トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

  ◇   ◇   ◇  

白血病は血液中の細胞の成分の元になる造血幹細胞が腫瘍化=「がん」になった病気です。がんになると、体の中でその細胞が勝手に増えてしまい、普通の細胞の邪魔をする状態と考えてください。

多くは骨髄という骨の中の血を作る場所で病気の細胞が増えるため、うまく血液の成分が作れなくて貧血や血小板減少が起きてしまいます。また増加した白血球細胞の作る炎症性物質などの影響により、発熱、凝固障害、組織障害を起こします。その結果、だるさや風邪のような症状や、鼻血や下血などを引き起こします。

一般的に、がんは遺伝子の変異によってその細胞を増やす働きをする増殖因子によって引き起こされるといわれます。白血病の中で、慢性骨髄性白血病はまさにこの機序(仕組み)で、「BCR-ABL」(ビーシーアールエイブル)という増殖に関わる遺伝子が融合して発病するタイプです。増殖が盛んな割には、病名が示すとおり「慢性」の経過になります。

逆に「急性」の白血病の多くは、実は増殖がそれほど盛んではありません。急性白血病細胞が増加する一番の原因は、細胞としての寿命の延長なのです。もともと白血球は、成熟すると10日程度で寿命により壊れます。その寿命が延長されることで、骨髄の中で白血病細胞があふれるのです。良い例えかどうかわかりませんが、「急性」は、学生が進級できず留年を繰り返して、卒業できずキャンパスにあふれた状態、と理解してください。これはもう授業が成り立ちません。卒業生もいないので、経営も成り立ちません。

一方、「慢性」は入学定員を増やした状態みたいなもの。教室は混んでいますが一応教育はなされ、卒業生も出ます。教員たちは大変ですが、なんとか経営できる状態となります。しかし、経営者がどんどん入学者を増やすと、教室や教員の限界を超えてしまうと「急性」に近い状態になってしまうでしょう。

医者がわかりやすく説明しようとすると、かえってわかりにくくなったかもしれません…。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。