今年のサッカーW杯はスペインの優勝で幕を閉じた。大会終了後も、多くの試合で議論となったのが、レフェリーによるジャッジだった。JRAでも6月28日函館記念、前日同27日福島2Rなどジャッジについて、立て続けに話題となった。函館記念の事象を中心にJRA審判部を取材した。取材は広報部を通じてメールで行った。【取材・構成=高橋悟史】
メールでの質疑応答は以下
■審議ランプがともるケースはどんなケースですか
⇒「5位までに入線した馬の着順を変更する可能性がある場合」について、審議ランプを点灯します。これは馬券に関係する着順が変更となる可能性があるため、確定するまでお客様が馬券を捨てることの無いように注意喚起することを目的としています。従いまして、6位以下に入線した馬の着順を変更する可能性がある場合にも裁決委員は審議をしますが、馬券に影響する着順ではないため、審議ランプの点灯(=審議の公表)は行わないという運用をしております。
なお、その他審議ランプを点灯するケースとしましては、「競走不成立の可能性がある場合」、「5位までに入線した馬について他の出走馬関係者から『失格・降着の裁決を求める申し立て』があった場合」、「裁決委員が特に必要があると認めた場合(例えば、馬が決勝線付近で落馬した場合で入線したかどうかを精査するケース)」などがあります。
■2013年から降着ルールが統一基準に変更されましたが、改めて現状の降着ルールを教えていただけますか
⇒裁決委員が「加害馬の違反行為により被害馬が走行を妨害されたと認める事象で、かつ、その妨害行為がなければ被害馬が加害馬より先に入線していたと判断した場合」、加害馬は被害馬の後ろの着順に降着となります。審議においては、加害馬・被害馬の着順や着差だけではなく、被害程度、事象が起こった場所、事象前後の加害馬および被害馬の走行状況などの要素を総合的に勘案して、降着するかどうかを決定します。
■レース中の走行妨害や危険な騎乗における制裁の基準(重さ)を改めて教えていただけますか。最長期間が決まっているのかなど。⇒走行妨害や危険な騎乗があった場合の制裁は「騎乗停止」を含めて検討し、事象の状況、被害程度、騎手の過失の程度、馬の悪癖の有無、加害騎手の過去の制裁履歴等を総合的に勘案して決定しています。なお、競馬開催期間内に裁決委員が科すことのできる騎乗停止は30日以内と定められています。
■過怠金はおおむね1万円から10万円かと思います。海外のケースですとより高額なペナルティーが科されるケースがあり、JRAの場合は比較的安いと思います。“やり得”とならないように過怠金の増額などは検討されていますか。
⇒海外では賞金に連動して高額な過怠金(ぺナルティ)が科されるケースがあることは認識しています。制裁は過怠金が全てではなく、「やり得」とはならないように重大な違反行為に対しては過怠金ではなく
騎乗停止を科すことが抑止力となっていると考えています。
一方、今後も制裁の基準を見直さないということではなく、必要に応じて検討したいと考えています。
■Jリーグはリーグ戦開催期間中、月に1度、メディアを集めて「レフェリーブリーフィング」が行われ、最新の判定基準の解説があります。「このジャッジは○○の部分を見落としていた」などの言及もあります。JRAでも同様のことを行う予定はありますか。もしくは都度行う予定でも構いません。
現在もHP上では裁決パトロール、裁決レポートなどを公開されていますが、レース当日中ではなくても、より詳細なレポートを動画もしくはテキストで公開というプランはありますか。HP上だけでなく、JRA公式YouTubeなども含めて。
⇒競馬主催者の中でJRAはすでに世界的に見ても高い水準で情報を公開していると考えています。全レースのパトロールビデオに加え、重い制裁が発生したレースや審議となったレースについては裁決パトロールとして複数の角度の映像を当日中にHPで公開しています。あわせて、制裁内容やその理由も裁決レポートとして公開しており、イレギュラーな事案やお客様の反響が大きいと思われる事案等があった場合には、記者の方々からの要望に応じ、説明会を実施したこともあります。現時点で「レフェリーブリーフィング」のような定期的な解説を裁決委員が行うことは考えていませんが、ご要望に応じて広報部から情報を提供するなど、極力丁寧な説明をしていきたいと考えています。
