トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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今日は、結論から言います。「白血病とわかるような症状は、特にありません」と。

突然の出血(脳出血や下血)などで来院する方もいますが、多くは疲れやすさ、鼻出血、紫斑(しはん=皮膚の小さなあざ)、発熱、息切れ、食欲不振など、他の病気やいわゆる「風邪」の症状と同じ場合が多いです。

あくまで個人的な経験ですが、「やや喉の痛みが強い感冒様症状」「数週間にわたる倦怠(けんたい)感と食欲不振」の訴えで来院した方が、急性の白血病を発症していました。似たような初期症状のインフルエンザは年間1000万人近く発症するため、年間8000人の患者の白血病を症状だけで見分けることは、ほぼ不可能です。

こんなことも、ありました。診療所や他の病院の採血結果で、急性白血病が疑われた患者さんが、紹介されて当方に来院しました。病院はまだしも、多くの診療所では、採血を検査会社に外注依頼しているため、結果はその日のうちには出ません。検査会社からの緊急報告で、翌日に連絡を受けるケースがほとんどです。

紹介してくれた医師も慌てていますし、来院した患者さんも、息を切らせて結果を知りたがっています。そんな中、診察が始まりました。

わたし どういった症状ですか?(-この方は、ほぼ急性白血病だな…)

患者 いえ、特になんともありません。かかった先生から、必ずこちらに来るように言われただけです。

わたし …。そうなんですね…。(-どうやって説明しよう?)

そんなやりとりになってしまいます。でも、実際には他の病気だったり、検査上の異常だけで健康的には問題のない方もいるので、やはり診断は難しいです。

また、慢性骨髄性白血病や慢性リンパ性白血病は、ほぼ無症状の方が多いです。もちろん貧血や白血球が増えすぎたことによる高尿酸血症の痛風発作や関節痛で来る方もいますが…。

やはり、採血してその結果を説明するとき、みなさんには大変驚かれてしまいます。「特に、ない」症状から白血病を突き止める-。結構、つらい仕事です。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。