先日、都内の小学校でインフルエンザによる今シーズン初の学級閉鎖が出たというニュースがありました。名古屋や岐阜、福岡でも学級閉鎖が報告され、今年はインフルエンザの流行が例年よりも早いのでは…と見る向きもあります。マスク装着、手洗いやうがいの励行といった予防策はどなたも講じるかと思いますが、口の中の健康状態がインフルエンザ感染の重症度を左右するという事実はあまり知られていないようです。

インフルエンザウイルスは呼吸に伴って鼻や口から気道に入ります。口の中の雑菌はタンパク質を破壊するプロテアーゼなどの酵素を出すため、不潔な状態であれば、粘膜の弱い部分からウイルスが侵入しやすくなります。特に歯周病の程度が進行しているほど組織のダメージが大きいので罹患(りかん)しやすいといえます。

また、インフルエンザウイルスは口腔(こうくう)内雑菌の出すノイラミニダーゼという酵素を介して増殖します。タミフルやリレンザといった抗インフルエンザ薬は「ノイラミニダーゼの働きを妨げることでウイルスの感染拡大を防ぐ」ために処方されています。雑菌が多いとノイラミニダーゼが増えるため、効きが悪くなります。すでに罹患した方が治癒を早めるためにも口腔ケアは念入りに行った方が良いといえるでしょう。発熱時にはスポーツドリンクなどの清涼飲料水やゼリー飲料に頼る機会も増えますが、糖分によって口の中の雑菌が繁殖してしまっては本末転倒です。

奈良県歯科医師会による調査では、介護施設に入居する高齢者に対し、歯科衛生士による歯磨きや舌磨きといった口腔ケアを徹底したところ、インフルエンザ発症率が10分の1に激減したという報告があります。ウイルスのダイレクトな侵入をブロックするよう鼻呼吸を心掛け、清潔な口を保つことが冬を乗り切る秘訣(ひけつ)と覚えておいてください。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。