大臼歯(奥歯)は歯ブラシが届きにくいため、磨き残しによる虫歯や歯周病が進行しやすい場所です。それ以外にも過度な歯ぎしりや、歯並びの乱れに起因するかみ合わせのアンバランスなどによって欠けてしまうこともあります。

妊娠中のつわりなどで思うようなケアができず、その後に続く出産や子育てといった過酷な環境で一気に歯を悪くしてしまう女性は少なくありません。個々の理由は千差万別であっても、治療のポイントになるのは病気を招いた環境を改善し、これ以上悪くしないという心掛けです。そのひとつとして、修復材料の選択があります。

口は毎日さまざまな飲食物が通過します。金属を熱で溶かして加工する詰め物やかぶせ物は、口の中の温度変化や咬合力(こうごうりょく=かむ力)によって微細に腐食や変形を起こします。生体内で最も硬く、汚れがつきにくく滑沢なエナメル質ですら穴が開いてしまったようなコンディションでは、再発を起こす危険性があります。

虫歯になれば一回り大きく歯を削らざるを得ませんし、歯周病が進行すれば歯が根元から抜けてしまいます。これを予防するスタンスが、前回ご紹介した「大臼歯ファースト」の考え方です。力がかかれば金属は曲がりますし、腐食してざらついた部分は雑菌やプラークの足場になります。まずは入れた金属の変化をきちんとセルフケアで追うこと。毎日のデンタルフロスを習慣にし、引っ掛かりがあればデンタルチェックを受けてください。

肉眼では確認がしづらく、ブラッシングが困難な奥歯こそ、天然歯に近いセラミックなどの材質を選び、少しでも手入れが楽になる環境に導くことも選択肢のひとつです。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。