールで行った。【取材・構成=高橋悟史】
W杯期間中の6月28日函館記念。1着ファウストラーゼン、半馬身差の2着ケリフレッドアスク。勝ち馬が外によれ、2着馬の進路が狭くなった。小林美駒騎手には開催4日間の騎乗停止が課されたが、降着とはならなかった。かなりこれに近い事象がある。2019年9月1日札幌9Rだ。この時の1位入線と2位入線は首差。1位入線馬は降着となった。最終的な判定の基準は着差なのか、それとも速度なども考慮した計算式のようなものがあるのだろうか。
JRA審判部「降着するかしないかについては、着差だけでなく、被害程度や事象の起こった場所、事象前後の加害馬・被害馬の走行状況等を総合的に勘案し判断しています。したがって、着差だけを判断材料としているわけではありません。なお、各馬の速度を正確かつ瞬時に測定する手段はなく、計算式もありませ
ん。また、事象を精査する中で、加害馬と被害馬の双方の騎手から事情聴取をしていますが、最終的には
映像による客観的な事実に基づいて総合的に判断しています」。最終的には審判のジャッジということだ。 審議ランプがついたのは、勝ち馬が引き揚げて来る途中だった。藤原英師から降着の申し立てがあったからだろうか。
JRA審判部「調教師から降着の申立てがあったタイミングではありません。裁決委員が、全馬入線した直後にゴンドラでパトロールビデオを見直し、その結果、着順の変更の可能性について精査する必要があると判断したため審議ランプを点灯しました(入線後2分程度)。これは、通常のオペレーションであり、点灯が遅れたということではありません」。調教師からの降着の申し立ては入線から約10分後だったという。
その前日、6月27日福島2Rでの事象についても聞いた。こちらは江田照騎手から降着の申し立てがあったものだ。JRA審判部「裁決委員が入線直後にゴンドラにおいてレース映像を精査した結果、被害程度や事象が起こった場所、事象前後の加害馬・被害馬の走行状況などから、たとえ着差が『ハナ』であっても『着順を変更する可能性がある事象』にはあたらないと判断したため、審議ランプを点灯しませんでした。その後、検量裁決室において事象を精査していたところ、被害馬の江田照騎手から『なぜ審議にならないのか?』と発言があたったため、裁決委員の判断を説明したところ、江田照騎手が『加害馬を降着とする裁決を求める申立て』を行ったという状況です」。
サッカーにおいてのファウルも同様だが、全員が納得する決定にはなりにくい。サッカーでVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されるずっと前から、競馬の場合はビデオ判定だ。それでも紛糾するのは「解釈」が存在するからで、競馬の場合は馬券というお金も絡む。
競馬の場合、駆け引きをのぞけば意図的な妨害はない。現状、過怠金は未勝利でもG1でも1万円から10万円。海外のようにケタ違いに高額とすることで「やり得」の抑止力になるのではないだろうか。JRA審判部も「海外では賞金に連動して高額な過怠金(ぺナルティ)が課されるケースがあることは認識しています」とした。「制裁は過怠金が全てではなく『やり得』とはならないように重大な違反行為に対しては過怠金ではなく騎乗停止を科すことが抑止力となっていると考えています」と現状を踏まえた上で「一方、今後も制裁の基準を見直さないということではなく、必要に応じて検討したいと考えています」と議論の余地はあるとした。
サッカーの競技規則を読んでみた。第1条が始まる前のページに「競技の精神」が書かれている。そこには「審判は人間であるため、必然的にいくつかの判定が間違ったものになったり(中略)判定は正しかろうと間違っていようと競技の『精神』は審判の判定が常にリスペクトされるべきものであることを求めている」とある。世界中、どこにいっても行われているのはサッカーと競馬。この先、テクノロジーが導入される可能性もあるだろう。人馬が走って人がジャッジする。よりよいものにするために議論は続けていきたい。
○…現在レーシングプログラムに裁決委員の名前記載はない。JRAによると24年3月23日以降、取りやめたもので、JRAが正式に広報発表している個人名は人事異動があった際などの役員、部長及び事業所長のみ。また、情報公開法に基づく開示請求が行われた際の対応も、基本的には職員名は非公開。個人情報の観点からとしている。