口の中にはさまざまな微生物が生息しています。その中にカンジダという真菌(カビの一種)があります。単独では非常に力の弱い常在菌のため、たとえ保有していたとしても体が健康であれば悪さをすることはありません。しかし、免疫力の低下や全身疾患に伴う薬剤の影響等により他の常在菌の勢いが減ると、菌交代現象が生じ、カンジダが増えることがあります。

エイズなどの免疫不全疾患を持つ方以外に、抵抗力の弱い新生児や高齢者にも見られます。特に寝たきりの高齢者は介護状態のレベルが上がるほど、検出率が高くなると報告されています。

口蓋(こうがい=口の中の上側)や頬などの粘膜に白っぽい斑点やコケのようなものが付着している、あるいは口角がただれるという症状があれば、一度診断を受けてください。口内炎と見誤り、軟こうを塗っていてもカンジダは一向に減ることがありませんから、症状に応じた適切な抗真菌薬を使うことは非常に大切です。唾液の中に混じったカンジダを誤嚥(ごえん)することで真菌性肺炎が引き起こされたり、口腔(こうくう)から始まり内臓型のカンジダ症につながることで生命を脅かす危険があるためです。

口が渇きやすい、口腔衛生状態が悪いことはリスク因子になります。さらに義歯(入れ歯)を使用している方は要注意です。義歯の素材であるレジン(プラスチック)は吸水性があり、汚れを取り込みやすい性質を持っています。きれいに保とうと毛先の硬い歯ブラシなどでごしごし磨き、義歯表面に傷をつけてしまってはカンジダが増える足場を作ることになり、むしろ逆効果です。義歯専用のブラシを使ってください。また、就寝時に義歯を装着したままだと、カンジダを含め、あらゆる菌の温床になってしまいますから、寝る前には必ず外しましょう。除菌効果のある義歯洗浄剤に漬けるといった一手間もお忘れなく。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。