世界初の抗生物質であるペニシリンの発見以降、100年近くがたつ。医療の革命とさえいわれる抗生物質は、細菌の成長を阻止する働きをし、我々を多くの感染症から守ってくれている。しかし今、この抗生物質の乱用により人類は「耐性菌」に脅かされようとしていることをご存じだろうか。

▼新薬が開発されても、細菌はその性質からいずれ耐性を持ってしまう。抗生物質の効かない「耐性菌」がどんどん出現しており、このままでは2050年には1000万人が死亡するとも試算されている。これはがんによる死亡のケースを上回り、世界保健機関(WHO)も強い警告を発している。我が国でも抗生物質の使用を減らそうと手段を講じようとしているが、患者から要求され処方するケースが後を絶たないのが現状だ。

そんな耐性菌問題に対して一石を投じるのが「オゾンを用いた新薬の開発」。オゾンには殺菌作用があり、空気清浄・脱臭や食品の殺菌にも用いられている。特筆すべきは、オゾンの殺菌メカニズムは抗生物質と異なるため、耐性菌が発生しないということだ。私の会社は創業から40年以上オゾンを扱った研究をしており、近年は抗生物質に変わる「耐性菌を作らない新薬」の開発を進めている。昨年、国立研究開発法人科学技術振興機構はこのプロジェクトを、実用化を目指す研究開発支援プログラムの1つに選んでおり、オゾンによる新薬が認可されれば、耐性菌対策はもちろんのこと、感染症治療に大きく貢献できるものと考えている。

▼さらに、オゾンはもう1つ「耐性菌」を防ぐ手段を持っている。それは下水処理の分野だ。抗生物質を投与すれば必ず便や尿を通して体外に排出され下水に流れる。下水処理での汚染物質の除去は完全ではなく、河川から海へと抗生物質が広がり、生体への影響や新たな耐性菌出現の懸念が高まることにもなるのだ。しかしオゾンによる下水処理を用いれば、抗生物質だけでなく抗がん剤などさまざまな医薬品も分解することができる。

オゾンが医療を通し、また水を通して我々を守り、地球環境の保全に寄与することは、地球に元々存在する天然物質、自然を大切にすることへのメッセージでもある。いわば地球そのもののストレスオフにつながるものであろう。