<パパかっこいい!大人の釣り>
2人の刀狩り王が決まった。日刊スポーツは、東京湾でのタチウオ釣り大会を「大タチウオ東京湾大会」に名称を変更。部門を「エサ釣り」と「ルアー・フィッシング」に分けて実施した。
ただし、ルールは3匹の重量勝負で統一。エサ部門では久里浜「大正丸」鈴木巌さん(65=横浜市)が3570グラムで、ルアー部門では八景「太田屋」横田一馬さん(35=横浜市)が1580グラムでそれぞれ栄冠を手にした。
<エサ部門>
今回、鈴木さんは拍手を送られる側になれた。
鈴木さん 大会から1週間以上が経過していますが、いまだに優勝したことが信じられなくてピンとこないんです。
タチウオのエサ釣り歴は6年。この東京湾大会も「大正丸」から出られる限り参加してきた。
鈴木さん いっつも80人中、真ん中ぐらいで何位かもよく覚えていない。優勝争いするなんて考えたこともなかった。
何で勝てた?
鈴木さん よしさん(大正丸の鈴木喜忠船長)が一目散に深場を選んでくれたからですね。大タチウオ東京湾大会に参加していない船でさえ、浅場を狙っていたのに、大正丸だけポツンと走水沖。よしさんの見立てはスゴいです。
現場に到着して鈴木さんは「やらかして」しまった。リールの故障で交換を含めて約15分ロスをした。周囲は次々に良型を釣り上げていた。焦ってしまった。
鈴木さん 早くタチウオをキープしたかったので、ハリにエサを縫い刺しにしないで、チョン掛けにした。そうしたら、いきなり宙層で根掛かり? 電動リールが空回りしてウィンウィンうなって、あがってきたのが126センチだった。
タチウオはキバが鋭くてサバの切り身をハリに縫い刺ししても食いちぎられることが多い。それなのに、こころもとないチョン掛けにした。
鈴木さん よしさんに怒られながら、いろんなことをついついやってしまう。以前、チョン掛けにしたら、すぐに食いついた。15分の遅れを取り戻すにはこれしかないと思った。
この大会では、大正丸で個別に釣れた総匹数の審査もしていて、鈴木さんは最多の28匹だった。
鈴木さん やや渋かったけど、28匹でトップとは想像もしてなかった。うれしいですね。あー、ようやく優勝したことが現実味を帯びてきた。ありがとうございました。
勝負を焦って釣り上げた126センチは大会最大魚だった。3匹で3570グラム。「来年も参加します。連覇ですかぁ、目指そうかな」と鈴木さんは柔らかな視線で来年を見据えた。
<ルアー部門>
横田さんだけジグの動きが違っていた。タチウオには、その年の流行の攻略法がある。今年はデッドスロー。タチウオにじっくりジグを視認させて、食わせる作戦だ。この日の横田さんは、最初に攻めた水深15~20メートルの浅場で結果が出なくて、同60メートルの深いエリアに移動していた。周囲はスロー、その中で横田さんはジグを速く巻き上げた。
ガツン。1年前に購入したロッドが弓なりになる。ヒットした。抜き上げると94センチ。大物だ。
横田さん 太田屋はみんなゆっくり巻きでした。釣り座は胴ノ間(船の真ん中)だったから、ここで速く巻いたら目立つだろうなと思いました。でも、まさか、こんなにうまくヒットするなんて驚きです。
横田さんがタチウオ釣りを始めたのは昨年7月。偶然だった。横浜磯子の釣具店を訪れ、店員に「今は何がいいですかね?」とあいさつのように質問した。
店員 ルアーのタチウオなんかいいですよ。
横田さん えー、でも、タチウオの船長とか、何も知らなかったら怒られちゃうでしょ?
店員 「太田屋」の佐野船長は丁寧だし、おそらく楽しく釣りができますよ。
横田さん へぇ~。
その場でタチウオのルアータックルのもっとも値段の安いものを購入した。その翌日、太田屋に行くと、その店員と同船になり、いろいろと教えてもらって、なんとサオ頭になった。
今年も大会前に3回太田屋に足を運んで、すべてサオ頭だった。横田さんは、釣りはセオリーや流行を追わずに、その時の魚の活性を探りながら釣り方を見つけていく手法だ。
横田さん フライ・フィッシング以外はあらゆるエサ、ルアーをやってきた。しかも値段の高い道具ではなくて、安いもんしか使っていない。それでもちゃんと釣れますし、いろんな釣り方を試せば、必ずフィットするものがある。
佐野一也船長 キャリアは浅いけど、横田さんは手さばきはいいね。いろんな釣りをやってきたんだろうとは思っていた。
その瞬間の釣況を切り取れる独創性が、横田さんに優勝をもたらした。