先日、雑誌を眺めていると、とある歯科衛生士さんが「大臼歯ファースト」という言葉を使用して、患者さんに口の中の説明をしているという記事を見つけました。最も歯周病になりやすいのが上顎の大臼歯(奥歯)なので、リスクの高いこの部分から、デンタルフロスを使用したケアを始めましょう! というとても分かりやすくて心に響くキーワードでした。

大臼歯のひとつ、最初に生えてくる6歳臼歯(前から数えて6番目の第1大臼歯)は永久歯の中で一番のベテラン選手であるため、比較的早い段階で虫歯になっている人も多く、歯周病以外の原因も含めて、失いやすい歯であるといえます。しかしながら「咬合(こうごう)の鍵」と呼ばれるほど、かみ合わせに重要な役割を持つため、生涯にわたって使えるよう大切に守ってほしい歯です。

初診来院時にこの歯がすでに治療済みであることは、決して珍しいことではありません。詰め物やかぶせ物を入れた際に「保険の銀歯にしますか? それとも目立たない白い材質にしますか?」と聞かれ、その理由を納得がいくまできちんと理解した経験のある方は、案外少ないようです。

それだけの質問であれば、患者さんの大半は「奥歯だし、保険が利く銀歯で良いかな」と判断されるのが妥当でしょう。しかし、実はこの何げないやりとりが、大切なご自身の歯の寿命を左右するかもしれないということは、治療を受ける皆さんに伝える義務があると思っています。

これはどの部分の歯にもいえることですが、治療に臨む前に「どうしてそこまで病気が進んでしまったのか」を一緒に考えてみる必要があります。その要因を取り除かない限り、根本的な解決になりませんし、1度治療を終えても、再び同じことを繰り返す可能性があるからです。次回に続きます。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。