虫歯や歯周病といった一般的な歯科治療を行う際にも、私たち歯科医は「どうしてこうなったか」という推察をしながら診断を行います。視診やエックス線画像からの診断だけでなく、患者さんから日々の状況をヒアリングする問診は、大変重要なヒントになり、全身状態の変化がそこに隠れていることもあります。

代表的なものが口腔(こうくう)乾燥症(ドライマウス)です。唾液量の低下や質の変化によって口や喉が乾燥した状態を指し、「口の中がネバネバする」「パンやビスケットなどの乾いた食品が食べづらい」「味覚がおかしい」「義歯で口の中が傷つきやすい」「口の中がひりひり痛い」といった症状を訴える方が多いのですが、原因は多岐にわたります。

私がこれまでお会いした患者さんの中にも、糖尿病や腎臓疾患、シェーグレン症候群(口や目の乾燥を主症状とする自己免疫疾患の一種)といった疾患が見つかったことがあります。たかが口の乾燥と我慢せず、かかりつけ医に相談してもらうことが早期発見につながります。

これまでの研究で、唾液量の低下を招く要因は「加齢」「かむ力の低下」「常用している薬剤の副作用」だということが明らかになっていますが、いくつかの要因が複合して生じることも当然あります。唾液量が減ると、免疫力の低下を招き、口の中に入ってくる微生物から体を守る力が弱まってしまう…。虫歯や歯周病だけでなく、風邪などの感染症にかかりやすくなることはもちろん、高齢者では誤嚥(ごえん)性肺炎の引き金にもなります。

前述した問診、視診に加え、唾液分泌検査(決められた時間でどれだけの唾液が出るかを調べること)を行うことで、ドライマウスかどうかの診断がつきます。症状の程度によっては専門の医療機関への紹介も可能ですから、自己判断せずに、まずは歯科でチェックをしてください。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。