上野陽介さん 終了直前に大逆転50グラム差V

念願の初優勝、上野さん。地元の意地をみせた

<フィッシング・ルポ>

終了間際でクルクル順位が入れ替わった! 茨城・新利根川「松屋」(松田健一店主)で8月26日、ブラックバスの日刊スポーツ杯決勝大会が実施された。5地区から各3人、予選突破者15人に前年王者を加えた16人で激戦を戦い抜いた。優勝は地元選出の上野陽介さん(32=茨城・古河市)で、試合が終わる直前に釣ったバスで大逆転! 3匹総重量審査で2320グラムを記録し、決勝初進出で栄冠を奪い取った。

ギラギラと照り付ける太陽が体力を奪っていく。茨城・新利根川。関東のバス釣りの聖地と知られる霞ケ浦に注ぐ玄人(くろうと)好みのするエリアだ。川幅は細いが両岸に延々と続くアシ。際の地形が一定しておらず、丹念にルアーを打ち込んでいく戦術が一般的だ。その一方で川面までバスを浮かせて釣るハードルアーでの「巻き物」を得意とするタフな釣りも注目されてきた。

ただ、夏は灼熱(しゃくねつ)のフィールドで有名で、わずかに掛かる橋の下しか日陰がない。試合では自分の体力とバスがどこで涼をとっているのか。過去、新利根川で実施された決勝では、周到な作戦を張り巡らせたバスマンに勝利の女神がほほえむことが多かった。そして、今回も綿密な準備をした上野さんが残りわずかで優勝をかっさらっていった。

上野さんは日刊スポーツのバス大会には、新利根川「松屋」予選で過去3回挑んで「力を出し切れずに縁がなかった」と振り返る。今回は3匹で2940グラムを釣って3位で予選通過した。仕事の都合と度重なる台風の襲来で、プラ(プラクティス=試釣の意味)には決勝の1週間前のペア大会だけにとどまった。上流を攻めたが1キロ超のバスには出合えず「大物は来ないから、上流を捨てた」と下流を中心に決勝のプランをまとめていた。

当日、無風で青空。開始早々に1匹欲しかった。松屋を出て水門付近でダウンショットリグで30センチ前後をキャッチ。太陽があがってからは予想通りにヒットが遠ざかる。水温が上昇してバスが動き始めるのは午前10時過ぎと踏んでいた。ネコリグやスモラバ、そのほかワーム系の手段はすべて試した。「これはワームではダメ。思い切った転換が必要」(上野さん)。水深2・5~3メートルのエリアに軽めのメタルジグを落とした。ガツン! 予想通りにひったくるような衝撃を感じて合わせると44・5センチ。時計を見ると午前10時をわずかに過ぎて、時針と分針が「V」サインをつくっていた。

正午。競技が終了する帰着までちょうど1時間。太陽は真上。逃げ場がない。唯一、橋脚だけは日陰になっていた。この時点で、上流をスモラバで攻めた手塚裕樹さん(36=笛吹市)が計6匹を釣って、3匹2170グラムでトップに立っていた。「あまりの暑さにもうろうとして“神の声”を聞いた気がした。前日プラで釣れていなかったからよくやれた」と話した。

2匹で1400グラム前後の馬場孝介さん(31=富津市)は焦って店前に戻ってきていた。残り20分で橋脚付近でロッドが曲がった。「ようやく3匹。苦戦したけど出し切った」と語った馬場さんは手塚さんを100グラムかわして2270グラムで優勝が一瞬見えた。

馬場さんがロッドを曲げている様子を同じく橋脚狙いだった上野さんが横目で見ていた。ライブウェル(いけす)には3匹いたが2キロには達していなかった。残り時間は数分。深さ1・5メートルの橋脚際にテキサスリグをそっと落とした。ブルーギルの魚影をみつけ、ブルフラットをつけていた。カツンとしたアタリを感じて慌てずに合わせると乗った。

3匹で2320グラム。「正午以降はバスだって涼しい場所に集まる。橋脚の深さの1・1~1・5メートルの勝負。最後の最後で間に合った。作戦通りです」と上野さんは笑顔をみせた。

来年は相模湖が決勝の舞台となる。覇者・上野さんは19年決勝のシード権を手に入れた。「行ったことがない。あいさつにいかないといけませんね」と連覇に向けて狙いを定めていた。【寺沢卓】