「口が開けづらい」「顎が痛い」「口を開けるとカクカク音がする」といった症状を訴えて来院される方が、コンスタントにいます。「顎(がく)関節症」と称される疾患です。

 判断基準として、(1)口を開けた時に、人さし指から薬指までの3本が縦にすっと入るか(2)開ける際に真っすぐ開くか(3)開け閉めの際に痛みや関節雑音があるか(4)するめやタコといった硬い食物をかんだ際に、顎や顔に痛みがあるか、等をチェックしながら診察します。

 (1)から(4)全てに問題点があれば、顎関節症の危険性があると考えてよいでしょう。特に(3)(4)で痛みを伴う場合、症状が一過性でなければ、早めに医療機関を受診して下さい。

 顎関節症の原因は完全には解明されておらず、歯ぎしりやかみ合わせのアンバランス、むち打ち等の外傷、ストレスといった要因が複雑に絡み合い、強い力が顎関節にかかることで生じるとされています。症状経過にも個人差があり、同じ患者さんでも時期によって症状の種類や程度が変化することがあります。

 治療の原則は「可逆的な治療」です。つまり、その治療による効果が得られなかった際に、患者さんに不利益がない(その治療による被害がない)処置を優先します。具体的にはスプリント療法(マウスピース装着)、理学療法(マッサージなど)、行動療法(歯ぎしりや食いしばり、姿勢の改善などを含む生活指導)、薬物療法(鎮痛剤などの投与)がありますが、これらの治療で症状が緩和する方がほとんどです。

 かみ合わせを良くするために歯を削る、かぶせ物をやり直す、歯列矯正でバランスを良くするといった不可逆的な治療は第1選択ではないと、世界的なガイドラインにも示されています。まずは可逆的治療で痛みが完全に消失するのを確認し、再発につながるリスク要因を除去する目的で、不可逆的治療を徐々に取り入れるのが、安全な方法です。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。