がまかつ主催の親睦をテーマとする「GFG杯争奪大会」の全日本地区対抗磯(チヌ=クロダイ)釣り選手権が5月27日、秋田・男鹿加茂港を本部として開催された。チヌ5匹までの総重量で、東北地区のA・B2チームを含む全国11地区から12チーム計36人の精鋭が腕を競った。やや渋めの釣況の中、大西宏泰さん(51=香川・観音寺市)が個人戦を制し、その勢いで四国チームがGFG杯を奪取した。

がまかつが主催する全国大会には「G杯」と呼ばれる日本一を競う大会がある。アユ、ヘラブナ、投げシロギス、磯グレ(メジナ)そして磯チヌだ。すべて現場を前にして、誰のアドバイスも受けずに釣り人が局面を打開していく魚種ばかり。参加する釣り人のレベルの高さから、G杯覇者はおのずと「日本一の称号がふさわしい」と釣り人の間で受け入れられている。

「本気のG杯」に対して「和気あいあいのGFG杯」。磯チヌの場合、全国を11分割して、がまかつユーザーを集合させる。各地区3人の代表でGFG杯を懸けて真剣ではあるが、楽しみながら釣りをする。

組み合わせで違う地区の2人が磯に渡る。境界線は特に設けずに2人並んで糸を垂れてもいい。岩に寄せる波音をBGMに、冗談を言い合いながら、互いの地元の釣りについて意見交換し、目の前の獲物をどう攻略するか戦略をぶつけ合う。今回は、秋田・男鹿半島の加茂港が親睦の地に選定された。

宿泊地のセイコーグランドホテルには、大会前日26日午後5時の集合だった。続々と各地から釣り人が集結し、宴会場には熱気が漂った。各代表の自己紹介では沖縄代表の3人が「北国と思ってコートを持ってきたのに。なんだか暑いさぁ。これ、沖縄の方が寒いさぁ」と爆笑を誘った。

そのなごやかな宴会場の雰囲気を打ち破ったのは予告もなく「悪りぃご(子)はいねがぁ~」と押し殺した声で入場したナマハゲ2体。「おめら明日いっぺぇ釣れよぉ~、頑張れよぉ~」と、意外にもこまやかな激励をして選手の頭をなでて去っていった。焼いた石でグツグツ煮込む男鹿独特の鍋も、地元産の魚と野菜をふんだんに放り込んで振る舞われた。楽しい夜を過ごし、英気は十分に養われた。

しかし、海はイマイチ。エサ取りのフグとメジナ、海タナゴ、アジが寄ってきて釣りにならない。そして、太平洋側に住む選手にとっては思わぬ洗礼が浴びせられた。

東北B代表で青森・野辺地町出身の原田満さんが解説してくれた。「日本海は干満の差がほとんどない。青森・竜飛岬が境。太平洋側は干満の差がメートル差がつくこともある(来週の潮位参照)けど、日本海はせいぜい20センチ。潮の上げと下げのギャップを感じられない。純粋に海の変化を観察するしかない」。太平洋側から来た選手は首をかしげ、サオを見つめ、広い海を前にして途方に暮れた。

日本の海にはいろいろあることを知るのもGFG杯の魅力の1つでもある。優勝した大西さんは、団長を含めて3位に食い込んだ三好正利さん(愛媛・新居浜市)と高(たか)弘幸さん(愛媛・今治市)の4人で待ち合わせ、車1台で陸路を伝い、18時間かけて男鹿入りした。優勝の第一声は「うわっ、疲れた、眠い」で「いや、個人優勝よりも団体のGFG杯を取れたのがうれしい。四国チームはみんな初対面でしたが、車の移動をともにして団結力は参加したチームでも1番です」と笑顔で話した。

大西さんは磯チヌ釣りはそれほど好きではない。「だって、地元では堤防で釣れますから。わざわざ磯には渡らない」。父親の影響で子どものころから、砂浜からの投げ釣りでシロギスを釣るのが大好き。今回は午前中、まったく釣れなかったので、磯替えをした後半、コマセをまかずにコーンを3、4個ハリに付けたら2匹連続で釣れた。「いろいろやって、工夫する。得意ではないけど、釣りは好きなんですよ」と話した。

準優勝の高多(たかた)武文さん(石川・金沢市)は、さすがに日本海側の釣り人で、男鹿の海を冷静に見ていた。前日26日はマルキユーのチヌ大会だった。「もうコマセは十分。だから、太陽が上がる前。山の陰で海が隠れている前半が勝負」とにらんで、オキアミのエサだけハリに付けて2匹を釣り上げた。

4位の寺田泰隆さんはわずか40グラム差で表彰台を逃した。「もう前半が全然ダメ。交通事故のようなもんだけど、あとちょっとかぁ。でも、楽しかったからいいです」とニコニコ。

楽しんで愉快に。釣果は別としてジリジリと暑さが充満する男鹿半島に選手全員が満足していた。「じゃ、またどこかで」と表彰式が終了し、名残惜しそうに握手を交わし再び全国に散っていった。【寺沢卓】