睡眠は、うつ病予防の要の1つである。福岡県にある久留米大学の副学長で医学部神経精神医学講座の内村直尚(なおひさ)主任教授に聞いた。8月に発足した「目覚め方改革プロジェクト」リーダーである内村教授がこう警告する。

「睡眠不足の状態は、交感神経が優位な状態。いわばエンジンをかけっぱなしの闘争状態にある。こうしたことが続くと、うつ病の発症につながるのです」

そもそも睡眠不足には、大きく2つの原因がある。1つは、眠ろうと思っていてもなかなか眠れない場合。これは「不眠」といわれる。もうひとつは、「睡眠不足症候群」である。

「前者は、いろいろと努力してみても寝つけない、あるいは夜中に何度も目が覚めてしまうといった場合です。一方で、眠ろうと思えば眠れるのだけど、眠らない人。例えば仕事や受験勉強のためであるとか、夜中にネットやスマホを使っている、夜通し遊ぶ、といったことで睡眠が不足している場合です。後者はいわゆる睡眠不足症候群であり、24時間社会や夜型の生活とともに増えているのです。いずれにしても、結果的には睡眠時間が足りないことにつながってしまうわけです」

交感神経が優位になるとエネルギッシュとなり、脳は活発に働き、体も動く。逆に寝ている間は、副交感神経が優位となり、脳や体を休ませる。

「ヒトは無意識のうちに、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスで生活しているのですが、睡眠がとれないと過緊張状態となる。寝ている時間だけが、ストレスを感じない。寝ることでストレスから逃れられるわけです。副交感神経が優位になると、エンジンを切って休んだ状態となる。エンジンをかけるために休めておく。ヒトはロボットじゃないので、どこかでエネルギーを蓄えなければいけません」

オン、オフがないと、ずっと走りっぱなし。これらがうつ病発症につながることは、多くの研究から分かっている。

「仕事や遊びのし過ぎで睡眠時間を削ると、うつ病のリスクとなり、引き金になり得るということを知ってほしい」