■今年の函館記念では審議ランプがついたのは、ゴール入線後しばらくして(勝ち馬が引き上げてくる際)だったと思います。このタイミングだった(入線直後ではなかった)のはなぜでしょうか。調教師から降着申立てがあったタイミングだったのでしょうか。
⇒審議ランプを点灯したタイミングは、藤原調教師から降着の申立てがあったタイミングではありません。裁決委員が、全馬入線した直後にゴンドラでパトロールビデオを見直し、その結果、着順の変更の可能性について精査する必要があると判断したため審議ランプを点灯しました(入線後2分程度)。これは、通常のオペレーションであり、点灯が遅れたということではありません。
その後、加害馬と被害馬の関係者から聴取を行った上で、事象を精査した結果、「到達順位のとおり確定する」と判断しました。その結果を関係者に説明したところ、被害馬を管理する藤原調教師から加害馬の降着を求める裁決の申立てがありました(入線後10分程度)。
■上記の今年の函館記念のケースは、2019年9月1日札幌9Rの事象と似ているように見えます。2019年のケースでは1位入線と2位入線は首差ほどで、1位入線馬が降着。今年の函館記念は同半馬身差でした。最終的な判断の違いは着差でしょうか。速度と着差などを総合した計算式のようなものがあったら教えていただけますか。
また、2着ケリフレッドアスクの北村友一騎手からは「不利がなかったら勝っていた」という旨のレース後コメントがありましたが、被害馬の騎手への聴取はするものでしょうか。また聴取をするのであれば、裁決結果にどの程度影響しますか。
⇒降着するかしないかについては、着差だけでなく、被害程度や事象の起こった場所、事象前後の加害馬・被害馬の走行状況等を総合的に勘案し判断しています。したがって、着差だけを判断材料としているわけではありません。なお、各馬の速度を正確かつ瞬時に測定する手段はなく、計算式もありません。
また、事象を精査する中で、加害馬と被害馬の双方の騎手から事情聴取をしていますが、最終的には映像による客観的な事実に基づいて総合的に判断しています。
■今年の函館記念及び、前日6月27日福島2Rで、申立てがある前に、検量室内の審判部の中でどんな会話が行われて検討されたのか教えていただけますか。申立ての前に審議ランプをともす議論はあったのでしょうか。
⇒函館記念についてはすでにご説明したとおりです。6月27日の福島2Rについては、裁決委員が入線直後にゴンドラにおいてレース映像を精査した結果、被害程度や事象が起こった場所、事象前後の加害馬・被害馬の走行状況などから、たとえ着差が「ハナ」であっても「着順を変更する可能性がある事象」にはあたらないと判断したため、審議ランプを点灯しませんでした。その後、検量裁決室において事象を精査していたところ、被害馬の江田照騎手から「なぜ審議にならないのか?」と発言があたったため、裁決委員の判断を説明したところ、江田照騎手が「加害馬を降着とする裁決を求める申立て」を行ったという状況です。
■6月27日(土)福島2Rでは、1着馬と2着馬が直線で何度も接触しているようにも見えました。江田照男騎手は「馬がバランスを崩したりもしていた」とも話していました。最終的に鼻差で確定しましたが、走路妨害がなければ着差がひっくり返った可能性についての議論はあったのでしょうか。
そもそも今回の福島のケースは、走行妨害そのものが認められなかったということなのでしょうか。走
行妨害になるか否かについては、どういう基準で判断されるのか教えていただけますか。
⇒走行妨害については、加害馬の違反行為によって被害馬の能力発揮に重大な影響があったと裁決委員が判断した場合に認定しています。6月27日の福島2Rの事象については、こうした被害程度や着差に加え、事象の起こった場所、事象前後の加害馬・被害馬の走行状況などを総合的に勘案して、「降着の可能性がある事象にはあたらない」と判断しました。(おわり)